第16話 別れと出会い

 さらに2ヶ月が経った高校2年の6月。

 俺とエリカが初めてパーティーを組んでからは、すでに8ヶ月が経った。

 早いような、いろいろな事がありすぎて長くも感じられたような期間だったが、俺がエリカと実際に行動を共にしたのは6ヶ月半ほどだった。エリカは、俺とパーティーを解消した。

 シムバーガー・アルカディア店のバイトを2週間だけつづけた後、エリカは俺たちのパーティーから脱退したのだ。

 今はどこで何をしてるのか。

 彼女は現在も、ゲームをつづけてる。ただし、俺たちがいるセカイとは別の場所だ。

 なぜなら、そこは上級のセカイなのだから。

 シムバーガーのバイトを終了してすぐ、彼女に上位プレイヤーのあるパーティーから引き抜きの声がかかった。

 ネット上の報酬ポイントランキングの上位に名前が挙がってる俺らのパーティーでも、魔法使いエリカという名前はシムゲームの中でちょっとした知名度を持つようになっていた。だが、それでもエリカは俺たちのパーティーを気に入ってたように見えたし、居心地よく感じてたようにも俺には思えた。

 彼女がパーティーを抜けるというのは、俺の中で想像してなかったことだ。

 なぜ、そんなことになったか。

 引き抜きに来たパーティーが、実はちょっと特殊でもあった。

『魔法少女のかわいいお茶プリティーパーティー会(かわいいは正義)』というちょっと長いパーティー名で、略称を〝かわいい〟とか〝お茶会〟ティーパーティーなどと呼んだりする。(かわいいは正義)の『()』は、ちゃんと「かっこ」と読む必要があるらしい。

 シムゲームのサービス開始当初からいる古参のプレイヤーで、報酬ポイントランキングで安定的に上位100位以内に入っている。最高で上位17位を獲得したことのあるかなり名の知られた集団チームだった。

 特殊なのは、固定メンバー四人+臨時の一人という計5人チームで行動することが多いという点。

 上級のマップでは、一般に四人のパーティーが適性とされるが、〝かわいいお茶会〟では攻略するダンジョンに合わせてゲームを有利に進められる職業やスキルを持ったプレイヤーを、外部から一人雇うのである。

 つまり、臨時のメンバーとして招待されるのだが、エリカの場合長期的に協力してくれることを視野に入れて参加してほしいという要請だった。とうぜん、〝かわいい〟に協力すれば俺たちのパーティーでは活動してくことは難しくなる。

〝かわいい〟に参加する上で、あくまで学校の勉強を優先してくれてかまわない、ということでエリカはけっこう悩んだようだ。

 最初は、「仲間と一緒にやっていきたいから。」と言って断ったらしい。

〝かわいい〟の代表も「それは残念。」とだけ返して、しつこくは誘ってこなかったようだ。

 だが、その経緯を聞いたシオリは、

「なんで、断っちゃったのよ。もったいない、そんな面白そうな話あたしならすぐに飛びつくのに。まあ、うちのパーティーでやってくのはべつに止めないけど、上級者パーティーを見学もせずに断っちゃうのは即決すぎるでしょ。とりあえず、一回見学だけさせてもらいに行ってきたら? きっと、得るものもあると思うわよ。」

 と、メンバーの脱退をうながすようなことをわざわざ言ってしまう。

 シオリからすると、仲よしグループでずっと一緒にやってくことのほうが不思議だと言うのだ。

 海外では、コロコロと転職するのは当たり前。同じ組織に所属しつづけるほうが、古くさい考え方とされる。

 自らの価値(値段)を高めるのには、複数のキャリアを渡り歩くことも重要。自分の収入とより良い環境のために、今いる組織をはなれて外に行くことはごく自然な発想。

 ベタベタ身内でいつまでもくっ付いてるのはむしろおかしい、とシオリはドライな意見を口にする。

 その理屈は、俺にもよく分かった。

 例えば、エリカがとつぜんゲームを辞めて普通に就職とかを目指すなどと言い出しても、俺にはそれを止める気はないからだ。

 ゲームの世界は、とうぜん収入は安定しない。異世界がいくら魅力的でも、こんなところに他者を引き止めとくのは何か違う。

 逆に、エリカが上級者のパーティーに入るというなら、べつにそれを止める権利も俺にはない。

 自由が前提の時代だ。

 他人に迷惑をかけない範囲なら、自分の都合で好きに選択していい。

 そして、エリカは一度かわいいお茶会のゲーム攻略に参加して、それ以降は戻ってこなくなった。

 魔法少女のかわいいお茶会(かわいいは正義)のメンバーとして、ゲームでの活動を始めたのだ。



 俺は、シオリに訊いてみた。

「いいのか、これで。エリカの選択に俺がとやかく言う気はないが、お前の中では受け入れられるのかちょっと気になったんだが。止めるなら、今しかないぞ。仲間なのにあっさり離脱ってのも、なんかゲームのパーティーっぽくないな。」

 シオリは言う。

「ふつうに、エリカとは今も連絡を取ってるわよ。ゲームの進行状況とか報告し合ったりね。エリカには、いつでもうちのパーティーに顔出しなさいよって言ってある。帰ってきたくなったら、いつでもあなたの席空けとくからねとも。あの娘は一応友だちだからね、ゲームを一緒にプレイしなくなったってだけで、現実リアルでの交際は何ら変わりなくつづいてるわ。あたしたちはゲームの中で大半の時間を共に過ごしてるけど、あくまで肉体は現実に生きてるのだから、友だちとしては現実リアルでもつながってられるよ。少し寂しいのはあるけど、逆にいえば新たな仲間とつながるチャンスでもあるわね。別れがあるってことは、出会いがあるってこと。マイナスの事柄に意識を向けるより、未来に来るプラスを楽しみにしたほうが生きててお得でしょ。」

 何ともシオリらしいポジティブな意見だ。

 実際、俺もエリカとは連絡を取り合っている。男女の付き合いがあるからではなく、向こうが一方的に学校の勉強の進捗状況を確認してくるのだ。やってるフリをしてうまくごまかそうかとも思うが、ウソを吐きたくない気もするので言われたとおりに勉強の攻略スケジュールを実行してはいる……。

 というか、やらないとさらに課題を増やされてしまうのだ。

 この女はなぜ、人の勉強の進行管理までしてくるのか。パーティーから抜けた今でも、俺はこいつに縛られてる気分だ。

 メールは人と人をつなぐ偉大なる発明だな、と今のところは感謝しておくことにする。

 そういう意味で寂しいという感覚はちっとも無く、むしろ少しうっとうしいくらいだった。



 シオリが言う、新たな仲間との出会いは実際にその通りになった。


 現在から約2週間前、エリカがパーティーを抜けてからは一ヶ月が過ぎた頃だ。

 その日のゲーム攻略を終え、俺は久々にシムバーガーのアルカディア店を訪れた。

 中世ファンタジーの街並みにやたら目を引く原色の建物は、いつ見ても景観をこっぴどく破壊してる。

「ファンタジー感もあったもんじゃないな。」

 そう独りごちながら、自動ドアを通って中へ入る。

「いらっしゃいませ、ようこそシムバーガーへ。」

 全国共通のあいさつは、異世界でも変わらない。

 店内もチェーン店らしく、よく見る現代的な造り。

 どこでも均質なサービスがなされるとは言っても、異世界においてすらその方針を変えないのはどうなのか。

 意地でもチェーン店のあり方を貫く姿勢は、むしろ尊敬に値するものがある。

 いや、単にスタイルを変えてくことに消極的なだけか?

 人員の確保にも手間どってた新規店舗だ。異世界ゆえの独自の仕様を作れば、新たな初期投資と人材育成の手間がかかる。この異世界店には、そこまでする余裕が無かったのかもしれない。

 最低限の人数で店を回さなければならないためか、今はカウンターに一人のスタッフしかいない。

 以前、エリカと一緒にシフトに入ってたカノンという子だった。

 カノンは客が俺であることに気付くと、少し表情を和らげた。

「あら、マヒロさん……でしたっけ? エリカちゃんのお友だちの。今日は彼女は、ご一緒じゃないんですか?」

 エリカはパーティーから抜けたが、そのことは今言う必要はないだろう。

「お久しぶり。エリカは大体どこで何やってるのか分からんようなやつでさ。今日も一人で寂しく晩ごはんだよ。」

「あはは。カレシさんを放ったらかしなんて、マイペースですねエリカちゃんは。」

 べつにそういう間柄ではないのだが、否定するのも面倒なので何も言わずに注文を告げる。

「この前と同じメニューですね。少々、お待ちください。」

 一ヶ月以上も前に俺が注文した内容を、覚えてたんだろうか。

 カノンはこの頃にはバイトに慣れてきたのか、迷うことなく手順を遂行する。

 待ってる間、店内を見回すと夕食時だというのに客はまばらだった。

 開店した当初はけっこう混み合ってたはずだが、一ヶ月もすると中は閑散としてしまった。

 人気が無いんだろうか。

 大丈夫なのか、この店?

 しばらくすると、カノンが注文の商品を運んできてくれた。

 手つきにもはや、焦りの色は見えない。

「お待たせしました。こちらの商品でお間違えないでしょうか?」

 間違いはなかったので、お盆を受けとる。

「よかったら、こちらもどうぞ。現在、当店では一緒に働いてくれるスタッフを募集しております。気になったら、記載のウェブサイトからご登録いただくか、当店のスタッフに直接お申し付けください。」

 滞りなく業務ができるようになったんだな。

 と感心しつつ、不意に渡された紙にペーパー目を落とす。

 一緒に働いてくれる仲間? こんなところで、何かの勧誘か?

 紙にペーパー書かれた内容は、こうだった。

 

 バイト仲間、急募。

 世界初の異世界バーガー店でショップ、働いてみませんか?

 2週間だけでもOKで、好きな時間を選べるよ。

 教育制度もバッチリで、安心です。

 気になった人は、今すぐ始めてみよう!


 どうも、かなり人手に困ってる店舗のようだ。

 時給は今も変わらす960円。求人広告を出しても人が集まらないのか、客をバイトにスカウトし始めた。

 店内には空席が多いし、受付はカノンが一人で回してる。

 営業ができる最低限の人数しか、ここにはいない。

 どれだけ人が足りてないんだこの店は。

 カノンは困ったような表情で、俺に告げる。

「実はこの店、いま人がどんどん辞めちゃってて。新人のバイトをちゃんと教育せずに現場に立たせて、サービスがちょくちょく滞っちゃうんですよ。そのせいで、お客さまからはクレームの嵐。なのに、人を育てることができる人がいなくて、客足は途絶えるしバイト仲間は次々とバックレちゃうし。今では、この店もこんなあり様で。しまいには、こんな風に店頭でお客さんをバイトに勧誘してるんです。こんなことをしても、お客が遠のくだけだとは思うんですが。店長は、もうこれしか無いんだって。この店が潰れないために、足りてない人をとにかく集めるしか無いんだと。」

 話を聞いてると、店が賑わってない理由が何となく分かった。

 人が足りてないというより、人をまともに育てることをしてないから店が回らないだけだ。

 なぜ、ちゃんとバイトを教育しないのかは謎だが、人員を多く集めようとするだけではこの状況の根本的な解決にはならないだろう。

 だが、逆に今ならここのバイトに簡単に受かりそうだ。

 2週間という短い期間でもいいなら、ゲーム(とあと学業)の進行にそこまで支障を来たさない。客が少ないなら、儲かってる店よりも作業が楽そうだしやってみるのも悪くはないか……?

 どうせ、家にいても暇なんだ。ゲームをしない日は、バイトでも攻略してれば時間が金に変わる。捨てる時間を金にしとけば、それはずっと残ってくれる。黙ってても消費されてく資源を、残る価値に換えておけるのは得だ。

 そう思って、俺はまずバイトを2週間だけ体験してみることにした。

 店内で食事をしてからカノンにとりあえず面接だけ受けたいと告げると、どこで聞いてたのか奥から店長らしき人物がすっ飛んできて、「それはありがたい。今すぐ面接をしよう。」と言い出した。

 明日以降など暇な時でもいいと俺は提案するも、そのちょっと太めな体型の人物は「今が暇な時なんだ。」とバーガー店とショップしては悲しい事実を打ち明けて、俺を奥の控え室へと連れて行った。

 そこで行われた面接とは、いたって形だけのもので聞かれたのはバイトの志望動機といつシフトに入れるのかだ。

 動機なんて暇で金がほしいからなのだが、社会に出てから役に立つスキルを身に付けたいとか適当な事を言っておいた。店長は、聞いてる風で適当に相槌を打ってるだけだ。

 そして、すぐに話を変えてシフトについて聞かれた。

「それで、マヒロ君はいつから入れるんだい? 今から? 今暇なら、すぐにでも現場に出てもらってもかまわないよ?」

「いえ、明日以降がいいのですが。今からは、さすがに無理なんで。」

「明日!?  分かった、明日から入ってくれ。ちょうど明日来るはずのバイトの子が、音信不通になってしまったんだ。連絡が付かない以上、キミに入ってもらうしかない。よかった。キミが来なければ、明日の厨房キッチンは無人になってたところだ。さすがに、それだと営業ができないからねえ。」

 ダメっぽいな、この店。

 そろそろ潰れかねない。明日から働く身としてはさっそく不安になってきた。

 そこまで人手が不足してたとは。

 いや、だからこそお試しでバイトをしてみる分には都合がいいのか。繁盛してる店ほど、仕事の量が増えるし規則も厳しくなってしまいそうだ。

 こういう廃れかけた店舗のほうが、バイトからすれば忙しくもなく楽で自由なのではないか。店長の性格が適当そうなのも、ポイントが高い。下手に意識の高い店長や長く働いてるバイトがいると、目標を高く設定しすぎて面倒な職場になる。

 ここは、そんな事もなさそうだ。

 やる気の低いダメ店長以外は、まともに教育もされてない新人のバイトがほとんど。周りが大体同じレベルのやつしかいない中、最初から高いスキルを求められることもなく気楽にやれるのではないか。

 客にとっての良い店が、働く者にとっても良い職場とは限らない。繁盛店は潰れる心配とは無縁かもしれないが、所詮はバイトなのだから、潰れたら他へ行けばいい。とりあえずは変なバイト先でも働いてみて、そこがダメになったらその時にまた考えるだけだ。無理をして忙しい所に行っても、お店ではなく自分が潰れては元も子もない。

 そんな訳で、俺はこの寂れたバーガー店にショップバイトとして入り、厨房キッチンでハンバーガー類を組み立てるゲームをしばらく攻略することになった。

 その過程で、受付でシフトに入ってるカノンがシムゲームを最近始めた初級プレイヤーであることを知った。

 それまでゲームを全くしたことのないカノンだったが、このアルカディア店でエリカと知り合い興味を持った。

 アルバイターという職業で、現在一人ソロでプレイしているが雇ってくれるパーティーを探して求職中でもあった。

 というか、普通に仲間を募集しているところだったのだ。


 アルバイターは、シムゲームにおいて風変わりな特性を持つ。

 他の職業のように専門的に強い分野というのがなく、力や身の守りなど全てのデータが平均値である。装備はどの職種のものでも身に付けることが可能だが、強力な武器とか防具を扱えるわけではなく中途半端だ。魔法も攻撃・補助・治療の全ジャンルを習得できるが、上位クラスの魔法を使いこなすには魔力がいまいちで、なおかつ覚えるのに多額の金をポイント消費する。

 全体的に能力が平均値しかなく、強くもなければ弱くもないという印象。しかし、TPが全職業で唯一5時間(300分)ある。全ての職業で、時間が平等に3時間(180分)与えられてるのがこのゲームの特徴だが、アルバイターは少し違う。

 アルバイターは、現実の世の中でも比較的多くの時間がある。暇をたくさん持て余してるという意味ではニートという職業が最強だろうが、今のところシムゲームにそういった職種はない。

 よって、金はともかく時間の所有者として最強なのは、シムゲームの中ではアルバイターということになる。現実にはニートというさらなる強者がいるため、ゲームの設定などはまだ生ぬるいと言えるが。

 とにかく、アルバイターという職業は全ての能力が平均値である代わりに、TPが唯一5時間ある稀有なデータを持つ。

 さらに稀なのが、アルバイター固有の技でスキルある『搾取』とエクスプロイト過重労働オーバーワーク』だ。

 搾取とはエクスプロイト、このゲームで唯一の回復魔法という位置づけになる。

 シムゲームでは、時間が従来のゲームでいう『体力』と同じ扱いになるのだが、時間は全てのプレイヤーに等しく与えられていて、失った時間を取り戻す方法はない。

 しかし、よく探せば例外というのはあるものだ。

 アルバイターは自らの時間を売って、雇用主に利益を与える。

 雇用主はバイトを雇うことで、時間のムダを減らせる。

 自らの時間を安い賃金で搾取されエクスプロイトることで、雇い主に金と時間を与えることができる職業なのだ。

 シムゲームでは、アルバイターは自分が持ってる多くの時間をパーティーの仲間や敵に与える(搾取される)ことが可能である。仲間や敵は、TP……要するに体力を回復できる。

