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 3月24日、古今東西のバーチャルゲーマーが出そろい始めていた。この状況は、ある意味でも過去に起こったアイドル戦国時代を連想させる。

これを炎上の材料として自分達の推しアイドル人気上げに利用しようと言う人物は多数派。

中にはアフィリエイト系まとめサイトで虚偽の情報を混ぜて意見の誘導を行ったり、更には洗脳じみた工作や煽り記事、挙句の果てには物理テロまがいの事件まで――。

結局は迷惑行為を行う様なファン――デンドロビウムの言う『デミゲーマー』と言うカテゴリーに当てはまる事例は、根絶される様子がないのがニュースサイト等を見ても分かる。

「そんな事をすれば、自分達が炎上するだけだろうに――」

 一連のスレをスマホで見ていたのは、現在も作業中の真田(さなだ)ソラだ。

作業と言ってもゲームバランス調整や新イベントのアイディア――と言った物ばかりで、大きな作業は特にない。

 彼女はスキル解禁から一連の動きに何かの陰謀を感じていたのだが、リズムゲームVS運営サイドからは――。

「陰謀? それこそ、ライバル会社をライバルとして見ていないと言う被害妄想だろう」

「こちらとしても事件性はないと考えている以上、この話はここまでだ」

「下手に騒ぎを大きくすれば、我々のメーカーブランドに傷が付く。それを修復するのに莫大な時間と金がかかるのは、君も分かっているだろう?」

 上層部からは様々な意見も出ていたのだが、結局は事件性もないので警察に通報しないとの事だ。

過去に一部のコンテンツで行われたデジタル著作権の虚偽申告では、賠償にまで発展した事例があったが――。

最終的にはそこまで大きく炎上しなかった事もあり、訴えないという結論になったという事である。

 この対応に対し、真田は上層部の出した回答と言う事もあって――反対する事無く、従う事にした。

下手にトラブルを起こせば、それこそファンに対する裏切り行為と認識されかねない事情もあった為である。






 3月25日、ある人物が『オケアノス・ワン』草加店へと姿を見せた。これには周囲のユーザーも驚いている様子だろう。

ネット上では他所における目撃例も数例あり、彼女の実力はプロゲーマーにも匹敵するとも言われていた。

【アルタイルの目撃事例が出たらしい】

【何処だ? また松原団地か】

【あるいは竹ノ塚かもしれない】

【秋葉原かもしれないぞ】

【大手ゲーセンに姿を見せている話があったが、今回は何処だ?】

【確かに大手かもしれないが――場所が場所だけにネット上で拡散していない可能性が高いぞ】

【どういう事だ?】

【その場所は――オケアノス・ワンだ。しかも、ユニコーンを初めとしたバーチャルゲーマーも出没している草加店と聞く】

 ネット上のつぶやきサイトを見て、慌てていたのはカトレアである。

まさか――アルタイルまでもがあの店に姿を見せるとは。それだけ有名所のプレイヤーが集まりつつあるのだろうか、あの店舗に。



 青色のトレンチコートに、その下はコートに合わせたと思わしき改造メイド服――周囲の似たようなメイド服のコスプレイヤーと比べても、服装が浮いているのは明らかだ。

カチューシャ等のメイドで特徴的なアクセサリーは確認出来るので、メイドのコスプレではないと言えなくもないが――。

しかし、以前の目撃事例とは服装が変化しているのも気になっていた。あの時のアルタイルは偽者なのか?

 本来であればトレンチコートは冬に見かけるような物だが――彼女の着ている物は特注品なのかもしれない。

その証拠として――改造メイド服を隠す為のコートとしても使用されている。トレンチと言う割には、布は厚めではなく――。

(本当にアレをトレンチと言うのか?)

 別のコスプレイヤーがアルタイルを見て、若干の疑問を抱く。

改造コート自体は珍しいものでもないし、まだ春と言うには若干の寒さも残るだろう。

それなのに――あの材質なのが、このコスプレイヤーには気になったのかもしれない。



 自動ドアが開き、アルタイルが店内に入ると――走らず歩かずという速度でエスカレーターに乗り、2階のエリアへと向かう。

おそらくは、彼女の目当てもー―リズムゲームVSなのだろうか? 周囲のコスプレイヤーに視線を向ける事がなかったのも、若干気になる。

 そして、彼女はリズムゲームVSの一角に到着し、センターモニターの整理券発行の操作もそつなくこなす。

《整理券を発行しました》

 センターモニターの対応も慌てることなく、手早く整理券を発行したのも驚きだが――それ位では周囲の反応も大きくない。

その様子からも、彼女を相当なプレイヤーと考えているギャラリーもいた。

(番号的には、30分位は待つか――)

 自分が腕にしている時計でもタブレット端末でもなく――アルタイルはセンターモニターの時計表示に視線を向ける。

時間には余裕があるのかもしれないが、格ゲーやFPS、クイズゲームをプレイしているような余裕はないのかもしれない。

「アレはもしかして――」

「信じられない!?」

「夢でも見ているのか?」

「ネット上でも有名な、あの――」

「まさか、直接見られるとは思わなかった」

 周囲からも声が聞こえ始めているが、それに耳を傾ける事はない。完全な無視と言う訳ではないようだが――耳を傾ける価値がないと言う事か?

それ程に雑音を徹底的にシャットアウトしている――その真相は不明である。

(なるほど――そう言う事か)

 その様子を遠くから見ていたのは、ユニコーンだった。

まさか、アルタイルまでここに来るとは彼女としては予想していなかったからである。

彼女は何時もの動画時のアバターと同じ服装だが、もはや視聴者からもツッコミが入れられるような気配はない。

これに関しては、周囲が慣れてしまったと言うべきなのか?

(しかし、これが実際に使えるようになっているとは――リズムゲームVSに何があったのか?)

 彼女が別の意味で驚いたのは、カスタマイズしたスキルがそのまま使用できたことである。

本来であれば用意されたスキルでカスタマイズをする範囲ならば問題はなく、それ以外のガジェット取りつけなどは違法改造として禁止が明言されていた。

これには、他のリズムゲームで使用可能なアバター類、カスタマイズアイコン等も該当する。

 しかし、ユニコーンがタブレット端末で表示しているデモ画像では――明らかにバーチャルゲーマーとして登場している姿のまま。

これに関してはリズムゲームVSではなく、別のリズムゲームで録画した動画なのだが――。

(一応、使えると明言された以上は――使わない理由はないだろう)

 その後、アルタイルが別のゲーム筺体へ移動した辺りのタイミングでユニコーンはセンタモニター方向へ進み、整理券を発行していた。

順番としてはアルタイルの後だが――。

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