5-3


 ユニコーンがセンターモニターでインターネットランキングを検索した際、1位にランクインしていたのは――リシュリューと言うプレイヤーだった。

センターモニターでランキングをチェックし、自分が首位である事に酔っていた男性プレイヤー、彼がリシュリューだと周囲は認識する。

「次のトップランカーは――自分だ」

 堂々と宣言する割には、口だけで言うならば簡単と言う事で信用はされていない。

そして、彼は実際にプレイで証明する事にする。



 15分経過し――周囲のギャラリーも驚きを隠せないでいた。このプレイでリシュリューと名乗った男は嘘をついている様子ではない事が証明される。

スコアに関しても非常に高く、プレイした難易度もレベル7、6、7の順番――気になったのは、『ある特徴』がある3曲目の譜面を難なくクリアした事だろうか。

「プレイ技術も申し分ない」

「口だけのプレイヤーと思っていたのに――」

「まさか、3曲連続で理論値とは――」

 周囲のギャラリーも言葉を失う様なプレイだった。

視線はタブレットではなく画面の方を向いている。つまり、ブラインドタッチ――。これには筺体の近くで見ていたプレイヤーも驚く。

アバターシステムが使用できない状態の為か――プレイスタイルは、自然と他のリズムゲームで慣れていると有利に働くのだ。

そう言ったプレイになっているのは彼に限らない。実際、歴戦リズムゲーマーであるデンドロビウムも該当するだろう。

「見たか? これがトップランカーのプレイだと言う事を。バーチャルゲーマーの様な2.5次元ゲーマーよりも、現実の――リアルのプレイヤーの方が――」

 何かを他にも発言したさそうな男だったが――。

「持論を語るのは勝手だが、リズムゲームに政治思想とか推しアイドルのゴリ押しを持ち込んでは欲しくない」

 それを遮ったのは次の順番待ちをしていたビスマルクである。男性プレイヤーも拳を振り上げようとするのだが――そんな事をすれば自分が出入り禁止になる。

プレイヤーの前で見せる初プレイと言う事もあるので、彼は拳を振り下ろすのを辞める事にした。

(ここは抑えなくては――あと後に影響するだろう)

 下手にブランドイメージが傷つく事は、これからの活動に支障が出るだろう。

それに加えて――自分がこれから活躍するフィールドで炎上騒動を起こせば、明らかに自分が排除されかねない。

「貴様はバーチャルゲーマーではないようだが――。腕前は――自分のかませ犬にすらならないのだろうな」

 あからさまな挑発の一言を聞いたビスマルクは、さすがにスタッフに通報しようとも――。

しかし、こちらも出入り禁止になるのは痛いので我慢する事に。物理で訴えなくても、他の手段で訴える事は可能だろう。

それでも――後に悪影響が出る手段を取れば、こちらも打撃を受けかねない。お互いに考えている事は同じだった。

「その言葉、そっくりそのままブーメランする事を――忘れないでもらおうか」

 しかし、彼女は自分のプレイで目の前のリシュリューと名乗る人物を黙らせる事にした。

SNS上で非難するのは簡単だが、一歩間違えれば対象としていないプレイヤーも傷つけかねない。

それ程にSNS上での発言には慎重であるべきなのだ。昨今の誹謗中傷問題やネット炎上は、一時的な感情で動いてストレス発散を目的とした事が――大問題だったのだろう。

「ブーメランだと?」

「そのままの意味だ。それ以上でもそれ以下でもない――」

 ビスマルクはリシュリューに視線すら向けず、そのままゲーム筺体の方へと歩き――プレイの準備を始める。

彼女の眼は、ある意味でもリシュリューが闘争心に火を付けてしまった――と言うべき状態だろう。



 15分後、リシュリューの目は踊っていた――と言うよりも、ビスマルクのプレイを見て逃げ出しそうな勢いだった。

1曲目、2曲目、3曲目でも彼女の表情は真剣そのものであり、手抜きをするような状態でもない。

リシュリューと名乗ったプレイヤーよりも、ゲームに対しての真剣さは読み取れるだろう。

向こうは手抜きをしているような展開もあっただけに――彼女のプレイは周囲も認めるような物だった。

「馬鹿な――レベル8、9、10のフルコンボだと?」

 自分よりも譜面のレベルは高い物をあえて選び、ビスマルクは3曲ともフルコンボを決めたのである。

その腕は――まるでリズムゲームVSの筺体をピアノか何かとイメージしている位――。しかし、彼女は天才ピアニストと言う訳ではないだろう。

(あり得ない。あれだけの精密機械ぶりのプレイスタイルこそ――尚更ありえないだろう)

