5-2
3月17日、この日はあいにくの雨――と言う訳ではなく、曇り空なだけだった。
空を見上げ――天気を確認したのはバーチャルゲーマーのユニコーンである。
雲が目立つのだが、それでも日差しが遮られている訳ではなく――単純に通り雨的な曇り空なのかもしれない。
(彼女は、何を焦っていたのだろう――)
明らかにアルタイルと言う人物は焦りを見せていたのは間違いないだろう。
自分を呼んだのは――間違いなくアルタイルなのだが。何の為に呼んだのかは、敢えて言及を避けている。
(しかし、このフィールドは丁度いいかもしれない)
せっかくのリズムゲームVSというゲームを紹介してくれた事に、そこだけは感謝をしている。
今もプレイしているVR系リズムゲームでは――もはや強すぎて、誰も対戦を挑んでこないようなレベルだからだ。
彼女のプレイしていたVRリズムゲームは、見た目こそはリズムゲームVSと似ているだろう。
アバターシステムを導入している物だが、リズムゲームVSでは没になったという話があった。これが意味する物とは――?
ちなみに、その時にプレイしていたのはどちらかと言うと商業ではなく同人に近い。
同人のリズムゲームでは、様々な作品のコピーとも言えるゲームもあったが――楽曲はオリジナルと言う物が多いだろう。
これが実機の楽曲もそのままプレイ出来ると言う物であれば――存在そのものが抹消されていた。むしろ、著作権侵害で裁判沙汰になっていた可能性だってある。
「さて、行くか――」
空を見上げていた視線を戻すと、そこには『オケアノス・ワン』草加店の自動ドアが見えた。
つまり、彼女は店の目の前まで来ていた――と言う事になるだろう。他にも客はいるのだが、あえて彼女はスルーしていた。
理由は様々だろうが、コスプレイヤーとは深く関わりたく――と考えている可能性も高い。
逆にテンプレ的な不良やジャパニーズマフィアが足を運ばなくなったのは、草加市全体で様々な対策を行った影響も高いだろう。
(まず、彼女は何処から変えるつもりだったのか? まさか、ここを――)
店内に入った彼女は、草加市全体をキッズアニメの舞台そのままに再現しようとしたのか?
そこまでして、草加市に利益があるのか? しかし、それを認めたという事は――策があっての判断なのだろう。
(やめておこう。重要なのは、そこじゃないし)
下手に考えてもゲームが面白くなる訳でも、上手になる訳でもない。
バーチャルゲーマーに重要なのは、そうした物ではないのは――他のバーチャルゲーマーが配信している動画などを見れば一目瞭然だ。
店内に入ったユニコーンは、ゆっくりと周囲を見回す。
《新作メダルゲーム入荷!》
新機種入荷を知らせるアルミフレームの立て看板もあるのだが、そちらはリズムゲームの入荷告知ではないのでスルーした。
そして、数メートルほど歩いて目の前に見えたのはエスカレーターである。そのまま歩いて進もうとも考えたが、一歩右足を――。
「リズムゲームのニワカが増えて、ジャンルが衰退したら――誰が責任をとるのか分かって――?」
エレベータに乗ったユニコーンは、上の方を見上げる。そこに客が見えた訳ではないのだが、気になる箇所があった。
降りて最初に視線に入った筺体がパズルゲームの筺体だったのである。ジャンルとしては落ち物という烈か一定の色を揃えて消すタイプだろうか?
新機種ではないのだが一定のプレイヤーがいる事に、彼女は驚いていた。パズルゲームはソシャゲの独壇場と思っているだけに――これは意外な形だろう。
(機種によっては、インターネットの接続が常時行われているようなゲームもあると言う。時代が変わったと言うべきか――)
ユニコーンは他の機種に視線を合わせても特に表情を変えず、そのままリズムゲームVSのある方向へと歩いて行く。
他のプレイヤーやゲーマーもいるのだが、彼らと交流しても情報が得られるとは思わない。
(まずは、インターネットランキングを――)
センターモニターのボタンに手を触れたユニコーンは、慣れた手つきでインターネットランキングを表示させた。
表示された画面には、見覚えのあるようなネームのプレイヤーもいる。当然、そこにはデンドロビウムの名前もあった。
しかし、デンドロビウムの名前は自分の視線で認識できる位置――モニターの大きさは40インチ位だが、見上げられる位置にもプレイヤーネームはある。
(5位――?)
左手で口を抑え、人差し指をテンポ良く動かしているが――特に焦っている訳ではない。
視線を上の方に向けると、そこには上位3名のプレイヤーネームが見えた。
スクロールさせれば、見上げなくても1位をチェック出来るのだが――あえて、そこまでしない。他のプレイヤーも見ているからである。
1位にいたプレイヤーネームを見ても、パッと思いつく名前ではない。自分が知らないプレイヤーだからだろうか?
2位にはガーベラの名前が表示されており、これには別の意味で周囲が動揺していた。3位にいたのはビスマルクである。
(ビスマルクがこの順位――まさか、上位に変動が起きている証拠なのか?)
その後、他にも整理券を発行しようとしているプレイヤーもいたので、数分ほどランキングを確認して離れる事にした。
自分もプレイしようと考えたが、まずはランキング上位の変動に関して考えるべきだろう――と。
「自分が1位とは――」
センターモニターでランキングをチェックし、自分が首位である事に酔っていたのは――男性プレイヤーだった。
服装が特徴的でもなく、あまり目立つ気配もない――いわゆるモブキャラと言っても差支えないだろう。
しかし、言動は非常に目立つので、そこで悪目立ちをしている状態かもしれない。
彼の名前は――自分がセンターモニターの視線を合わせていたのが1位のプレイヤーだったので、おそらくはリシュリューと思われる。
「次のトップランカーは――自分だ」
堂々と宣言する割には周囲のギャラリーの視線は冷たい。口だけで言うならば簡単と言う事のようだ。
そして、彼は実際にプレイで証明する事にする。しかし、彼の手元にあるタブレット端末――その形状は明らかにリズムゲームVSに使える物とは若干異なっていた。
他社製のガジェットでも使用可能になっているARゲームは存在するが、基本的に純正品ではないとエラー表示が出る事もあった。
これは――不正防止という観点でも重要な物でもある。そして、他社の安価な粗悪品でプレイして怪我でもしたら――。
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