 費やした時間は取り戻せないという暗黙のルールが通底するシムゲームにおいて、時間を巻き戻せる唯一の職がアルバイターだ。

 搾取によエクスプロイトって、戦闘でモンスターから削られたTPを戦闘中に回復できる。

 時間がゆるす限りは何度でもTPを搾取されることができ、死亡リスク……納期を守れずに違約金を支払わされる事態を格段に減らすことが可能だ。

 普通のゲームでいうと、パーティーに回復役のキャラが一人いるために、仲間が戦闘不能になる危険リスクを減らせるのと同じだ。ただ、シムゲームに純粋な回復魔法というのは、今のところ存在しない。

 それは、時間は巻き戻せないという考え方が、このゲームの根底にあるからだろう。

 もう一つの固有技はスキル過重労働オーバーワーク

 これもアルバイターならではの技であり、自らのTPを消費して一度に2回行動ができる。

 現実に置き換えると、アルバイターが自分の自由な時間を減らして、一日に2度働くことに相当する。多少、法律に引っかかるところもあるが、働きたい時にたくさん働いて暇な時間を金に換えとく錬金術。

 時間に支配されるのではなく、時間を管理するのが時の錬金術師、アルバイターなのだ。

 賃金が安い分、たくさん働かされてるだけとも言えるが。

 過重労働オーバーワークにより、アルバイターはTPを減らして2度行動できる。

 従来のゲームで言う、一ターンに2回行動ができる反則的な性質をもつ。自由な時間は減るが、動きたい時に動けるのがアルバイターの強みである。

 体力が最強、回復ができる、2回行動可というとんでもなく高性能ハイスペックにも思えるアルバイターだが、だからといって決して強いわけではない。実際に使用してみたプレイヤーからも、むしろ否定的な声のほうが多いのだ。

 その理由として、TPが多くても死亡リスクが減るわけではないことが挙げられる。死亡リスクは、敵モンスターの寿命に依存して決まる期限なので、味方の時間がいくら多くてもリスクを減らすことにはならない。

 また、回復技や2回行動も、結局自らのTPを犠牲にする技であるために、アルバイター自身の死亡リスクが高くなってしまう。

 時間を多く持ってるだけでは、リスクは減らない。

 アルバイターの生存には安定感がなく、いつ死ぬか分からない。

 お金のリスクがかかるシムゲームにおいては、この職業はどうしても避けられやすい傾向にある。時間という資源を唯一自由に操れるアルバイターだが、その生存には現実でもゲームでも安定感が欠けていた。

 少し特殊な職を選んでプレイしてるバーガー店のショップバイト店員カノンだが、俺はたまたま彼女と同じ時間シフトに入ってる時にパーティーに誘ってみた。

 客が来ない店の暇な時間に、うちのパーティーが今3人しか仲間メンバーがいないことと抜けたエリカの代わりに一人人員を補充したいと思ってることなどを話した。

 エリカが現在、上級者のパーティーに加入してることも告げると。

「エリカちゃんは、もうそんなところにまで。分かりました、わたしでよければ白バラ十字団に加入します。わたしはシムバーガーのアルバイト店員ですが、この異世界店をもうちょっとお客さんが足を運んでくれるマシなレベルに、サービスを向上させたいんです。そのためには、お客さんが生きてるこの異世界とゲームのことを、もっとよく知らないといけません。このアルカディア店では、べつにゲームのことを知らないスタッフでも働けます。実際に、店長もシムゲームとかには全く興味がなく、異世界がどういうところかも知らないまま現実リアルと同じように営業してます。ですが、このままではお客さんの目線に立ったサービスが、いつまでもできないと思うんです。わたしはゲームをプレイして、お客さんやエリカちゃんがどんな世界を旅して、何を見てるのかをもっと知ろうと思います。」

 カノンは快く了承してくれた。

 こうして、我がパーティーに新しく仲間が加わった。

 それから2週間が経った今、俺たちは上級のセカイへと足を踏み入れようとしていた。

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