第2話🌙朋子さんの話

さて、小学生ではない大人になった私である。

もちろん、叔母さんのそんな話は本気にしていない。

けど、一人暮らしのアパートの、隣の部屋の女性。

彼女は魔女じゃないか?と、私は思っている。

根拠は、叔母さんの話だ。


隣の彼女は、三日月が綺麗な夜に必ずベランダで酒を飲む。


寝苦しい夜にベランダの窓を開けていて、隣の部屋の窓が開く音がしたのだ。

そして、ゴソゴソと何かを運ぶ音がして、突然


「三日月の馬鹿野郎!!!」


と怒鳴り声がした。

私は突然の大声に驚き、ベランダへ出てキョロキョロしてしまった。

私は3階建アパートの2階、202号室だ。怒鳴り声は201号室から聞こえた。

大学3年の夏である。それまで隣は怒鳴り声も騒音もなかったので、余計に驚いた。


「あ、煩くしてすみません!」

と、酔っ払った声が聞こえ、隣から柵越しに綺麗な顔がひょこっと出た。


月夜に照らされる彼女はとても綺麗で、少し叔母さんと同じ雰囲気を感じた。(そう言ったら失礼か)

色素の薄い髪が月夜にキラキラと透けていて、反対に目は黒目がちでなんだか猫のようだった。とにかく綺麗な人で、その綺麗な容姿に似合わない、缶ビールと柿ピーである。


「ビール飲む?」

気軽にビールを勧めてくる美人の第一印象は、残念ながらオヤジになった。


それから、朋子さんという名前の美形オヤジ(こう書くと語弊があるか?)は三日月の夜の度に飲み会を開く。

私も仕事が忙しくなければ参加するようになった。


なぜ、飲み会は三日月の夜なのかを聞くと、


「あたしを捨てたから、恨めしくて。」

と、豪快に笑って答えられた。笑ったあと、少し寂しそうだったが、突っ込まないであげようと思った。



『三日月』と聞くと叔母さんの話を思い出す。


「三日月の夜に落ちる魔女は、昔から結構いてね、どの魔女も、ちょっと悔しいと思うのよね。私も悔しいもの。」


朋子さんも、悔しいから恨めしいのだろうか。

おっちょこちょいで落っこちたのだろうか。


三日月飲み会で飲むビールが年々美味しく感じられて、私も三日月が恨めしいと思った。


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