7-2
4月16日、例によって『オケアノス・ワン』草加店には客足が途切れることはない。
駐車場は若干のスペースが空いているようだが、駐輪場は――何時も通りだった。以前ほどにひどい駐輪状態ではなく、若干は改善されているようである。
近くのパチンコ店は新台入荷で行列が出来ているが、それがこちらにまで影響はしていない。
近隣住民からの苦情が来るのを防ぐ狙いか? それともパチンコ店の客を奪うい作戦か?
さすがにパチンコの客層を全てゲーセンへ誘導するのには無理があると言うか――その発想自体が無謀と言える。
そして、店舗内には時間的に学生服の人物はいないので、授業を抜け出す生徒等はいないようだ。
(制服――とはちょっと違うか)
ある通行人が見かけたのは、一目見ると学校の制服に見えなくもないようなセーラー服だ。
しかし、よく見ると布の材質はスクール水着のソレであると同時に――実際にはセーラー水着と言う物の様である。
(紛らわしいな)
(しかし、ああいう制服を実際の学校が採用している訳はないだろう。落ち着いて見れば分かる事――)
周囲の事情を知るプレイヤーも、さすがにこの時間帯で学校をさぼる生徒がいるとは考えにくい――と考えていた。
(架空の制服と言う事か――彼女の制服は)
実在する学校の制服ではなく――アニメやゲームで見るようなデザインの制服を着ているコスプレイヤーは、数例ほど目撃情報があった。
あそこまでカラフルな制服を学校が採用するかと言われると、疑問に残るのでコスプレイヤーだと一般客でも即座に分かる。
コスプレイヤーと言うと、露出度高めな物とかパワードスーツと言うコスプレイヤーもいたが、さすがに入店拒否されるだろう。
店内に設置されたリズムゲームの筺体は機種によって派手な配色であり、まとまりのない――明らかに分かりやすいコーナーである。
これに関してはタチバナも悩みの種の一つと考えているようだが、リズムゲームの仕様と言う事で考えるのを――諦めた。
筺体の形状は様々だが、カラーリングは明るめな物が多く感じられるだろう。
地味な配色の筺体とか清潔感をアピールするような白ベースと言う筺体もあるが、メンテナンス的には評判が良くない。
実際問題として、『ほこりが目立つ』や『汚れをふき取るのが面倒』と言う意見も存在している。
【オケアノス・ワンは――やはりというべきか】
【ここまでプレイヤーに配慮したゲーセンは少ないだろう】
【飲み物の持ち込み可能エリアの区別も出来ているのが大きい。筺体にこぼされると――】
それに合わせる形やプレイヤーに配慮し、LED照明の明るさを調整、敷いてあるカーペットも滑りにくい材質の物を採用、受付に使い捨てのおしぼりの無料自動販売機を置く――。
その他にも透明な割れない材質で出来たパーテーションを一部機種で採用、ヘッドフォン端子を標準装備以外の筺体に外部取り付けをして爆音対策としたり――。
とにかく、リズムゲームに関しては他のジャンルとは違った配慮を系列店で行っている。
それが客足の途切れない店舗を生み出しているのかもしれない。ネット上の評判も――納得と言えるだろう。
(見た感じでは――学生と言うには、明らかに体格が違うだろうな)
タチバナも店内の監視カメラ映像を受付でチェックしており、そこから客層を色々と考えていた。
未成年がまぎれているような事はなく――どちらかと言うとコスプレイヤーの20代が多い印象である。
(コスプレイヤーも多いが――ここはイベント会場ではないんだぞ。それに――)
エスカレーターの方角から2階に姿を見せたのはユニコーンである。色々と思う部分もあるかもしれないが――口には出さない。
入店する途中で真田(さなだ)ソラと鉢合わせになったが、特に何も言われていない。反論もしなかったので、彼女は妙だと感じたが――。
真田としても、ユニコーンの外見である肩掛けのグレー系コート、明るいスカイブルーというメイド服を見て――即座に分かるはずなのに。
彼女の顔はネット上では割れておらず、アバターとは顔が違うのは当たり前。しかし、銀髪のショートヘア、萌えポイントアピール的なあざとい前髪のメカクレも――アバターのままだ。
動画で使用しているアバターと同じ衣装でも――周囲のギャラリーの中には写メを撮ろうとスマホを向ける人物もいる中で、素通りするのは逆に怪しまれかねないのに。
その真田は――このタイミングでネット上のまとめサイトをメタルレッド的な色のタブレット端末でチェックしており、ユニコーンに視線を向けていなかった落ちだが。
(それぞれのプレイヤーには、十人十色と言ってもいい剣がある。それを強引に一つへまとめるなんて――)
真田がチェックしているのはまとめサイトなのだが――特にアフィリエイトで悪質な物ではなく、正常なサイトである。
どの辺りが正常なのかと言われると――情報源が信頼ある物を使用している箇所だろう。大体のアフィリエイト系サイトが無断転載である事が多い中で――この対応は非常に大きかった。
ネット上では『誰もが有名になれる』とも言われていた『リズムゲームVS』だったが、その真相を知ってからは素人が近づく事は減った。
その一方で腕に自信のあるプレイヤーが――自身の腕を磨く為の特訓用としてプレイするケースが目立つ。
実際、ユニコーンを初めとした動画サイトで話題となった2.5次元のゲーム実況者のバーチャルゲーマー、更には腕に覚えるあるプロゲーマーが目を付けていた。
ある人物は他のゲームで不調になった流れを変える為、また別の人物は違うジャンルのゲームを開拓する為――様々な理由で挑んだと言う。
【最近は別のARゲームが注目されつつあるな――】
【飽きたんじゃないのか?】
【飽きられたら、それこそ客足が途絶えるはずだ。途切れないのはおかしい】
【一体、何が起こっている?】
【まとめサイトでは詳しい情報が得られないな。直接来店する必要性があるようだが――?】
【その必要がないような動画を発見した。これは――!?】
リアルチャットや実況スレのようになっていた一連のやり取りでは、ある動画を発見した事で状況が変化した事が分かる。
誰の動画を見たのかどうかはURLも確認出来ない為――詳細は不明だ。
その一方で、ユニコーンやガーベラと言ったプレイヤーに憧れてバーチャルゲーマーになろうと言うプレイヤーも出始めている
さすがにユニコーンも頭を抱える案件なのだが――関心を持つ事は悪くない。しかし、単純な理由で簡単になれる訳ではないのは――。
(歌い手や三次元実況者とかの夢小説――それを未然に防ぐ的な目的なのに、こうまで増えると何がどうなってるのか)
ため息を吐きたい気分だが、テンションが下がっていると周囲に認識されそうなので表情は変えない。
ポーカーフェイスは得意分野ではないのだが――本音を漏らしてネット炎上するのは、彼女の本心ではないだろう。
(さて、次はどうするべきか――)
彼女は既に次の手を考えていた。スコアトライアルでも上位い入れない事もあり、焦っている訳ではないのだが――。
「こうもタイミング良く彼女が来るとは――」
若干胸の辺りの布を少し引っ張るが――特殊素材かのように伸びっぱなしにはならず、ゴムのように手を離すと戻る。
彼女が着ているのは紺色のスクール水着、それも特殊形状の物だ。下半身辺りは――色々と見えないように配慮されている形状で、特に街中で歩いても問題はない。
ただし――コスプレイヤーがコスプレ衣装のままで歩けるのは草加市内の限定エリアのみで、これには認められた店舗も含まれる。
隣のパチンコ店は禁煙などの関係でNGだが、その目の前に立っているであろうコンビニは問題がない。
おそらくは、コスプレイヤーにも一定のモラルを守ってもらおうという狙いがあるのだろう。
彼女の名は村正(むらまさ)マサムネ、そこそこ有名なバーチャルゲーマーである。
彼女もアバターデザインはユニコーンと似たりよったり、それこそある程度の衣装カスタマイズだけで済ませていたと言える物だ。
しかし、ユニコーンが来店し始めた時期で思う所があり、イメチェンを兼ねてメカクレは止めている。
それ以外の箇所は変え過ぎても分かりづらくなる理由で変更はしていない。
「ここ最近はバーチャルゲーマー出身のプレイヤーも増えつつある――それは良い傾向か」
ムラマサは周囲の視線を気にすることなく、センターモニター近辺まで歩き始め――エントリー操作を行う。
手慣れた手つきで順番通りに操作を行い、特に大きなトラブルを起こす事なく整理券を発行した。
周囲が拍手をしたりはしないが、心の中ではしているだろう。ムラマサを見たプレイヤーは動画の時と口調が違う事にも気付き始める。
(あえて中二病な口調は封印しているのか――)
あるギャラリーは、そう考えている。この意見に関して言えば、少数派や数名程度の意見ではない。
しかし、面倒なので中二病の使用頻度を下げている可能性もありそうだが――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます