第7話『バーチャルゲーマーとプロゲーマー』


 4月1日、この日はエイプリルフールと言う事でネット上が別の意味でも盛り上がる。

しかし、リズムゲームVSの場合は特にイベントは行わなかったと言う。行ったとしても、ある意味で悪い冗談と受け取られかねない可能性も否定できなかったから。

エイプリルフールだろうと、『オケアノス・ワン』草加店には関係がないだろうが――。

「ここ最近はプロゲーマーも進出が激しいと聞く」

「ビスマルクがいた当時は――他のゲームから流れてくる事がなかったのか」

「リズムゲームの敷居が高かったという事なのだろう?」

 センターモニターに集まっているギャラリーの声を聞くと、プロゲーマーが今まで進出しなかった事にも理由があるようだ。

モニターの方はリズムゲームVS以外の別ゲームに使用されており、そちらの映像が表示されていない。

映像が表示されないのは、設置されている3台が全て中継設定をオフにしている事かもしれない。

2台はプラクティス及びチュートリアルをプレイ中の為だが――。

(しかし、プロゲーマーでもプラクティスを飛ばしてのプレイする気配がないとなると――)

 受付にある監視カメラ用のモニターで様子を見ていたのは、タチバナである。

彼も数時間後には格闘ゲームの方を見てこようかと思ったのだが、リズムゲームVSの思わぬ混雑具合に驚いている感じだった。

プレイヤーの姿を見ると、一見してプロゲーマーとも思えないが――周囲のプレイヤーが動揺している様子等で察したようでもある。

(リズムゲームは、やはり敷居が高いという認識なのか)

 タチバナもプロゲーマーが進出する事に反対意見はない。

しかし、大抵のプロゲーマーがFPSやアクション系、対戦格闘に偏り過ぎている。イースポーツで広まっているのも理由かもしれないが。

彼の目つきは、明らかに別の何かを――予言しているようでもあった。



 それから3週間近くは経過しただろうか?

様々な事件が起きては、ネットで炎上を繰り返し――それこそリズムゲームVSの上層部が懸念した展開を生み出した。

リシュリューの逆襲、アイドル投資家勢力の暴走、暴走するマスコミ、特定アイドルファンによるなりすましアンチ活動――そう言った事件が起きつつも、リズムゲームVSは運営を続けている。

こうした事例は――WEB小説上でも言及されており、まるでシナリオ通りに話が進んでいるような気配さえ思わせた。

 プレイヤーに関しても様々なプレイヤーが現れては、一発屋で消えるプレイヤーもおり――現在も残り続けるプレイヤーもいた。

それ程にリズムゲームVSで生き残るにはハードと言えるのかもしれない。しかし、政治的駆け引きや芸能事務所の金に物を言わせるこり押しマーケティング――超有名アイドル商法もいらないだろう。

リズムゲームで求められるプレイスタイルは、純粋にリズムゲームを愛する事――それも筺体を破壊するようなクラッシャー、特定作品に対する宣伝行為、まとめサイト勢力――そうしたプレイヤーもこの場には必要ない。

むしろ、現状で価値があるとギャラリーが認めているプレイヤーは、デンドロビウムやビスマルクの様なプレイヤーだった。



 その状況下で、ある事件が起きる。それはデンドロビウムをジャイアントキリングしたガーベラの存在だ。

ガーベラ自身は『偶然』と語る程に僅差の勝利だったのである。実際、インターネットランキングでも集計期間や対象曲で滑り込めた可能性も否定できない。

過去にも兆候はあったのだが――ソレは現実に起こったと言えるだろう。ネット上も祭りとなっている事からも――。

【予想外の展開だったな】

【ああ。ガーベラのプレイも想像以上だったが――】

【あれほどの実力者がリズムゲームVSにいたとは】

【こっちだって予想外過ぎる。デンドロビウムが勝つとばかり思っていた】

【これは別の意味でも波乱の展開になりそうだな】

 ネット上でも一連の話題は拡散している状況であり――これこそ、運営側が求めていた反響なのだろうか?

しかし、この動きに関して『これも炎上の可能性を秘めている』と言及するサイトがあるのは事実だ。

こうした意見を少数派と切り捨てて、多数派の意見ばかりに媚びるのも――何か違うと言わざるを得ない。

どちらにしても、これに関して言えば真田(さなだ)ソラの動向が待たれる。

(コンテンツを運営していくと言う事は、どちらの選択をしても賛成派と反対派の意見に別れるのは避けられない)

 真田は一連の動向を様子見しているような視線で――まとめサイトをチェックしていた。

結局、こうしたサイトを根絶しない限りは正しい意味でのコンテンツ流通は夢の話なのだろうか?

それこそ『デウス・エクス・マキナ』のような存在がコンテンツ業界を操作していくのが正しいのか?

芸能事務所AとJによるコンテンツ支配は『コンテンツ業界におけるディストピア』とWEB小説でも表現され――アンチ勢力のテンプレ手段となってしまっているかもしれない。



 4月15日、天気は晴れなのだが――『オケアノス・ワン』草加店の客足は全盛期よりも減っているように見えた。

それだけブームが落ち着いたとも判断できるかもしれないが、デンドロビウムがガーベラにジャイアントキリングされた事も原因と考えるプレイヤーもいる。

「まとめサイトでは大きな動きもない。悪質な運営者がBANされたのもあるかもしれないが――」

 近くにあるコンビニ前でタブレット端末を片手に、一連のニュースサイトを見ていたのはビスマルクだった。

ゲーム外の話題は専門外を貫くのだが、今回は状況が状況だけに放置が出来ないのも事実だった。

 しかし、下手に介入すればネット炎上やSNSテロが起こるのは明らかだろう。

【どちらにしても、これに関して言えば真田ソラの動向が待たれる】

 この一文をビスマルクは、表情一つも変えずにチェックし――すぐに別の記事へ切り替えた。

一体、ビスマルクは何を思っていたのか――。周囲のギャラリーも似たサイトを見ているようだが、こちらはSNSへ拡散して承認欲求を得ようとしている。

「まとめサイトの煽り文句や炎上を想定した記事に対し、いちいち文句を言うのも――ワンパターンね」

 その後、彼女はコンビニへ入る事無く、『オケアノス・ワン』の店舗へ向かう。

自転車に乗ってきた訳ではなく、彼女は途中のバス停がコンビニに近かったので――そこで降りたにすぎない。

ビスマルクとしてはバス移動をしたかった気分だろうか?

 バス停にはながらスマホでバスを待つ人間もいるが、そう言った人物と視線を合わせる事はしない。

下手に関われば――どうなるのか容易に想像できたからだ。

「こうしたワンパターンが小説サイトで人気があると言うのも――」

 更に一言、思う部分はあったのだが――今はそれどころではない。

リズムゲームVSは政治の駆け引き道具でもなければ、超有名アイドルのブレイクに利用されるかませ犬コンテンツでもない。

それは――何度も『過去の事例』や『アカシックレコード』で言及されていたのだから。



「これも一種のメタ発言――そう言う認識か」

 同日午前11時――真田(さなだ)ソラは別ゲームの様子を見る為に『オケアノス・ワン』草加店へ向かい、入口まで到着した。

真田も同じまとめサイトの記事をチェックしており、入店前にタブレット端末を片手で持ちながら――だが。

入店しようとした際に着信音が鳴ったのでタブレット端末をチェックしたら、このサイトのURLをショートメッセージ経由で流れてきた。

誰が流したのかは不明だが、上層部と言う事はないだろう。そんな事をしても嫌がらせと受け取られるからである。

「向こうの事件は向こうの事件で放置すべき――そう限らない世の中になってしまったのか」

 他のまとめサイトURLも一緒にメッセージに含まれていたのでチェックしたら、案の定とも言える物だった。

以前にスキルシステムを凍結された際、その通報手段で使われたシステムと似たような物を『嫌いなコンテンツを消す方法』として紹介されていたのだ。

これにはさすがの真田も怒り心頭と言うべきなのだが――怒りの感情のままで発言したら、それこそアンチ勢力に消されかねないだろう。

下手な発言も、まとめサイト勢力等からすればヘイトスピーチとして拡散し――アフィリエイト収益を得る為の資金源になるかもしれない。

 SNSテロの正体――それは、アンチ勢力による自分だけの世界を創造しようと言う――いわゆる夢小説を現実化する的な物であり、いわゆる白けるタイプのご都合主義だ。

真田の目的、それはSNSテロや炎上勢力を生み出す元凶とも言えるアンチ勢力の根絶にあるのだろうか――?

(やはり、普通にリズムゲームの運営をさせてもらえるほど――現実は甘くないのか)

 真田は――各プレイヤーのモラルに頼る事も限界を迎えていると――。

やはり、強硬手段を取らなければコンテンツ業界は芸能事務所AとJの都合で蹂躙されてしまうのか?

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