Hakoniwa Ville.

Doctor.夢ッ破

第1話

L'histoire du Voyage de la transplantation spatiale en 2228.

Bienvenue dans le conte de fees de 1880.

cest un hommage a jules Verne.

jusqu'a ce qu'un rayon vert soit rencontre.

緑の光が見えるまでのお話。


AGT歴189年。アステロイドベルトの無数の星の一隅に Hakoniwa ville と言う名の美しいコロニーが浮かんでいます。此れよりは私、pittonaccio ピットナッチオが Un ville d'etoiles 星の街への小·旅行にご案内差し上げます。さあ、1880年代に夢見た宙の先の御伽へどうぞご一緒に参りましょう。

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コロニーの中心にはあの歴史上のスタチュー、エッフェル塔の高さに倣って建造された全長1063フィート(324m)のラ·タワー·ノーチラスが中心にそびえ立ち、シャン・ド・マルス広場との間に敷かれたトラフィックパイプがラ・セーヌを模して東西に拡がり、取り囲む形で様々なワームビル郡が林立しています。

左岸リブ·ゴーシュの一画にある堆積層レゴリスで盛られた小高い丘はモンマルトルと名付けられました。此処にはこの程サロン·ド·ムーラン・ルージュが建てられ、深淵に拡がり続けるアリの巣世界へのメインゲートともなっているのです。


アリの巣は、日々急ピッチで拡張してゆきます。通信管制ルー厶、エアコントロール装置、ビュッフェ、食料庫、資材トランク、ファクトリー、リメイク&メンテナンススタジオ、パワープラント、エネルギールーム、リビングサロン、メディカルルーム、食料ファーム、菌酵母培養室、鉱物管理室、プレイルーム、アスレチックジム、ランニングスペース、プール、リラクゼーションルーム、など自給自足を継続維持する為の施設が順次整備され、そして勿論、宇宙線や太陽風、隕石から生活空間を守るシェルターとして機能しています。


そして、ラ·タワー·ノーチラスの後方では現在、フライング·ヨーヨーの組み立てが行われているのが見えますよ。この遊園地のアトラクションのような設備は到着した第4チームが運んできた加圧トレーニングユニットですね。

完成時には外径30フィート、直径110フィートの中心軸レスなチューブ状のドーナツリングが磁力で中空に浮かびます。本体内には、比重の異なるエアー(気体)ルームとリキッド(液体)ルームが計6ブロック有り、高速でジャイロ回転します。


遠心力で様々な重力環境に適応するトレーニングが出来るのですが、作動時には設備自体が発光し、完成時にはイルミネーションが周辺を賑やかに照らしてくれます。ヨーヨーが稼働すると最大で同時に36人が過重力トレーニングを受けられます。材料試験機としての利用もありますので、気圧環境で10G、水圧環境で1000気圧を作り出すことが可能なのです。


これだけの大きなユニットは地下には入れられません。

生活空間は可能な限りアリの巣の中に地殻を持つテラやマーズのような星とは違って、磁気圏が無く、大気が薄く、電離層にも守られていない小さな星では、地表よりも地下空間の方がより安全なので必然的に優先せざるを得ませんものね。


折角、空の先に、宙の先にと夢見て移植した先が実は何処かの地下空間と言うのは少しアンリーズナブルと感じるでしょう。でも物理的に異なった星、特に大気の違う環境をテラフォーミングするなどと言う事が、何万光年も先の星に行くのと同じく荒唐無稽な絵空事である以上、致し方がありません。

気密性の高い地下シェルターは大洋を浮上することなく長時間潜航する巨大サブマリンのよう。


AGT180年以降、3年ごと計4チームに渡って小惑星ヴェルヌに次々と入植してきたスペースシップは無人機を含めて計32基、その内12基はルナベースに還りましたので、ヴェルヌに残ったのは計20基です。現在17基は地表に直立、若しくは水平に接地し、ラ·タワーやワームビルとしてバリエーション豊かな建築物と化しています。


当初イニシャルスタッフ300人、以降、同年代の男女比が同比率の組み合わせで合計740人がこの星に移って来たのですが、テラカレンダーで9年が経過した今、定住入植者は未だ520人に留まっています。既に190人が1クール3年、30人が2クール6年でルナへの帰還を選択しましたので定住率は約70%ですね、中々計画通りには増えません。ルナやそれ以外の異星への数億、数十億単位での分散移植と言うビジョンには全く近づいていないのが現実ですね。どうなるのでしょうね?


本来なら地表に大きなグラスドームを建てて空調を整え、気圧管理し、気密服無しで生活出来るのであれば理想的です。ですが、それを造り上げるのも拡張して行く事も非現実的。特に一体型空間の場合、隕石に直撃されれば一瞬でゲームオーバーですね。地下空間を掘ってシェルターを繋げる方が安全で効率が良いのは言うまでも有りません。



Carendrier spatial multiple.

さて、次にAGTと言う聞き慣れないカレンダー表記についてご説明しましょう。

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テラからの衛星ルナ、惑星マーズへの移植プログラムが始まると、カレンダーがマルチ化せざるを得ません。テラカレンダーとは別に Asteroid Great Trekking として新たな暦こよみを刻むことになりました。


遡ること3百数十年前のテラ歴1895年、南アフリカのケープ植民地相に就任した Cecil Rhodes セシル·ローズがローデシアでこう演説。「神は世界地図が、より多くイギリス領に塗られることを望んでいる。出来るならば私は夜空に浮かぶ星さえも併合したい。」

果たして300年以上を経た現在、形を変えて現実化しているとも言えますね。当時は石油、石炭、そしてダイヤモンドの鉱脈探査が盛んになり、ユナイテッドキングダムを中心とする西欧の海洋国から多くのトレジャーハンターが南アフリカに集結しました。


テラ歴1880年代、セシルがロス·チャイルドの資本でキンバリーに起こしたDe Beers デ·ビアスはその後テラ歴2000年になる迄の一世紀以上、独占カルテルを敷きダイヤモンド価格をコントロールする巨大シンジケートを築きました。南アフリカからエジプトのカイロ迄の大陸縦断鉄道と電線の敷説計画を推し進めるなどの功績も残しながら、彼自身は一生独身で過ごし、インペリアリスト、そしてレーシストと言った陰の部分が有りました。


テラ歴1652年にオランダの東インド会社が補給港として開発したアフリカ大陸の港町ケープタウンは、ボーア人と言われるアフリカーナーが支配していました。彼らはオランダ、ベルギー、フランス、ドイツ、そしてスカンジナヴィア諸国から移植して来た白人たちの子孫でアフリカーンス語を話す民族集団です。


当時カトリック教徒が主流のフランス公告で公民扱いされなかったユグノーやプロテスタントで最大時340万人が居たとされています。彼らは後の1795年にイギリス領となった事により海岸域から内陸に押しやられ、農園の確保と奴隷の獲得を目的として北上します。内陸部、東西の沿岸部を荒々しく開拓して行くこのムーブメントはグレートトレッキングと呼ばれました。

生誕地からの逃避、新天地の開拓と言う共通点があるものの、宇宙移植の旅は無人不毛の地への入植であると言う大きな違いがありますね。


暦はその地域を現すメジャー。テラでも、地域民族ごとに様々な暦や歴史が存在しています。衛星ルナへの本格的な入植計画が始まった西暦2039年はそのままテラ歴2039年に、そして同じく共通歴としてAGT元年と設定されました。テラ歴に同期しますので現在のAGT189年はテラ歴2228年となります。


テラでのカレンダーはテラ歴の紀元前3500年頃にエジプトで発案された通り、恒星ソルと惑星テラの公転、自転、衛星ルナの周回と言う相互関係のバランスでのみ有効である事はお分かりいただけるでしょう。ですがテラやルナでは有効であっても、それ以外の星ではやはり馴染みません。公転、自転ともに違うので、何処かのタイミングを起点としても、あっと言う間に時差が拡がります。


実はマーズの自転はテラの86400秒に非常に近い86160秒なので、僅かに4分差しかありません。サイズが半分程にも違うのに不思議ですね。でもソルから遥かに遠い軌道を周るマーズの公転はテラ基準で687日。なので公転1回転を1年とすると、マーズの1年はテラの1年10ヶ月となります。惑星の公転スピードや自転スピードというのは一体どこから来たのでしょうね?距離やサイズに比例しているとも言えませんので、誰が最初に回したのかな?


