2-2
リズムゲームVSの筺体で村正(むらまさ)マサムネは真剣な表情でチュートリアルをチェックしている。
既にバーの操作方法まではチェックしており、次は――。
《降ってくるノーツをタイミングよくタッチする事で、スコアが増えていきます》
《ノーツに関してはバーに接触したタイミングでタッチする事で評価が変化します》
《ただし、演奏する事が重要ですので――適当にタッチしてもタイミングを外す事があります》
《タッチしたノーツが何も光らない場合はミス扱いとなり、ゲージが減少しますのでご注意ください》
やはり、説明に疑問を持った。大量にタッチしてコンボを稼ぐ――って、それはパズルゲームなのでは?
バーが存在するのは確かだが、バーにノーツが近づいた所でタッチすればいいのはリズムゲームの基本だろう。
しかし、タッチするのはバーではなくてノーツの方だ。タブレット端末と目の前の画面では見え方が違うのかもしれないが。
色々な意味でもパッチワークで出来上がったのが、この機種なのではないか――。
(もしかして、このゲームは――)
タブレットの画面には、複数のノーツが表示されており、それをタッチするように指示されている。
そして、タブレットの画面と目の前の画面に違いがある事にも気付いた。
(――まさか?)
バーを動かす動作、ノーツを演奏する動作、そこからのコンボやチェーン等――それらのシステムは確かにリズムゲームと言える物である。
(動画サイトで見たリズムゲームとも大きく違ってる――どういう事なの?)
プレイ感覚は実際に触れてみないと分からないが、見た目は事前にチェックした他のリズムゲームとは違う印象だ。
動画サイトにあったリズムゲームは、大抵が太鼓をたたいたり、タッチパネルに触れたりするような動作が伴う。
リズムゲームVSはDJテーブルのような専用コントローラを使用したリズムゲームには似ているだろうが――何かが違っている。
「リズムゲームは、やっぱりワンアクションの方が分かりやすいような気配が――」
「そうとは限らないだろう? 叩くだけ、触れるだけのようなゲームでもタイミングが悪ければ演奏は失敗する」
「これがキッズ向けとは到底思えない。スーパーとかに設置されていれば分かるが、デザインがどう考えても――」
「キッズ向けのゲームでもゲーセンに置かれるケースだってある。逆もしかり――だ」
「しかし、キッズ向けと言えばアバターをカスタマイズするような機種もあった。そちらに寄せた方がよかったのでは?」
「リズムゲームの場合、ノーツだけのものであれば他のゲームと似たような感覚になるだろう。専用コントローラの間隔は別として」
「つまり――情報量は少ない方が良いと?」
モニターで別の筺体でプレイしているプレイヤーの中継を見ていたプレイヤーも、リズムゲームVSに関しては疑問に思う。
どの層に訴えている機種なのか――迷子になっていると言う部分があったからだ。
これはムラマサも思っていた事だが、その認識はあながち間違っていなかったようである。
チュートリアル終了後、次は実際のプレイへと突入する。
しかし、選曲時間が20秒もない中でムラマサは迷っていた。楽曲のタイトルをタッチしても曲が流れない――。
別のリズムゲームではタイトルをタッチすれば曲が流れるはずなのに――。
楽曲に関して言えば、クラブを連想するような選曲BGMは流れている。無音で選曲と言う訳ではないらしいが。
(ここも違う。一体、リズムゲームって――)
これに関してムラマサは疑問に思う。しかし、それは他にもあるリズムゲームの動画をチェックしなかっただけとも言える。
実際、選曲BGMのみで選曲した楽曲はプレイ中でしか流れないような機種はいくつか存在し、リズムゲームVSもこのシステムを採用していた。
リズムゲームが格闘ゲームやFPS等みたいに類似システムばかりで構成され、すぐに慣れるような仕様ではないのは百も承知だが――。
(ヘルプによると、ダブルクリックで楽曲名をタッチすれば選曲確定――と)
選曲時間も残りわずかだったので、レベル2の楽曲を選ぶ事にする。
タイトルは――チェックしていないが、高い数字のレベルを選ばなければ問題はないだろう。
「あのプレイヤーは――」
南雲(なぐも)ヒカリがセンターモニターの前に到着し、順番待ちの整理券を発行しようとしていたが――。
「1番もプレイに入ったようだな」
「チュートリアルでも慌てていたという話だが――」
「さすがにプレイする度に叫んだりするようなプレイヤー出ないだけマシだな」
ギャラリーから色々と話題が出てくるようだが――それだけでは情報不足感がある。早速、南雲はプレイの様子を見る事にした。
モニターに関しては2番の方がすでに終了している為か――1番台のプレイの様子に切り替わっているようだった。
(楽曲の選曲で戸惑っている?)
