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 4月20日、リズムゲームVSとは別に新たなARゲームがサービスを開始した。

そのゲームの名前は『リズムドライバー』と言うらしいが、ネット上では内容に関してリズムゲームでやる必要性が感じられない――という意見が相次ぐ。

考えて見れば、別リズムゲームで賛否両論となったアバター機能も本来のリズムゲームで必要なのか――と言われていた物である。

新しい物を叩いて炎上させて新規参入を阻止するような懐古厨が一連の真犯人だった事で一連の事件は解決――と言う事にされた。

こうした四次元の壁等を扱うメタフィクションは――小説ではヒットしにくいので路線変更――と言えなくもないが。

【リズムゲームVSもロケテ段階では炎上していたような気配がする】

【しかし、それを否定しなかった。そして、反省点を生かしたのが――あの時のシステムだろうな】

【結局はアバターシステムってどうなったのか?】

【他社と似ていると言われていて凍結された話だが、結局は修正が入ったようだ】

【しかし、動作関係が――】

 ネット上では、どう考えても炎上させようと暗躍しているまとめサイトが――と言う状況が続く。

こうしたネガティブは――誰が望んだ結末なのか? 芸能事務所が自分達のコンテンツを神にする為だったのか?

結局、こうしたネット炎上やSNSテロは仕掛けた人物がストレス発散や悪目立ちをする為に――と言うのがWEB小説上でも言及されている。

「メーカーの目的が何処にあるのか――」

 リズムドライバーのプレイフィールドに姿を見せたのはカトレアだった。

屋外タイプのARゲームと言う事で、雨天中止もアナウンスされているが――この日は晴天である。

 今回はリズムドライバーのフィールドで使用すると言う事で一般住民を進入禁止にしているが、ここは本来の用途としては市民公園である。

広さとしては周囲1キロにも満たないかもしれないが、そんなに狭い様な公演でもないので――フィールドに選ばれたらしい。

他にもギャラリーはいるような気配だが、大体がARゲームのプレイヤーであってリズムゲームのプレイヤーは――。

(やはり、ARゲームとVRゲームでは意図的に壁を作っている傾向か――)

 カトレアは周囲を見回すのだが、自分に目を合わせようと言うプレイヤーはいない。

周囲のプレイヤーは全てライバルと言うと極論になってしまうが、ソレに近い空気なのだろうか?

(設置されているモニターを見ても、確かに――)

 仕方がないのでセンターモニターのある場所へ向かい、そこで目撃したデモ映像は――彼女にとって驚きの連続だった。

見た目は明らかにSFを連想させ、ジャンルもFPSやTPSと言ったシューティングに片足を突っ込んでいる。

イースポーツで取り上げられているジャンルなだけに、流行している要素を詰め込んだと言う安易な発想も――ネット上で言われているが、その通りだろう。

 しかし、そのSFチックなパワードスーツを装着してプレイしているのは――確かにリズムゲームのソレだった。

何故にリズムゲームでこのような物を発送してしまったのか? 様々な部分で突っ込みたい部分はあるだろう。

「これが――リズムゲームなのか?」

 カトレアのつぶやきと同意見のプレイヤーもいるが、この場では同調できないと言うか――出来なかった事情もある。

彼女としても、それは分かっているつもりだが――色々な意味でも自分だけ孤立している状況に、カトレアは場違いだった事を感じて会場を後にするのだった。

結局――デモ映像を1分ほどチェックしただけで、実際のゲーム内容に触れることはなかったのだが――それは別の意味でも正しかった事を、数日の間で証明されてしまう。



 4月21日、この日は曇り空だったが――午後からは晴れてきたので、特に客足が鈍る事はない。

駐車場は秋スペースもあるが、駐輪場は混雑しているのが『オケアノス・ワン』草加店――。

近くのパチンコ店は駐車場も混雑しているのだが――それを上回る勢いで混雑している気配がしていた。

インターネットランキングのニューシーズンがスタートし、その影響で混雑してきたのである。

「やはり、ランキングの初日は混雑するな」

「新規プレイヤーも出始めているのを踏まえると、ここからか?」

「前回のランキングはガーベラが勝利していた。今回は新規ゲーマーもいる以上、激戦が予想されるな」

 店内のギャラリーからは様々な声があるのだが、特に炎上していた件は言及しない。

それが黒歴史になったという意味ではなく、あえて触れないという意味でも。

(あの事件があった後でもプレイヤーが減らないと言う事は――そう言う認識か)

 受付のモニターから様子を見ていたタチバナは、リズムゲームVSを含むリズムゲームで客足が減っていない事に対し――そう思うようになった。

彼らの結束は、もしかするとちょっとやそっとの事では揺るがない――それこそSNSテロやデマ等と言った物に対して、容易に炎上させて目立とうと言う勢力と同じ道をたどらないように、と。

もしかすると――デンドロビウムが提議したとされる『デミゲーマー』と言う単語には、別の意味があるのではないか――。



 4月25日――この日は様々なゲーマーが集まっている。

そして、センスがないような私服で『オケアノス・ワン』に姿を見せ、リズムゲームVSをプレイしているデンドロビウムは――周囲の度肝を抜いた。

(私は――何の為に、ここまであきらめずに演奏し続けてきたのか――)

 タブレット端末に彼女の指の汗が――と言う状態にはなっていないのは、彼女がプレイ前に自前のタオルで手を拭いた事による物だろう。

彼女の視線が目の前の画面に集中し、ブラインドタッチでプレイしているのは――耳のヘッドフォンを装着してプレイしている影響もある。

 ギャラリーが叫んでいる訳ではないが、何となく状況は理解しているつもりだろう。

店内で最低限守るべきマナーを破るようではゲーマー失格であると同時に――自分が提議したデミゲーマーになってしまう可能性もある。

(私は、このプレイで他のプレイヤーにルールを守ってプレイする事の意味を――)

 上からあり得ない量のノーツが降ってくるのは、ネット上でもゲリラ豪雨と言う異名を持つ発狂地帯だ。

ここを抜ければウイニングランは見えてくるだろうが――。

(これが――到達点?)

 デンドロビウムは目の前の光景を見て、一つのチェックポイントを通過したように感じている。

(そうじゃない。これが――出発。全ての始まり――)

 ウイニングラン――ラストの発狂地帯を抜けた段階で、この結末は分かっていたのだろう。

(長かったプラクティスが終わって、ここからが本番――)

 彼女が達成したのは、リズムゲームVSでも屈指と言えるレベル12楽曲の――フルコンボである。

ある意味でもギャラリーが興奮するのも無理はない。この楽曲は最近になって追加されたばかりであり、アナザー譜面は12と断トツで難しかったのだ。

それを彼女が初めてフルコンボを達成し――文字通りの英雄となる。ただし、達成したのはフルコンボであって理論値ではない。

一方で、この曲の理論値が翌日に達成されたとフェイクニュースを拡散しても――速攻でフェイクとばれてしまうのは明白だ。

それ程に――デンドロビウムが初のフルコンボを達成した事の意味は大きかったのである。



 デンドロビウムと村正(むらまさ)マサムネの対決も、全てが決着した訳ではない。

ムラマサも一連のフルコンボのニュースを受けて、自分の腕を磨く為に猛練習に挑んでいる。

 この世界は決して異世界ではなく、現実の世界なのは間違いないが――まだ、全貌が明らかになっていない箇所があってファンタジー的なご都合主義が残るのも否定できない。

本当の意味でリズムゲームが注目される意味でも、彼らの演奏は――まだ続くのである。そして、ここから真の意味でも演奏が始まると言えるだろうか。

(私たちの戦いは――まだ終わらない!)

 ムラマサは――『オケアノス・ワン』草加店で、そう叫びたくなるような光景を目にしていた。それは――。

「これが全ての始まりになるだろう――」

 彼女の外見は『オケアノス・ワン』にはよくある事――クノイチの衣装だが露出は極力抑えている。

下手に肌を見せて日焼けしたくない――と言う訳でもないのだが、覆面だと不審者がられそうなのでARメットは外していた。

「遅れはとらないが――流行にも流されない」

 彼女のプレイヤーネームはファーヴニルと表示されている。

果たして、それが本当の名前なのかは――。

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