マーズへの移植を開始する段階でギャップを調整する為、公転を2分割し、恒星ソルへの最接近地点と最遠地点で1年を分けることにより、平均343.5日を1年とする Settement in Mars calender マーズ入植歴 SM歴が始まりました。結局、星ごとにカレンダーを設定しなければならないのです。この後、少し数字が多くなってしまいますので、くれぐれも目眩めまいにはご注意くださいね。


5231ヴェルヌの場合は公転周期がテラ基準の1550日である一方、自転は僅かにテラの4.3時間でしかありません。便宜上、1年は公転を4分割してテラ時間で平均387.5日、対して自転数6回の25.8時間を1日とし、1年は360日間とします。なので、テラとは1年に5日ないし6日間ズレて行く事になります。これをヴェルヌカレンダーCV歴として設定します。この年、AGT189年はヴェルヌ歴ではCV09年ですね。


但し、テラ歴1967年にパリのCGPM会議で採用された Horloge atmique 原子時計の1秒については全ての星で共有します。原子時の1秒は Degre zero absolu 摂氏-273.15度状態にある時に2つのセシウム133原子間で相互遷移する放射線周期の9192631770倍とする事。これからも暫くは基準単位として使われていく事になるのでしょう。


現在までにルナ、マーズ、セレス、ヴェルヌ。そして次はファイナルプログラムの小惑星1640ネモへの入植プランもありますし、マーズの衛星であるフォボスやダイモスを含めた多くの中間地点に通信と輸送の Bare de Satellite もあります。それぞれにこういった調整が必要なのです。テラ基準が汎用的では無い為、新たな入植地が増える度にマルチプルカレンダーが複雑になって来ました。対比時間はテラの経度別時差とは比べようもありませんね。

5700年前には日時計のオベリスクだけでしたのに。


テラカレンダーは公転1回で1年、自転1回で1日。

ルナはテラカレンダーに準じます。

マーズは公転1回で2年、自転1回で1日。

マーズの衛星フォボスの公転はマーズと同期するので1回で2年、自転3回で1日。

衛星ダイモスの公転は同じく1回で2年、自転4回で1日。

準惑星セレスの公転は1回で4年、自転3回で1日。

そして小惑星ヴェルヌでは公転1回で4年(1年はテラの387.5日)、自転は6回で1日(テラの25時間48分)、テラの1年間にヴェルヌでは360日間、朝と夜は2163回繰り返します。

なのでテラと同じように1自転が1日とするなら1年間が8651日ですね。


ここまでになるとピンと来ない?それでしたら是非3年後に5231ヴェルヌにいらしては如何でしょうか?

ムーラン・ルージュでお逢いいたしましょう。


最終地の小惑星ネモの公転は1回で3年、自転は4回で1日です。1秒、1分、1時間は同じですが、それ以外の年月日、週、曜日は噛み合いませんね。私ピットナッチオも流石に目が回ってしまいます。

何処の星でもカレンダーの刻みが大きく違いますね、一目で分かる時計が欲しい。でもオメガでもパテック·フィリップでも多分無理、マリー・アントワネット妃の時代に遡ってあのルイ·ブレゲさんなら永久マルチカレンダーのコンプリケーションウォッチを作ってくださるかも知れませんわ。何方かタイムマシーンをお持ちの方は貸していただきたいものです。


統一案やマーズ基準案等も様々に何度も提案されているのですが、実際には年月日と言う概念自体が既に意味を失っています。更に四季があると言えるのは地軸傾斜が大きいテラとマーズだけですし、1秒、60秒、3600秒、216000秒·······での新たな規準単位を作る必要があるのかな?

既に60進法や24時間制に汎用性が保てていません。時と地域が変われば文化が変わりますね。



A propos de la construction appelee Earthworm.

カレンダーについては余りにも複雑すぎて簡単に答えが得られそうにありません。なのでここからはコロニーに戻ってワームビルについてお話ししましょう。

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Hakoniwa-ville の街並みを最初に創り出したのは、AGT180年にルナから航行してきた船団ノーチラスのチーム、イニシャルスタッフ300名でした。既にフォボス、ダイモス、と言ったルナ以外の衛星やアステロイドベルトの小惑星セレスへのキャリアを踏まえ、ヴェルヌへは事前の無人着地探査なしでの入植という初トライでもあったのです。


ワームビルと呼ばれているのは、ATV-jules オートメーテッド・トランスファー・ビークル・ジュール という名のスペースシップで、ルナリアンのJ・T・マストンのチームがデザインし、AGT177年に試作機がデビューしました。サイズはジュール・ヴェルヌが愛したノーチラス号に倣って全長240フイート(73.1m)。 今回の小惑星ヴェルヌと、次回の小惑星ネモへの入植プランの為に開発されたこれまでの常識を覆す特異な機体です。


これらのシップも勿論ルナベースで建造され、AGT179年3月に近地点のタイミングでルナを出発、マーズの引力圏に侵入してからスイングバイ、テラカレンダーで10か月宇宙航行をして、180年1月にヴェルヌまでやってきました。双方向航行共に効率的なタイミングは3年に一度だけ訪れます。


スペースシップ・ジュールのそのフレキシブルな躯体は、Nanometal de nitrure de silicium 窒化ケイ素ナノメタルで作られています。そして最大の特徴である擬態、変態機能により、鮮やかなギルマールフォルムに。アコーデオン状の繊細なギャザー模様の躯体はそれまでの硬質なだけの金属外殻を超越し、動物の筋肉と皮膚の関係のように様々な形状で硬化、軟化をコントロール出来ます。

全体が大きな有機細胞膜で出来た布のような構造なので、外装の特定の部分を広げて見せたり、絞りあげて蓑のようになったり、その姿は花弁になり、鳥になり、虫になり貝のように変化します。


恒星ソルからの光や熱を反射したければメタリックな銀白色に、熱吸収が必要な場合や反射光率を下げるためには墨色マット状の外装に変化することにより、表面のアルべドを変えられます。アルべドとは反射能のことで、星の表面でどのくらいの光を反射するかの比較対数ですね。テラは0.367、ルナは0.120、マーズは0.150、ヴェルヌは0.140です。ジュールはその機能によりミラーモード0.989~ステルスモード0.002までの無段階調整が可能です。


もしテラの高気圧大気圏に入ることがあれば、チューブ状になって大気の抵抗を逃がしたり、大気を捉えて滑空したり、パラセーリングのようにふわりと浮かんで見せることでしょう。そして、水面に浮かび、駆ける姿さえ見られるのかもしれません。地表ではテント、パラソル、コンテナ、そしてオフィスや居住空間、シェルターともなります。金属なのに人口の有機体、幻のジュラ紀最大の恐竜 Amphicoelias・fragillimus アンフィコエリアス・フラギリムスのようですね。実はあまりよく分らないのですけれども。


5231ヴェルヌに到着したシップの多くは内蔵する各モジュールをナマコのように躯体から放出。ロケットブースター、燃料タンク、鉱物エレメント生成器、プルトニウム発電装置、エアーメーカー、EMDマイクロ波推進機や姿勢制御ブースター、輸送用カーゴなどの各ユニットごとシップ外に搬出することによって船内空間比率が約55%もの中空の殻となり、より自由なスタイルと居住空間を確保することが出来ます。現在3基は既に解体、地下空間に埋設されてシェルターの壁として利用されています。


スペースシップである事を感じさせないほどに様々なフォルムにメタモルフォーゼし、現在はアーティスチックなワームビル街を形成していますが、必要とあれば各ユニットを再び内蔵させることにより再度ATV-julesとして宇宙空間に飛び立つことが出来るのです。このシップ無くして5231ヴェルヌへのプロジェクトは成し得なかったでしょう。


スペースシップは海面下航行の潜水艦やロケットの歴史の延長上でこれまで進化してきました。

密閉型移動体として潜水艦の歴史は外せませんね。テラ歴1620年にイギリス海軍で秘密裏に敵に近づき攻撃を加える目的で考案、制作された記録があります。まさしくステルス。1864年にはアメリカ南軍やフランス海軍で動力潜水艦が作られ、実際に敵艦を撃沈した記録があるそうですよ。1870年にはジュール・ヴェルヌが ”Vingt Mille Lieues Sous Les Mers”という小説の中で航洋型潜水艦 Nautilus ノーチラス号を初めて登場させましたね。


ロケットという名前については、テラ歴1379年にイタリアの芸術家ムラトーリによる火薬推進式飛行体のロッケッタが始まりと言われています。ロケットの父、ソビエトの Konstantin Eduardovich Tsiolkovsky コンスタンチン・E・ツィオルコフスキーは現代に通じるロケットの様々なアイデアを産み出しました。


ツィオルコフスキーは1903年に水素と酸素による流線型の液体燃料ロケットを考案し、人工衛星、宇宙旅行、宇宙船のみならず、当時から宇宙エレベーターの可能性を予見し、『反作用利用装置による宇宙探検』という論文を発表しました。論文の章の一つには「今日の不可能は、明日可能になる。」と言う先端技術に対する姿勢が表されています。


1857年生まれで1955年に98歳で没しましたが、1957年カザフスタンの Baikonur Cosmodrome バイコヌール宇宙基地から打ち上げられたテラ初の人工衛星スプートニク1号は、ツィオルコフスキー生誕100周年と国際地球観測年の記念事業とされたそうです。彼は「地球は人類のゆりかご、しかし人類はゆりかごにいつまでも留まっていないだろう。」と言う言葉を残しています。同時代を生きたジュール・ヴェルヌも大きな影響を受けていたそうですよ。もしもヴェルヌが1903年に没していなければ宇宙エレベーターを舞台にしたSF小説にまで到達したかもしれませんね。




Hakoniwa ville の日常ももうすぐ10年が経ちます。

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南北の極位置以外に約350ある大小クレーターの内の赤道付近の一つにコロニーはあります。

AGT180年、サロン・ド・ムーラン・ルージュの初代館長はルナニアンのムッシュ・バービーケインが努めていました。オープニングパーティーでは最初のテーマ、コロニーの命名ミーティングが行われ、テラ歴1880年代のパリをオマージュした街づくりとシップ群の織りなすユニークなフォルムがフラワーガーデンを思わせると言う意見に多くのクルーが賛同し、これに当時のジャポニズムブームに掛けて Hakoniwa ville と名づけられたそうです。


J・T・マストンが考えたシップの開発コンセプトは軟体動物のウミウシだったのですが、ある日、ムーラン・ルージュでのパーティーの席上、カリカチュア好きなフレンチ系ルナニアンのフィリアス・フォッグが「見よこのミミズのようなワームビルたちを」と言い出し、これには最初は誰もが失笑をしていましたが、あっという間に根付いてしまったのです。ルナに居るマストンは怒ったでしょうね。


今の館長はフォッグで村長権限を併せ持ち、バービーケインと同じくルナニアンです。当初300人中の60人がテリアン、180人がルナニアン、60人がマーシャンでしたが、現在の520人中、テリアンは30人に減り、ルナニアン450人、マーシャン40人ですね。


実際にテリアンは異星での環境適応力が非常に低く、長期滞在はどうしても難しいのですね。テラには青空があり曇り空、雨、風、雪、強い太陽光、朝昼夕夜、不規則な温度湿度の変化があり、四季が在る。海、湖、沼、川、山、平地、盆地、崖、谷がある。それぞれに草花、昆虫、樹々、動物、鳥が生息。それらを眺め、直接手で触り、動きを追い、匂い、踏みしめ歩き、食し飲み、寒暖を凌ぐ。広い世界に多彩な文化圏が共存しています。


でも異星ではそうした、在るべきものが余りにも無い。密閉された狭い空間から出られない。自動車、電車、船、飛行機での自由な旅行が出来ない。保護空間の外の広い地表には気密スーツを着用しないと出られない。携帯酸素ボンベの容量と言う時間制限がある。生活圏が狭く、景色の変化、異文化の刺激、日常の中での発見。住空間からの逃避も儘なりません。贅沢なテリアンの感覚では足りないものばかりが日毎に増殖して行く。


結局テリアンの多くはそんな環境に耐えきれず、ストレスとノスタルジーでテラに還ってしまいます。結果、グレートトレックプロジェクトでは圧倒的なリーディングチームとなりつつあるルナニアンが中心となり、少数のマーシャン達やセレス、ヴェルヌのアステロイダーとでユナイテッドカルチャーが作られてゆくことが自然に。


入植後、最大のミッションはコロニーの街づくりにあります。地表面も必要ですが、いかに安全で快適な地下シェルターを作れるかが重要ですね。最初の作業は、センター位置に接地したシップ・ノーチラスと左右に拡がり様々なフォルムで建つ10基のATV-Jules同士をシップ間移動用のライフパイプで繋ぎます。


次に、ノーチラスの近くに地下トンネルを掘り始めます。第一段階で直径1フィート深さ30フィートの縦穴をボーリングし、アルべドの地質調査をします。そして各シップの至近でそれぞれ同じくボーリングします。堆積層の浅い部分での地質と強度をチェックしてから、センター部分のみ深さ60フィート地点に、高さ30フィートの横穴を掘り、シールドペーストを塗ります。これが第一ケーブとなり、深度120フィート地点に左右の両方向に向かって高さ30フィートの第2ケーブの横穴を拡げてゆきます。


