6-3
「そもそも、別のゲームにアバターを導入した理由が分からないのだが――リズムゲームに重要か?」
店舗内にいたプレイヤーの発言だが――これを聞いたある人物が接近しているようにも感じられる。
「アバターは一種のプレイヤーを表すアクセサリー要素が強いゲームもあれば、重要な存在のゲームもある」
そのプレイヤーにツッコミを入れるかのように姿を見せたのは、カトレアだった。
彼女も既に『オケアノス・ワン』草加店へ入店しており、別の目的があったのだが――。
「重要だと言うのであれば、説明して欲しい所だな」
プレイヤーの言いたい事は分かる。アバターと言う概念のないリズムゲームの方が多い為なのかもしれないが。
中にはノーツのライン代わりにアバターが動き、それに合わせて演奏する物だってある。
それでも――アバターを単純にシステムの一種とは認めたくないプレイヤーも数人いるらしい。
アバターと言えば、ドレスのカスタマイズをしていくタイプのリズムゲームでは重要視されているが――リズムゲームVSは、そちら路線とは違うはずだ。
年齢層を踏まえるとすぐに分かるのだが、実は――この段階で認識違いをしている、と言うのがカトレアの考え方である。
実際の所、リズムゲームVSでアバターを導入しなかった理由はプレイヤー層の関係ではない可能性があるのかもしれない。
「いいだろう。この機会だ――」
他のプレイヤーがアバターに価値を見いだせないという趣旨のコメントを目撃している関係上、カトレアの方も危機感を持っていた。
その為、彼女はセンターモニターへと接近し、そこである動画を再生し始める。
以下、その動画の解説である。解説者の声は――カトレアではないのだが、声は似ているので――と見ているプレイヤーたちは思った。
『この動画を見ていると言う事は――君たちはアバターについて知りたいと言う事だな』
『映画のタイトル? 他のリズムゲームで見た? この作品におけるアバターは、そう言った物とは一味違う』
台詞だけだと思ったら、次の瞬間には動画に人物が現れた。
その正体は――
バーチャルゲーマーだったのである。これには別の意味でも驚きの声が上がりそうなものだが――反応は微妙だった。
あえて反応はしないようにと言う指示があった訳ではない。
それに加えて、仕込みでもなく――本当に知らないだけかもしれないだろう。
『私の名前はアルタイル――このゲームの案内人とも言える存在だ』
これにはさすがに衝撃を受けた。何と、動画の人物はアルタイルだったのである。
しかし、そのアルタイルとは――若干のデザインが異なるのに加え、ネット上で目撃事例のあるアルタイルとも違う。
もしかすると、この動画はロケテスト当時か稼働初期のアルタイルを使用した動画なのかもしれない。
もしくは、これが本来のやりたかったリズムゲームVSなのか――。
『君たちの使用するガジェットには――必ずと言っていい程に存在するのが、このアバターだ』
アルタイルが右手を開くと、そこには10センチ~20センチほどのCGのフィギュアが姿を見せた。
その形状は西洋の騎士を連想するような物であり、どちらかと言うとリズムゲームよりはファンタジー系アクションゲームで見るようなタイプだろう。
『どう考えても違うジャンルのゲーム? 確かに、そう見えるかもしれない。しかし、これが君達の使うアバターだ』
『ARゲームではリアルでコスプレするような形だが、これはARゲームではない。どちらかと言うと体感ゲームだが、大層にVRと言えるような物ではないだろう――ネット上の認識は別として』
次にアバターの色が変化し、赤、青、黄色で分けられていく。
『赤のカラーになっている部分がヘッド、帽子や兜、ヘルメットが該当する』
『青のカラーになっているのはボディ、鎧、パワードスーツ、ドレス、コスチューム等だ。裸には出来ないぞ』
『黄色のカラーになっているのはブーツ、この装備を変えるとスピードが変化する訳ではない。重量と言う概念がある訳ではないからな』
それぞれの解説が終了すると、今度は3つの武器らしきものが表示される。
普通の
リズムゲームでは、ここまでの武器が出てくるような物はない。まるで、FPSやバトル系のキャラゲーを連想させるような物だ。
リズムゲームVSでもシステムが複雑化する事を理由にアバターは実装保留となり、その代わりにスキルシステムが導入されたと言ってもいい。
『武器の形状は大きく影響しないが、近距離、中距離、遠距離でスコアの倍率が異なる』
『――武器に関してはプレイヤーを選ぶだろう。自身がなければ、近距離ではなく中距離で慣れる事をお勧めする』
『だからと言って、レアな武器を使えばハイスコアも余裕――そう考えるプレイヤーもいるかもしれないが、リズムゲームはアイテムで決まるものではない。最終的に頼れるのは、自身の腕だ』
この他にも様々な情報が込められていたが、あまりにも解説が難し過ぎて没になった可能性も高いだろう。
周囲のプレイヤーも順番がきたプレイヤーは離れて行ったし、別のゲームへ行ったほうがよさそうと考えたプレイヤーは他のゲーム筺体へと移動している。
しかし、この動画が流れた辺りで新たに足を止めたプレイヤーもいた。去る者もいれば――と言う法則である。
「色々と言いたい事はあるが――こうした解説を見るよりも、チュートリアルや実際のプレイで慣れろ――と言うのを言いたかった」
カトレアもギャラリーの集まり具合を見てやり過ぎたと考えている。
丁度、遠くの方でビスマルクの姿も見えたので――この辺りで切り上げないと何か言われる気配がしたのかもしれない。
(やはり、アバターシステムが何処かのゲームと似ていたような様子も感じられなかった。では、どうして――)
ビスマルクは先ほどまでの動画を見て、システムにパクリと考えられるような物があったのか――と。
一部のプレイヤーは『別のゲームと似ている』と書かれていたまとめサイトが間違っていたのではないか、とも感じていた。
つまり、リズムゲームVS上層部は強迫的な物を偽の申告で感じ取り、スキルシステムを強制的に取り下げた――とも考えられる。
(この動画を踏まえると、やはり偽の申告や妨害工作で――と言うのが有力と言うべきか)
さりげなく、この動画をタチバナも見ていた。仕事中と言う事もあり、すぐ持ち場へ戻ることにはなったのだが。
それ以外にもアバターシステムが凍結された理由が、虚偽申告だった事を――この動画を見たプレイヤーは少しでも思う事になった。
「これは別ゲームでの事例だが、チュートリアルや説明の類を飛ばしてプレイして――クレームを飛ばすと言う様な連中もいる」
カトレアはふと別の場所に視線を向けつつ、他のプレイヤーに対して語りかけているような口調で――話を続ける。
《スキルシステムに関しては、運営側の見解の相違で凍結をしておりましたが、無事に公開出来る運びとなりました》
《今回の一件に関してご心配をおかけしました事、この場を借りてお詫び申し上げます》
公式ホームページにはリズムゲームVSのスキルシステムに関するお知らせが別リンク扱いで公開されている。
別リンクと言うのは、そのページがトップページに公開され続ける事も――と言う事らしい。
内容に関しては簡略的に表現すれば――。
《ネット上の炎上目的とした虚偽報告に運営側が真偽を確認せず、凍結ありきで動いたために担当がチェックをする前にシステム凍結を強行した》
ここで言う担当とは真田(さなだ)ソラの事である。
彼女としては、明らかに偽の報告だと言う事は認識していたような気配もするのだが――。
そして、一連の炎上で謝罪を行い――大炎上やSNSテロが起きるような事態は回避したのである。
(繰り返させはしない。特定の――悲劇の連鎖を金儲けに悪用しようと言うまとめサイト勢力の思う様には――)
既に『オケアノス・ワン草加店』へ到着していたアルタイルは、そんな事を考えていた。
彼女は――ネット炎上をいわゆるSNSテロと認定し、それを根絶しようとしている。
しかし、その行為はデンドロビウムが『デミゲーマー』と言及した件と同じなのではないか?
単純に『デミゲーマー』は単語が独り歩きしている可能性もある一方で――悪質なまとめサイト勢によって真実が歪められている可能性も――。
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