第2話 コレージュの参戦。お見合いの数週間前

 俺はレシリア帝国の1番東側を守っているピーク家の長男コレージュ・ヴァン・ピークである。我が家は近頃、隣国の襲来から最前線の砦で撃墜したとして第二貴族から第一貴族へと昇格すると同時に皇帝陛下より直々に皇女殿下のお見合い相手にされた。


「ただ戦で勝っただけなのに何で俺が皇女殿下のお見合い相手にならないといけないのかねぇ」


 俺は先の戦でこの国を守ったれ皇帝陛下直々に皇女殿下のお見合い相手に指名された。

 こんな事になったのは、この話になるほんの数日前……

 俺はいつも通りの時間に起き、いつも通りの時間に訓練をしていた。


「はっ!はっはああああ」


 俺は約四十キログラム程ある訓練用の剣を両手に一刀ずつもち振っていた。

すると少し小太りの伝令兵が汗をダラダラと流しながら走ってきた。


「若様、大変です!敵国が……敵国が隣の砦に攻め込みました」


伝令兵は息を切らしながら言った。


「む?なんだと?続けよ」


俺は剣を振りながら続きを訊ねた。


「は、はい。『我が砦へ隣国が攻め込んできた。その数およそ十万。我が隊の半数が負傷。至急応援求む』と書いてあります」


 実を言うとそろそろ隣国が攻めてくるのでは?という思いが俺の中に前々からあった。何故ならば、元々、今俺らのいる土地というのは隣国の土地で約百年前に強奪した土地と父より聞いているからだ。


「ほう。とうとう攻めてきたか。ならば『了解した。ピーク家の名にかけて、歩兵四千、騎士団を百騎、近衛騎士団を五十騎と向かう。』とでも書いて送っとけ」


「か、かしこまりました!」


俺は訓練用の剣を放って横にたててあった両手剣をとった。この剣は我が祖先から代々受け継がれている。と聞いたことがある。先代皇帝から授かった宝剣だそうだ。その剣は漆黒の刃に金で装飾されている。“相手をなぎ倒して突き進む”という言葉が似合いそうな剣だ。


「久しぶりの戦だな…よしお前ら出陣する。各々準備をしろ。取り敢えずそうだな…歩兵を四千先行させる。騎馬隊なら後に出てもすぐに追いつくだろう。それに俺の近衛を出す。」


訓練棟にざわめきが走った。俺は続ける。


「何も心配することは無い。これで死んだとしてもそれは貴様らの運が無かったということだ。生きていたならば俺が美味い肉と酒を奢ってやる。だからお前らこの戦に勝つぞ!」


 俺が言い終わり少しの間が空いた後に


“おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!”


 と兵士たちが叫んだ。そしてすぐに自分の装備を整えて門の前に歩兵が、馬小屋の前に騎兵が、俺の周りに近衛が集まった。そして準備を整え終えた歩兵たちが先行して行った。

騎兵のところへ行くと馬の準備をしていた。騎兵は槍や剣を手に持って、『今にも出れます』という位の気迫を持っていた。俺の近衛の準備も終わった。俺は目を閉じて剣を空高く掲げて言った。