選曲画面で少し止まっている事に関して、通信ラグの類なのでは――とも思ったが、選曲時間は減っているのでラグではない。
楽曲名だけしか表示されないメインの選曲画面で、楽曲を無事に選べるのか――と不安になりつつも、彼女はレベル2の楽曲を選ぶ。
昨日はレベル1の楽曲を選んでいたようだが、これに関しては初心者にお勧め的な――ヘルプボタンをタッチして選んだのだろう。
実際、ヘルプボタンの存在はチュートリアルで教えてくれるし、それ以外でもレンタル端末でプレイする場合は自動的にヘルプがONと言う状態になっている。
レンタルでヘルプをOFFにするようなプレイヤーはほとんどいないので、こう言うカスタマイズになっているのだろう。
その一方で、ネット上ではデミゲーマーと言う単語の拡散速度が想像を絶していた。
ホットワードになっている程の物であり、もはや南雲自身が発言した単語としては広まっていない。
【何だ、この定義は?】
【まるで、自分たち以外の勢力を完全排除するような説明が――】
【一体、夜までの間で何が起こったのか?】
これに関しては様々な意見が存在するのだが、既に南雲が定義した『ゲーマーとは違った能力を持つ』と言う意味を拡大解釈しているのかもしれない。
ネット上の迷惑行為、ニュースの話題に便乗、同調圧力、自己顕示、構ってちゃん、アフィリエイトまとめサイト、更にはネット炎上――。
これらを起こそうとする悪しき存在を『デミゲーマー』としてまとめサイト等では言及され、それが急速に拡散していたのである。
まるで、本来の意味であるAとは違う意味のBで急速拡散する勢いだが、それだけで済めば――今回の事件は悪化しなかったのかもしれない。
「SNSテロを起こそうと言う勢力――それをまとめて定義していると言うのか?」
『オケアノス・ワン』草加店の近くにあるコンビニ、歩いて数百メートルもしない位置にあるので、飲み物や弁当を買うのには便利だろう。
店内にも数十人ほどの一般客がおり、パチンコ店へ向かう者もいれば、近くの温泉施設へ向かう者もいた。
そうした客を店外で見守っていたのは、身長180センチ近くの女性である。
黒髪のセミロングで場所が違えばナンパされそうな気配もするが――肩からかけているグレー系カラーのコートや被っている地味な装飾の軍帽は、周囲をドン引きさせるには十分だろう。
ベルト、グローブ等と言ったアクセサリーだけでなく、靴やズボンも明らかにミリタリー系のソレで統一されている。
しかし、この人物を通報できない理由は警察を連想しないデザインの服だったのもあるが、それ以上に――。
(誰も声をかけないか――)
彼女の表情もあるが、下手に声をかけて警察に通報されるのを避ける様子もあった。
それだけ、服装以外の部分は比較的に地味だったのかもしれない。
彼女の名前は――それが目立つような名札をしていなければ、ドッグタグ等も身につけていなかった。
数十人の一般客の中には、明らかに有明のイベント等で見かけるような――アニメやゲーム作品の登場人物(コスプレイヤー)もいる。
草加市内では特例として、過激な衣装や警察と混同する服装等の禁止されている物以外のコスプレが認められていた。
そう言う事もあって、コンビニにもコスプレイヤーが何人かまぎれているのだが、向かう場所は決まって『オケアノス・ワン』草加店。
その理由は単純明快だ。草加市内でコスプレ入場が可能な店舗がコンビニや提携店舗等に限られている――。
それでもマナーを守ればコスプレが自由なので、コスプレイヤーの聖地と化しているのだ。
聖地巡礼(せいちじゅんれい)自体、埼玉県では今に始まった事ではないのだが――。
「そろそろ、行ってみるか――」
彼女がある場所の方角を振り向く――それは『オケアノス・ワン』草加店、3階建てのアミューズメント施設で――色々な意味でも明らかに目立っている。
相変わらずの客足で、近くのパチンコ店よりは駐車場が混んでいると言ってもいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます