3-3


 3月4日午後2時頃、ネット上である人物が目撃されていた。

ネット上では別のARゲームプレイヤーが姿を見せたとも言われていたが――そうではない。

その人物の外見は、神話にでも出てきそうなデザインのパワードスーツを身にまとい――素顔は一切見せなかった。

これだけの人物でもネット上で不審人物やテロリスト指定されていないのは、草加市が要注意人物としてチェックしていない訳でもない。

単純に、この人物は危険ではないと判断しているからである。その判断が甘いと言われれば、海外の銃撃事件等を踏まえるとその通りだろう。

 しかし、ここは草加市である。かつてはアニメやゲーム産業で町おこしを考え、一部は実現までさせていたレベルだ。

一例で言えば『オケアノス・ワン』の店舗展開、ARゲームスペースの整備――と言った部類。それを実現させるまでには、リアルでインフラ整備も行われたのである。

さすがに草加市に高速鉄道を通すまでは自治体的には不可能だったが、それでも観光バスの駐車場を増やす、外国人観光客向けの施設拡充等でフォローして見せた。

(もうすぐだ――もうすぐ、始まる)

 この人物が何を思っているのかは周囲のギャラリーもネット住民も――まとめサイトの管理人でさえも分からない。

後にWEB小説で似たような外見の人物が『アルヴィス』と名乗っていたので、まとめサイト等でも仮名としてアルヴィスと名付ける。

名無しの人物ではネット上でもフラッシュモブの一件もあって、信用されない可能性が高い為に――少しでも情報の価値を高めようと言う策略なのは明らかだった。



 3月5日、昨日が曇りだったのに対し――今日は小雨がちらついている。傘をさす程の大雨ではないが、天気の方は一目瞭然――。


それでも客足が絶えないのが現在の『オケアノス・ワン』草加店、毎日数百人は開店時間内に来店をしている計算だ。

「1年中晴れているような事はない。そして、ネット炎上も1年中起きている訳でもない」

 突如として姿を見せた男性、彼は『オケアノス・ワン』の別支店担当者である。

何故、彼が草加店まで足を運んだのか――対応したオーナーは理解に苦しんだ。

外見はチャラい印象だが、仕事はしっかりとやってくれる人物で――そう言った人物を『オケアノス・ワン』では広く採用していたのである。

「貴方も足立区の支店を放置できないのでは――」

「確かに、それも一理ある。しかし、確認したい事があって――ここまで来た」

「確認――?」

 向こうには確認したい事があると言っても、彼には思い当たる節がない。

一体、彼は何の為に足立区を離れ――ここまで足を運んだのか?

「バーチャルゲーマーのムラマサ、何故に彼女はここにきている?」

「こちらが個人情報を把握しているとでも?」

「確かに――カラオケやボーリングを利用しない客の個人情報を把握している訳はないだろう。しかし――」

 足立区の支店オーナーはある物をオーナーに見せた。それは、タブレット端末のレンタル履歴である。

どうやって、これを入手したのかは不明だが――下手をすれば個人情報流出に該当するかもしれない。

「タブレットのレンタル状況はオケアノス・ワンで共有されている物。それを知らないとは――言わせませんよ」

 この一言を聞き、オーナーことタチバナは黙ってしまう。

反論できれば――と思ったが、正論なので言い返す事は出来なかった。

 オーナー同士のやり取りは店内の事務室で行われた物の為、一般客には一切聞こえていない。

むしろ、こういうやりとりがSNS上で拡散したらどうなるのか――両者とも分かっているはずだ。

「おそらく、他の店舗のオーナーも同じ事を思うでしょう」

「バーチャルゲーマーの数は日々増えている――スカウトしたいのであれば、ネットを検索すれば早いのでは?」

 タチバナとしても、これ以上いられても業務に支障が出かねない。

追い払う――と言うと言葉が悪いが、早めに持ち場に戻ってもらおうとタチバナは考えていた。



 小雨と言う事もあり、店内に足を運んでいる顔ぶれにも微妙な変化があったのは言うまでもない。

デンドロビウム、ムラマサと言ったメンバーは姿を見せておらず、逆に姿を見せていたのが――。

「あのチートプレイヤーは、よくやった方だ――」

「芸能事務所のアイドルを宣伝する為のフラッシュモブは、流行らないだろう。おそらくは規制の方が待ったなしだろうな」

「そう言った行為が拡散すれば、規制が強化される事は気付かない訳ではないだろう――」

「最近のSNSユーザーは民度の低さも問題だが、理解力のなさもトップクラスだな」

「どちらにしても――我々がやる事はひとつだけだ」

「SNSテロを起こす存在、全てを駆逐する事。つまり、炎上の根絶だな」

 センターモニターの前に置かれている簡易ソファーに座っている男性2名は――どちらかと言うと情報交換の為にリアルで場所を決めて会う予定を決めていたのだろう。

何処かで聞き覚えのあるような台詞の改編で決めている様な男性も、センターモニターに表示されたプレイの様子を見て思う部分はある。

「君たちには聞きたい事がある――」

 二人の目の前に現れた人物、それはビスマルクだった。

彼女としては、他の件に関しても聞きたい所だが――向こうが話してくれるかは微妙な情勢である。

(ビスマルクだと――)

(まさか、我々の情報網が――?)

 2人の表情を見れば、明らかにビスマルクがここに来る事は想定外と言う事が分かる。

もしかすると、ここがビスマルクのホームゲーセンになっている事を知らない可能性も高いが――。

「最近になって売り出し中のバーチャルゲーマーについて聞きたい」

 そして、ビスマルクは2人が予想もしていない単語に対して言及し――お互いに言葉を失った。

そこまで彼女は情報を掴んだのか? リズムゲームVSに迫ろうとしている脅威に関して、2人はこの場を去らなければ危険だと認識する。

「下手に逃げようとは考えないことだ。こちらとしては危害を加えるつもりはない。下手に出禁を受けるのは、こちらとしても不利益――」

 ビスマルクとしては、ここで出入り禁止になると――別のホームを探そうにも機種が置いてある場所を検索する所から始めないといけない。

それだけは――時間がかかるので避けたい事情があった。向こうも、下手なトラブルをSNSで拡散されても不利益である事は分かっているはず。

「そこまで言うなら教える――で、どちらを聞きたい?」

 まさかの対応に無言で驚いたのはビスマルクの方である。どちら――と言うのは、複数いる事を意味していた。

ムラマサとは別のバーチャルゲーマーがリズムゲームVSにやって来たと?

「ムラマサ以外に誰か来たのか?」

「その口ぶりだと、ユニコーンの事は知らないようだな」

「ユニコーン――だと!? 相当な大物バーチャルゲーマーが――」

 ユニコーンと言えば、ムラマサ以上に人気の高いバーチャルゲーマーで、主にパズルやキャラゲーのジャンルで人気と言える人物だ。

どのようなバーチャルゲーマーなのかは、彼から動画を見せてもらって判明する事になるのだが――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る