第22話 模擬戦、想定通り
最初の騎兵隊を率いていたスーリヤは、今では歩兵となって全速で駆けていた。
一方で、最初の歩兵隊を指揮していたコリンズの奴隷シリアナは騎兵隊に転じ、早くもスーリヤたちが残していた装備にあり付いていた。
同時に、こちらがほぼ丸腰であることに気付いた敵の騎兵隊が功を焦ってか単独で動き出すも、それは事前に知らされていた流れの一つだったのでシリアナたちは冷静でいられた。
0
「装備が整い次第、槍兵隊前へ。弓兵も続け――」
最上級生が槍兵を率いて、最前線に立つ。その後ろ、リアルガが弓兵を整列させる。
難しくもなんともない、セオリー通りの陣形。
想定通りに部隊が整うと、スーリヤが率いる歩兵隊が合流した。
が、距離的に彼女らが装備を整え、騎乗する前に敵の第一陣がやって来る。
実戦であれば中々に危ない状況であるが、これは模擬戦。特に騎兵は死傷者がでる可能性が高いので、致命傷と判定されやすい。
「弓兵構え――」
「槍兵構え――」
敵の騎馬隊が見えた。
ここまでの距離を無茶な速度で駆けてきたのか、速度がだいぶ落ちている。それに加えて、アヌス士官学校の生徒たちは重そうな鎧を着ていた。
「――放て!」
まず、弓の号令。
軽い音を立て、矢が弧を描いて騎兵に降り注ぐ。
「――走れ!」
槍兵が続く。
騎兵に向かって助走を付け――
「――放て!」
ぶん投げた。
弓矢よりも、直線的な軌道の一斉射撃。
現代的な弓矢と原始的な投げ槍の投射を持って、敵の騎兵隊のほとんどは致命傷判定を受けて失格となる。
「はははっ! 傑作だな、これは」
敵の状況に、コリンズが腹を抱えて笑う。
「退くことはおろか、立ち止まることすらしないとは。どちらを選んでも無能の証明になるとはいえ、整列した槍と弓に向かって馬鹿正直に進むか?」
げらげらと、楽しそうである。
「指揮官の命令に背いて動いた以上、成果をあげないわけにはいきませんからね」
これが、現実でもよく起こる事態というのが笑えない。
「一応、彼らのフォローをするならばここいらの地面は固く踏み均されてはいませんので」
「くくっ、フォローになっておらんぞ」
「では、あそこまでの重装備で馬を走らせたことがなかったのでしょう。どれも高そうな馬みたいですし」
「そうではあるが。あいつらが馬鹿であることに変わりはあるまい」
リンクは肯定こそしなかったが、否定もしなかった。
「ならば、次も軍師殿の言っていた通りになりそうだな」
敵は挽回しようと躍起になる。
だが、模擬戦において個人の武勇に頼った戦いは評価されない。
したがって、数が多いほうが圧倒的に有利である。
「えぇ、本陣を狙ってくるでしょう。こちらの兵は中央に寄せていますので、大きく迂回してここまで――」
案の定、敵の騎兵隊がそのような動きを見せた。
「自分たちだけは無能ではない、とアピールしたいのでしょうが」
またしても、統率が取れていない。
競うように、騎兵隊は左右からこちらに向かっている。
「ただえさえ寡兵なのに、守り切れると思っているのかあいつらは?」
「おそらく、守るのは自分たちの仕事ではなく、歩兵の仕事だと思い込んでいるのでは?」
ある意味間違っていないが、状況を考えると愚かでしかなかった。
「おかげで、こちらは助かります」
攻められれば、どうしたって混乱が生じてしまう。特に騎兵は恐ろしく映るので、まともに動けなくなる可能性もあった。
「一応、スーリヤが狙われる危険性を考慮していたのですが」
「必要なかったな。馬鹿どもは、俺を討ち取ることにしか価値を見出せないようだ」
これまた、現実でよくあること。
騎士や貴族は身代金が期待できる指揮官しか狙わず、一般兵を軽視する。
「なら、愉快な余興も終わるな」
最後まで楽しませてくれ、とコリンズは目を凝らす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます