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 3月5日――『オケアノス・ワン』へ足を運んでいたビスマルクは、あるプレイヤーから動画を見せられて驚いていた。

その動画は、噂のバーチャルゲーマー動画である。

「これは参考までに、彼女の外見だ」

 彼が最初に見せた動画は、ユニコーンの自己紹介動画だった。

自分よりも身長が低く、大体159センチに見えるか――銀髪に前髪はメカクレ、衣装はメイド服にコートを肩にかけていた。

あくまでもバーチャルゲーマーなので外見が被るのもやむ得ない箇所もある。

 実際、カスタマイズアバターを用いるケースが多く、そこからパーツを組み合わせてバーチャルゲーマーが作れるソフトがフリーで配布されていたから。

メイド服やスク水と言った衣装はカスタマイズ衣装としては人気があるので、使われている割合が多い。

その関係で、髪型と台詞や口調でオリジナリティを出すバーチャルゲーマーが多いのも現実問題としてあるだろう。

(この外見は――まさか?)

 ビスマルクは村正(むらまさ)マサムネを連想するような重なるイメージに対し、ふと思う部分があった。

バーチャルゲーマーが増えつつある理由には、3次元の実況者や歌い手が夢小説で風評被害を受けた為――と何処かのWEB小説で書かれている。

WEB小説なのでフィクションだと考えていたビスマルクも、現物を見て衝撃を受けたのは言うまでもない。

「バーチャルゲーマーは、アバターカスタマイズこそ存在するが――イメージが被るのはやむ得ない」

「それを踏まえても、おかしくないか? ここまでムラマサに――」

「しかし、これは事実だ。彼女はムラマサと違うジャンルを開拓している以上――独自と言えるだろう?」

「ムラマサはリズムゲームが――」

 やり取りをしていく内に、ビスマルクは何かが引っ掛かった。

彼女はリズムゲームの知識が本当にあったのか――と。そして、その知識は本物なのか――。



 翌日の3月6日、その日は快晴となっていた。昨日の小雨が嘘みたいな天気に、洗濯物を干す一般家庭も多いようである。

雨天の翌日もあってか――駐輪場には自転車が多く止まっているのが、『オケアノス・ワン』草加店だ。

他の系列店オーナーが様子を見に来る事が多くなっているのは、ここ数日続いている現象とも言える。

彼らも客足が遠のかないように試行錯誤をしているのだが、それだけでも限界はあるのかもしれない。

「今度は何処の支店だ――」

 さすがのタチバナも仕事の邪魔になるので追い出したいのだが、何も聞かないで追い出すのも上層部に何か言われるので――そこまではしない。

メールで済ませられるようなやり取りもあるのだが、直接来店するのは関東地方の支店オーナーやスタッフが多いようだ。

「さすがに同業他社がいたら、それはそれで大変だ」

 タチバナも同じ支店同士ならばまだしも――という考えはあるらしい。

さすがに他社が同じような規模で筺体を仕入れたからと言って、同じような展開になるとは限らないのだが。

 お昼時になると客足は遠のく――と言う状態にはならず、近くのコンビニでおにぎり等を買ってきての長期戦を決め込むプレイヤーもいる。

ただし、店内と言うか筺体近くに直接の持ち込みは出来ないので――近くの休憩スペースで食べるケースが多いようだ。

ゴミに関しては各自で持ち帰りと言うパターンが多く、この辺りはプレイヤーのマナー的な部分でも貢献しているのだろうか?

(最低限のマナーを守る事は――言われて気付くものではないはずだが)

 タチバナも、細かく注意書きを記載して客足を途切れさせる様な事はしたくない。

とりあえずは――最低限のマナーを守れば、ある程度の事には放置をするという姿勢である。

さすがに、禁煙エリアでの喫煙や筺体を蹴る等と言ったような案件は放置できないので、そちらの方は警告をする訳だが。



 午後になってから、若干の客入りが激しくなっていくリズムゲームVS周辺――センターモニターでは、ある動画が注目されていた。

動画の傾向からして、一種のスコアトライアル系と思われたのだが――少し様子が違っている。

「これ、午後8時のプレイだな」

「そんな夜でもプレイヤーが来るのか?」

「平日だと、大抵はそうだるだろう。午後も仕事がないとか有給を取っているといったケースではない限り」

「つまり、このプレイをしている人物は仕事帰りと?」

「仕事帰りでここのオケアノス・ワンを利用するプレイヤーがいるのか? 自動車通勤ならともかく――」

「近くにバス停はあったぞ。それに、オケアノス・ワン独自のマイクロバスも運航していると聞く」

 プレイヤーの姿は確認出来ないが、プレイスタイルや傾向から腕の立つプレイヤーと予測している人物もいるらしく――。

動画ではプレイヤーネームを確認せず、上位ランカーだと断定しているような人物もいた。

「1曲目で、いきなりレベル6を選択するのも一種の博打だろう。演奏失敗したら――」

「リズムゲームVSは全曲プレイ保証がある。演奏失敗で即ゲームオーバーなオプションを付けない限りは、それが初期設定だ」

 プレイヤーがいきなりレベル6を演奏し、それを難なくクリアするのも――初心者と言えるのか疑わしい。

一種のビギナーズラックと考えるプレイヤーは、さすがにリズムゲームではあり得ないと言う意見が大半だろう。

実際にビギナーズラックでハイスコアを叩き出した事例が皆無という訳ではないのだが――この手のネタはネットで炎上しやすいので、誰も触れないのが暗黙の了解なのかもしれない。

 つまり、この動画のプレイヤーは上位クラスの腕を持ったプレイヤーと予測されてもおかしくはなかった。

仮に上位ランカーだとして、この人物は何者なのか――?

「このプレイは、前日のプレイではない。一昨日のプレイだ」

「一昨日? どういう事だ?」

「動画が録画された日付で分かるようになっている。つまり、そう言う事だろう」

 昨日のプレイかと思われた動画、それは一昨日のプレイだったのである。

そして、これは既にセンターモニターで視聴可能な分だけでなく、動画投稿サイトでも拡散済みだ――。

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