2-3
ここは『オケアノス・ワン』草加店、1階はダーツやカラオケ、1階の一部と2階はゲーセン、3階はボーリングと言う系列アミューズメント施設だ。
オープンしたのは、今から10年以上も前らしいが――そうは思わせない程の客足の途切れなさが特徴となっているのだろう。
2階のゲーセンスペース、そのリズムゲームが固まっているエリアが――最も盛り上がっているのは言うまでもない。その理由は――。
《スプラッシュ・パラソル》
筺体のモニター画面をそのまま表示するセンターモニターには、ここ最近のプレイでは出てきていない楽曲名が出てきた事に周囲が驚いている様子。
レベル2の楽曲をランダムに選曲した訳でなく――村正(むらまさ)マサムネが選曲したのが、この曲だったのである。
「レベル2?」
「ここでは主にレベル6から10がメインと聞いたが」
「それは違うゲームだろう。確かに、リズムゲームVSも最大レベルは12だが――」
モニターの周囲にいるギャラリーがざわつくのも無理はないだろう。
リズムゲームの知識もないようなプレイヤーは、何のことだがさっぱりだが――知っているプレイヤーからすれば、レベル2譜面は簡単と言える。
《ローディング中――》
楽曲が始まる前には、画面のセッティングが行われ――読み込みの間には筺体のモニターにエンブレムが表示された。
その形状は横の長方形であるのだが――何も書かれていなかったのである。まるで、真っ白なカードと言う表現が正しいか。
「右側にMV(ミュージックビデオ)が出て、中央でプレイ画面は分かるが――」
ギャラリーの一人は、画面構成にツッコミを入れようとしていた。ムービーを見ながらゲームをプレイできる物なのか――と。
機種によっては中央に表示されたり、中には譜面の流れている画面と一緒にムービーが流れる機種だってある。
「しかも、中央画面にはアバターが表示されて操作するようなタイプにも見える。これはさすがに構成ミスだろうな」
「原理としては中央の画面がレースゲームの操作画面を表示しているのであれば、MVはカーナビの様なものでは?」
「カーナビだったら、もっと違うだろう。例えるなら、ナビではなくテレビを見ている様な物だ」
「両方をチェックしながらプレイするなんて――信じられない」
「どういう事だ?」
「アバターを使うゲームはこれじゃない。ムービーを見間違えているのでは?」
「そう言えば――システム周りが微妙に違うな」
ギャラリーやモニターでプレイの様子を見ているプレイヤーからは、このような意見が飛ぶ。
MVはオプションでオフにする事が出来るが――基本はMVをオフには出来ない機種もある。
中にはMVが存在しない機種もあるし、特にMVを重要視していない機種も存在しているだろう。
リズムゲームは主に演奏する部分と楽曲に比重を置いていると言ってもいい。
ゲームのジャンルによっては、楽曲面をメインにしていないジャンルもあるのだが――。
ちなみに、アバターが表示されるゲームも存在するが、それはリズムゲームVSではなく別のゲームらしい。
もしかすると、あの小説を書いた人物はリズムゲームの知識が乏しく――混同していた可能性もあるだろう。
ムラマサのプレイしている楽曲は、どちらかと言うと電波系のジャンルであり――硬派なゲームには不向きと言われている。
リズムゲームVSは既に萌えに特化した楽曲等によっては独自世界観を確立させており、今更な気配はするだろう。
そして、リズムゲームの立ち位置やレッテル貼りをするような勢力は――すぐに衰退する事は目に見えている。
それぞれのゲームジャンルにファンがいるからこそ、迂闊に炎上させるような発言をすれば――間違いなく発言はブーメランするだろう。
(敢えて彼女が、この曲を選んだ理由は――)
南雲(なぐも)ヒカリは順番が回るまでは彼女のプレイをチェックするつもりだったが――見た目は難なくプレイ出来ているように見えた。
これは手の様子等が表示されないセンターモニターで視聴すると、何となく上手く見えてしまう錯覚があるのかもしれない。
格闘ゲームであれば、操作テクニックも重要だが――それ以上に要求されるのは連携技や一種のパターンと言える物だろう。
(憶測で考えるのはやめよう。どちらにしても――レベル2の譜面を選んだ以上は、まだ初心者の領域に近いのだから)
南雲は発行された整理券の番号をチェックしつつ、彼女がプレイする様子を見ている。
しかし、しばらくするとショートメッセージが表示され――出番である事が知らされた。
「君たちのステージ、見せてもらうよ」
センターモニターのプレイしている様子をチェックしていたのは、プレイヤーだけではない。
『オケアノス・ワン』のオーナーでもある背広の男性も、プレイに興味があるようだ。
ただし、彼の場合は周囲を見て悪目立ちするようなマナーの悪いプレイヤーに対し、注意をする方だが――。
南雲の筺体は3番台――まさかの新台入荷だった。昨日までは2台だったような気配なので、これは予想外と言えるが――筺体の位置は2台とは微妙に違っている。
筺体の位置は、さりげなくボーリング受付の付近であり、近くにはキャラクター物のアクションゲーム、太鼓タイプの別リズムゲーム、更にはハンティングゲームが4台横並び――と言う状態だ。
音量と言う部分では、他のリズムゲームと爆音で聞こえなくなりそうな現象はないだろう。太鼓の方はボリュームも絞られているだろうし。
(問題は――いわゆる晒し台に近いのがネックか)
エントリー動作をしつつ、南雲はふと周囲の様子が気になっていた。
ある意味で晒し台は集中力が途切れそうな配置にも近いだろう。機種によっては、晒し台が不可避な大きさのリズムゲームもあるのだが――。
この台の配置になったのには、別の理由も存在するようだ。時間帯によって入場が制限されるエリアの外にあり、ある意味で24時間稼働している様な仕様にもなっているらしい。
しかし、閉店時間になれば筺体の電源は自動的に切れるので――24時間耐久プレイは出来ないようだ。営業時間は翌日の午前4時までと設定されている。
「晒し台は関係ない。プレイ出来れば――」
南雲のプレイヤーエントリーが完了し、画面に表示されたプレイヤーネームを確認した瞬間――ギャラリーは心の中で叫んだのは言うまでもない。
さすがにリアルで叫ぶと、集まっている人数的にも迷惑と判断されるのは間違いない。一歩間違えれば台の撤去も避けられないだろうか。
《PLAYERNAME:デンドロビウム》
プレイヤーネームはひらがな、カタカナ、アルファベットが使用可能だが入力文字数にも制限がある。
アルファベットにしなかったのは――苦肉の策かもしれない。そのネームを見たユーザーは衝撃を受けた。
「彼女が、デンドロビウムか――」
オーナーも彼女の存在は衝撃を受けている。
実際、彼女は複数のリズムゲームでハイスコアを叩き出しており――ある意味でも歴戦のランカーと言えるかもしれない。
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