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 3月18日、前日にあれだけの事があったのだが――動揺している様子も見せていない『オケアノス・ワン』草加店。

一部のメダルゲームでメンテナンスをしている以外で筺体が止まっている気配もなく、客足も昨日より多い方だろう。

プライズゲームは商品入れ替えもあって

回転率は高い一方で、格ゲーは特定プレイヤーのみで回しプレイに近い事もあって微妙な情勢か。

クイズゲームや麻雀といった機種は固定客メインで、特に新規pレイヤーが並んでいる様子もないだろう。

(あれだけの事があったのに、何事もなかったかのように――)

 この様子に驚いていたのは昨日の一件に関係した人物、ビスマルクだった。

コートは何時も通りに肩にかけており、袖には通していない。これが普段の彼女である。

昨日の一件はネット上でも一種の祭り状態になっていただけに、その後の動向を若干気にしていた。

実際、一部のプレイヤーはその騒動に関して話をしていたり――SNSのサイトを見ていたので、見ていないと話題に遅れると言う認識なのだろう。

それ程にネット上の大多数も今回の件をサラに炎上させようと――まとめサイトを立ち上げたりする人間が出始め、一種のフィーバーと化している。

こうしたコンテンツバブルは勘弁願いたい所だが――歴史は繰り返されるのかもしれない。

 彼女は周囲を見回すのだが、特に気になる筺体は見当たらなかった。

気になるジャンルがない――と言う方が正しいのか? それとも――?

(イベントがあると言う話だが――)

 ふと何かを思い出したかのようにスマホを取り出し、ゲームアプリを立ち上げる。

その予想は見事に的中し、イベントが行われる事が告知されていた。

【スコアトライアルイベント開始】

 ここで言うスコアトライアルとは、特定の楽曲をプレイしてのスコア上位を決めると言う物である。

今回は3曲が対象になっているが、レベルに関しては不問とルールに書かれていた。

(対象楽曲は――問題ないか)

 楽曲のタイトルを見て、特にどれかが解禁必須だった場合には未解禁プレイヤーにとっては積み状態になる。

仮に解禁できたとして、いざプレイするタイミングで資金が尽きたら――。

そこまでソーシャルゲームと違って廃課金になる要素はリズムゲームにあるとは考えにくいが。

(このタイミングでプレイするのは――厳しいか)

 いざ、リズムゲームVSのスペースへ向かうと――順番待ち状態だった。

周囲のギャラリーが多くなっている事は視線を移動させつつ確認済、このまま増えるとプレイするのに1時間待ちもあり得るだろうか。

筺体の数も3台に増えているので、そこまで混雑する事もあり得ないだろう。1時間待ちは盛り過ぎとしても。



 その一方で、まだスキル復活は実現していない。イベント実装と共にスキル復活を願っていたファンからはため息が出たと言う。

これに関しては真田(さなだ)ソラも原因を調べているのだが――真相は思わぬ所から判明する。

【一部のアバター実装ゲームに対して虚偽の著作権侵害をでっちあげか?】

【ソレに便乗する形で様々なシステムの著作権を主張し、虚偽申告が横行か?】

【既に実害が出ている機種もあり、サービス終了危機を迎えている作品も?】

【申告した団体名は全てネット掲示板で都市伝説となっている架空の団体等で、申請も虚偽か?】

【犯人はアイドル投資家の可能性も?】

【それ以外でも様々なシステムを巡って申請をしている可能性もあり、2次被害も――】

 ソースがまとめサイトなので、最初は疑ったのも無理もない。

しかし、サイトの方で被害を受けている機種や作品名を見て、何かの法則がある事に気付いたのである。

 デジタル著作権を巡る虚偽申告で凍結を受けた絵師や公式アカウントの存在――過去にあった事件、それが形を変えて起きていた。

申告に関しては大手サイトを使用すれば、同じような事例が警戒されている為に足が付くと考え、ローカル団体や気付かれないような申請窓口を利用している可能性が高い。

それらの申告は実際のスタッフが行った物ではなく、大抵がなりすましのケースが多いだろう。

こうした申告システムは本人認証システムを強化するべきなのでは――と言うのは事件が起きるたびに聞かれる。

 彼女は運営やメーカーではなく、何故か『オケアノス・ワン』草加店に姿を見せていた。

別の機種に関してロケテストを行う準備をする為に、足を運んだ訳だが――別の案件で事実が判明するとは予想外である。

これに関しては色々と調べたい事もある一方で、下手に手を出すと危険である事も察していた。

(こちらの機種が逆に訴えられそうなシステムだが――上層部は何を考えているのか)

 彼女が持ってきたタブレット端末には、その筺体のデモプレイ動画がいくつか入っており、それを通りかかったプレイヤーに見せて反応を確認しているのだ。

そのプレイ動画には真田自身の姿はない。あくまでも他のスタッフがプレイをしている動画だが――。

(ビームサーベルを手にしてノーツを斬っていくリズムゲーム――どう考えてもARゲームの方と被ると考えなかったのか?)

 真田としては、こちらの方で申告があると考えていたのだが、発表タイミング的に一斉申告から漏れた形である。

ビームサーベルに似たようなARガジェットを手に、画面上に現れるノーツを斬っていくと言うアクション要素の高いリズムゲームだが、フィールドが広くないと成立しないだろう。

 しかも、これは既に事例が確認されている物であり――真田も開発中止にした方がいいとアドバイスしたばかりの物だ。

重複しているようなアイディアでも、細かい箇所で被らないようにしているとの事だが――そう言った意見があったとしても、真田には訴えられそうだと思っている。

(確かに、リズムゲームVSが他のリズムゲームとオリジナリティで比較されれば――)

 色々と不満はあるのだが、そんな事を言っていられないのは事実だ。

他のプレイヤーからは批判的な物や否定的な発言はあまり聞かれないのも、大きいのかもしれないが。

はっきりとパクリと明言するようなプレイヤーもいなかったので、そう言う事なのかもしれないだろう。逆に、ある程度の賛否両論があるとは期待していたのだが――それも期待外れに終わる。

「次のインターネットランキングイベントまでには――」

 現状の目的は、リズムゲームVSの停止中のシステム復活だ。

上層部がシステムを止めた理由が仮に虚偽通報だったとしたら――SNSテロに屈した様に受け取られかねないだろう。

実際にそうだったと証明するような物も出ていない為、虚偽申告に屈したというのは真田の憶測にすぎない。



 3月19日、ネット上には様々なスレが乱立しており――そこには真田の予想通りの記事も存在している。

【リズムゲームVSがとあるゲームのパクリ説浮上か?】

 記事のタイトルこそは関心を引くような物だが、中身に関しては虚構記事と言われても差し支えがない程に中身がない。

まるで、アフィリエイト収益を狙っているかのようなもので――。

「ネット上では、やはりこう言う路線になるのか――愚かな事を」

 これから『オケアノス・ワン草加店』へ向かおうとしていたのは、動画をアップしたばかりの村正(むらまさ)マサムネである。

何時ものバーチャルゲーマーとしてのスク水を着用し、彼女は目的地へ向かおうとしていた。

スク水に着替えるのは店舗内でも良いような気配がするのだが、そう言った問題を気にしないででかけられるのは草加市の大きなところだろうか。

一般市民や事情を知らない人間からすれば、スク水やエロコスチューム等で商店街を歩きまわるコスプレイヤーが目撃される事は――町のイメージダウンになると指摘されても文句は言えない。

下手をすれば炎上騒動もおきるのは言うまでもないが――あからさまにR-18になりそうな物でなければ問題はないという判断は出されていた。

「こうしたネット炎上勢力がバーチャルゲーマーの活動に影響を与える事になれば、今度こそ――」

 普段は普通の口調であり、動画内の中二病テイストとは比べ物にならないほど――普通の姿とも言える。

スク水で街中を移動するのを普通と言えるかどうかは――賛否両論になるかもしれないが。

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