 自分よりも上の難易度を選んだのは周囲のプレイヤーが高難易度を好む傾向だった――という事にしたとして、全部をフルコンボなんてあり得ない。

それこそ、ビスマルクがチートをしたのではないか――と疑われるのもおかしくないのに。

「これがプロゲーマーか」

「しかし、プロゲーマーでも1プレイだけで楽勝なゲーマーはいないだろう」

「それこそ、WEB小説の俺TUEEEだな。ビスマルクは、そう言った印象を持たない」

 あくまでも、ビスマルクはプロゲーマー。今回のプレイでは何時ものコートを肩にかけてプレイするスタイルではなく、コートにそでを通した状態でのプレイである。

彼女は本気でリズムゲームVSに挑み、その結果として高レベル譜面のフルコンボを達成した。

 そして、そのプレイもチートの様なプレイではない。

複数回以上の練習等を重ねた上での努力の結果――彼女のゲームに対する取り組み方は、他のプレイヤーも見習うべき箇所があった。

「信じられない。あの譜面はウィキ等でも難関と言われているはず」

「それを難なくフルコンボ――どんな努力をしたのか?」

「これが、プロゲーマーの実力なのか」

【あのプレイヤー、どういう事だ?】

【これを中継ではなく実際の現地で見たかった。さすがに埼玉では遠い】

【これがプロゲーマーの意地なのか?】

 周囲のギャラリーや中継で見ていた動画勢も動揺を隠せないでいる。

その反応は、先ほどのリシュリューのプレイを忘れさせるような――あっという間に上書きしているようでもあった。

ビスマルクの顔には汗一つもかいていない――恐ろしいまでに、驚くような表情でもある。



「プロゲーマーだからじゃない。これは、努力の成果――リズムゲームは、初見でフルコンボが出来たり――まして理論値が出せるほど、甘いゲームではない」

 彼女の眼は本気であり、発言の中にも燃えるような何かが感じ取れる。

ある意味でも説得力のある物だった。先ほどのリシュリューとは大違いと言えるだろう。

他のプレイヤーも、次第にビスマルクのプレイスタイルに気付き始めている。だからこそ、彼女のプレイは――。

(こいつ――アレに気付いたと言うのか?)

 リシュリューは何かに気付き、密かにタブレット端末からアプリを削除し始める。

しかし、その手先を見て不自然に思ったユニコーンが――彼に詰め寄った。

「やっぱり――チートアプリを実装していたのか」

 種明かしが分かれば、後は簡単だろう。リシュリューと名乗っていた男はチートアプリを走らせて理論値のスコアを出していたのだ。

本来であればリズムゲームVSにもチートアプリ対策のシステムは組み込まれているが、おそらくは一部システムが停止されている関係で正常なアプリと誤認識したのだろう。

 彼のガジェットは見た目が正規品ガジェットのはずなのに、何故チートアプリがあったのか?

「どうやら――ばれてしまったようだな! 正々堂々とプレイするなんて馬鹿馬鹿しい。楽をしてでもネット上で認められれば、全て正義となるのだ!」

 彼は自分の使っていたガジェットを証拠隠滅のために叩きつけようとしたのだが――それを止めたのは意外な人物だった。

その人物とは、今までの様子を監視カメラで見ていたタチバナだったのである。監視カメラで録画されている以上、もはや彼には逃げる手段はないだろう。

 無言でリシュリューを無力化し、ガジェットの方も破壊されずに確保する事に成功した。

その対処方法は、どう考えても何かの格闘術を習っているとしか思えないほどに手際が良かったのである。

「正々堂々とプレイする事が馬鹿らしいだと? まるで、チートプレイで金もうけ出来るような口ぶりだな――!」

 さすがのビスマルクも我慢の限界であるが、それでも暴力で決着させようとはしない。それをやったとしてもむなしいと知っているからである。

ネットが炎上し、リズムゲームVSがオワコン認定されればゲーマーにとってはバッドエンドとなるだろう。

 そして、一部コンテンツを憎むような勢力等にとってはハッピーエンドである。

そんな事を起こして――誰が得をするのか? 単純に憎しみが残るだけの悲しみの連鎖――それは、SNSテロが横行した時代に逆戻りとなるのは間違いない。

「覚えておけ! お前達は、いつかアカシックレコードに記されたシナリオ通りに動かされている事に――」

 途中まで何かを言いたそうな捨て台詞だったが、特に意味はないだろう。

単純にネットを炎上させる事が、彼にとっての目的なのだから。



「フェイクニュースを流し、ネット上を混乱させる勢力がいると聞いたが――ここまでやるのか」

 タチバナも、状況が状況だけにビスマルクに事情を聞こうとするが、彼女の口が開く事はなかった。

「ここまでやるのは、ゲームでさえも目立つ為の道具としか考えない連中だけ。彼らはゲーマーではないわ――単純に悪質な消費者よ」

 こういう風な事を言いたくないビスマルクも、今回の一件は――さすがに考えなくてはいけないと思う。

特定コンテンツでネット炎上が起こるたびに同じ事を――WEB小説では超有名アイドル商法として確立された、一種のテンプレ――ビスマルクにとって、ソレはトラウマでもあった。

 有名なテンプレの架空存在を、リアルに存在すると認識させ、それを嘘だと知らずに拡散し――その様子をあざ笑う。


おそらく、リシュリューにとって――リズムゲームVSはネットを炎上させる為の舞台位しか思っていなかったのかもしれない。

ここで言うリシュリューは、彼の本当のプレイヤーネームではない。おそらく、思い付きで名乗っただけだろう。

「ARゲームでもVRゲームでも――違うわね。全てのゲームであり得るような事が、今回起きた炎上ケースなのかも――」

 次もプレイしようと考えていたビスマルクだったが、気が変わったかのように別のリズムゲームが設置されているエリアと消える。

タチバナの方も、今回の事件を警察に通報する事はしなかった。物理的なテロ事件や通り魔事件に発展したら、それはそれで通報するしかなくなるのだが――。

(あの時に書かれていたWEB小説は――そう言う意味があったのか?)

 名前こそは架空名称だったり、ゲームも別物に差し替えられているのだが――これと同じような事件を題材にしたWEB小説を見た事があった。

全ては、あの小説が一種のシナリオとして採用され――今回の事件が起きたのか?

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