「いざ出撃する!!」


“隣国がすぐそこにいる”という好奇心から自分の馬を全速力で走らせていた。


「お前ら遅れるんじゃないぞ!こうしている間にも敵国は攻めてきているんだからなぁ!」


するとあっという間に先行していた歩兵に追いついた。


「俺は先に行ってるぞ?ま、お前らが来る前に戦が終わるかもしれんがな?ガハハハハ!」


少し歩兵を煽っていった。うちの兵達は負けず嫌いなとこがあるからこうした方が士気が上がるのだ。


そうして俺は砦についた。


「ピーク家次期当主、コレージュ・ヴァン・ピーク只今参上した。」


俺は家名を名乗り簡易的にテントで造られた会議室へと入っていった。すると、


「よくぞ来てくれた!先程、我が騎馬隊20騎を偵察として出した。もうそろそろ戻ってくるはずだ」


その言葉に会釈をしながら俺は地図をみた。偵察を出したと言ったな。


「では、その偵察隊の報告を受けたら我々もでます。よろしいですか?」


俺は着いたばかりの兵達に疲れが見られたので偵察を待つふりをして休ませた。

数分後


「偵察隊戻りました」


テントの外を守る騎士が叫んだ。


「左様か、すぐに報告させよ!こうしている間にも敵は動いているのだからな」


俺は声を低く呼びかけた。するとすぐに報告が来た。要約すると

・現在二十キロ離れたところで、歩兵一万、騎馬隊五千、それと物資を運ぶ馬車のようなものが五機であるということ。

・歩兵は槍と剣を、騎馬隊は馬上槍と細剣、そして各隊の中に他とは異なる武器を持った者がいたが目視では見えなかった。

と報告を受けた。


「……左様でございますか。ならば、あとは私に任せてディナーの鴨に合うワインの話でもしていてください」


「何だと?ククッ…ワァーハッハッハ!お主、この我に"逃げろ"などと言うのか。小僧のくせに抜かしおる!」


大口を開けて伯爵は盛大に笑いだす。貴族とはいえ敵を前に逃亡するのは許されないだけではなく、騎士道の誇りを汚すにも等しいことである。


「いえ。逃げるのではなく、夕飯の予定でも決めておいてはという提案です。そして、後方で私の合図があるまで残りの兵を休ませてください」


俺は伯爵の目を真っ直ぐに見つめて言った。


「ほう…この大勢の敵を打ち負かすほどの策があるというのか?」


「はい。この私が勝利を貴殿と帝国の陛下に捧げてご覧にいれましょう!」


「………よかろう。ただし逃げ帰ってきた場合は我が貴様の首を斬る」


「それも承知の上でございます」


伯爵はそう言い残し自分の兵と共に戦場をあとにした。ここの隊長は頑固で有名だった。しかし、その頑固者を説得し隊の指揮を任された事で俺は得意気になっていた。そして近衛の二人を呼んだ。


「リオンとクリスはいるか!?」


「はい。お呼びでしょうか。我が主よ」


「へいへいなんだい主殿」


リオンとクリスは姉弟

リオンは黒く長い髪を後ろで結んでいる。鎧は付けておらず胸元の少し空いた動きやすそうな服を着ていた。背中には彼女の背丈よりも高い170センチメートル程の太刀が腰元には掌くらいの大きさの投げナイフがポーチに入っている。

クリスは関節部と肩にのみ薄い鎧を付けている。背中には幅四十センチ、長さニメートルもある大剣を携えている。姉のリオンよりも背が高く少し口が悪い。その2人を俺は見つめて言った。


「これよりお前達の"近衛騎士団員"の任を解き、新たにリオン・アテネスを"白騎士団団長"に、クリス・アテネスを"第一騎馬隊隊長"となってもらう。異論はないな?」


「勿論です。主殿の為にこのリアン、白騎士団団長を誇りを持って受けさせて頂きます」


「へっ!俺が騎馬隊隊長か。ならばこの仕事を全うしてこの戦を勝利に導いてやんよ!主殿」


二人はさらに深々と頭を下げる。コレージュが率いる軍には大きく分けて3つである。コレージュが直接率いる軍の心臓部分とも言えるであろう"近衛騎士団"。それとは別に動き主に歩兵隊で構成された"白騎士団"。凄まじい機動力で圧倒する第一騎馬隊。例えるならば白騎士団と第一騎馬隊は軍の"左右の翼"となる。


「そうか。よろしく頼むぞ。お前達は俺の兵たちの中で最も信頼している。これぐらいのことは出来て当然だ。さて…これより作戦をお前達に伝える」


机の上に地図を広げて駒やメモ用紙を使いながら細かく説明した。


「作戦の大まかな内容はこうだ。

・まずは敵陣の目前へと第一騎馬隊を突撃させ馬上槍にて敵の前衛を崩す


・敵の前衛が崩れて中に侵入できるようになれば白騎士団を投入し中の制圧を行う。


・逃げてきたものや敵の手練を近衛騎士団で排除する


とういう感じだ」


説明が終わり、質問などが終わると足早に二人は出ていった。


「なぁ姉さん、いいのかよ。止めなくてさ」


コレージュから離れ自分達の部隊に戻ろうとしたところをクレスがリアンのことを呼び止めた。


「何がよ…」


「あんな無茶な策を言われちゃあそう思うだろ!?騎馬隊隊長に任命されたことよりも作戦内容の方が驚いたぜ」


「クリスは主を信じられないというの?数々の戦いに勝利をおさめたあの方を」


「そんなわけじゃねぇんだけどよ。もし、もしもだぜ?仮に失敗すれば主は…」


"死ぬ"という不吉なことまでは言わずにクレスは言葉をとざす。


「そうならないようにするのが私達なんでしょうがバカ」


「あぁ、そうだな…って、今さりげなくバカとか言ったな!コノヤロー!お前だって近衛として主の側にいられないのが寂しいくせによぉ!」


「なななな、なんの事かしら!?」


どちらも主の前以外ではいつもこうらしい。軍の隊長や団長を任されるほどの人物なのにその風格がこの時点で微塵もないのが残念である。

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少しだけ怠惰なお姫様の恋物語 TAMA @TAMAzou1333

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