アルべドには粘土質のカオリナイトが多く含有されているので、残土は一旦街の北側にピラミッド状に積まれた後、壁面シールドや貯水プールの下地材料として再利用されます。ATVの内蔵システムユニットをシップから外に搬出し、地下シェルターに必要なシステムごとに降ろして行き、地下空間での街づくり作業を続けます。あとは各シップ横の調査用竪穴を至近位置から順番に、それぞれ直径10~20フィート深度120フィートの作業穴を掘り地下空間とジョイントしますの。竪穴は地下空間に問題が発生した場合、シャットアウトした部屋の避難通路として機能します。


深度60フィート、高さ30フィートの空間は地下第1層。地質学に明るく都市建築の専門家であるバービー・ケインの設計プランに準じ、ある程度の拡がりが出来た時点で更に60フィート深い第2層を作ります。それぞれの層を横方面に拡張しながら繰り返し、アリの巣を拡げて行きます。何処かで巨大なモグラに遭遇しないと良いのですが、いや、若しくは是非遭遇してみたいものですね。


そして、メインエリアは第3層で、深度1,120フィート、空間の高さ1,000フィート、底面の広さ1スクエアマイルを目指します。ここには人工のソルを天頂に設置し、テラに似せ緑地、湖を作り、植物、動物と共生する地底世界を創出します。Voyage au centre de verne. ですね。


第1層がある程度完成するまでの5年間で 生活するための必要な設備はかなり揃ってきました。移植後暫くはクルー全員が地表のシップ内で居住していましたが、既に地下シェルターで1,000名以上が収容可能となり、地表のシップ内で居住しているのは現在は200名前後となりました。異星人と地底人は既に同義語?となってしまったようです。


シップは9年間に10基が増えましたが、その間、既に3基は地下空間のセーフティーシールドとなっています。なので地表にはラ・タワー・ノーチラス1基とワームビルとなったATVが17基、そしてサロン・ド・ムーランルージュ、建設中のフライング・ヨーヨーが並んでいます。


入植後約1年が経過した頃にフォッグのアシスタント、パスパルトーのアイデアで大気の無い地表で街全体を明るくするクラウドプログラムが始まりました。ラ・タワーからは、太陽風プラズマからコロニーを守るために磁気シールドを発生させているのですが、これを利用して大気の無い空間を照らすプランです。


テラやマーズのように大気があれば、恒星ソルからの光を乱反射して空間に分散させます。テラであればブルースカイですね、水蒸気の保存空間でもあり、気象を変化させます。


同じことは出来ませんので、細かいアルミ紛を半径1,000~1,200フイートの磁気シールド圏で大量に舞わすのです。磁気シールドを切るとアルミ紛は地表に落ち、稼働とともに圏内を舞います。磁気に反応して対流するこのアルミ紛にソルからの弱い光が乱反射して薄明りの霧状に空間を照らすことが出来ます。


言わば人工の Tyndall effect チンダール現象を作り出す。これでHakoniwa villeのあるクレーターが明るくなるのですね。地表がソルに向いている時間帯、白銀色のワームビルとアルミの霧がぼんやりと明るい昼間を演出してくれるようになりました。ダイヤモンドダストに似ています。そして、恒星ソルからの太陽風が強い時期には、アルミ紛が普段よりも激しく舞うような気がしますよ。あっ、そうそう、宙は星の坩堝なのでロマンチックな夜空につきましては演出不要、です。




Bague asteroide.

アステロイドベルトについて少しだけお話しておきます。

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マーズとジュピターの間の宇宙空間に数千万に及ぶ小さな準惑星、小惑星、彗星、更には逆行小惑星などが点在するドーナツ状のエリアがあり、アステロイドベルトと呼ばれます。まあ、殆どは星と言うよりも小さな星屑が広大な宇宙空間に点在して公転しているので、そのエリアに居ても実感は持てない程度です。ですが現実にテラに飛来するメテオライト、コンドライトなど隕石の殆どはここからやって来るのです。ニッケル板にオリビン(ペリドート)の窓があるパラサイト隕石や、天然グラスであるモルダヴァイトなどは美しいですよね。


ルナ、マーズそしてフォボス、ダイモス、セレス、ヴェルヌと続いたプログラムも、間もなく開始される最終計画地の小惑星ネモに入植することが今回のグレートトレックムーブメントの総決算を意味します。


さて、アステロイドベルトにある5231ヴェルヌはこれまでの移植地としては比較にならないほど遠く、小さい星なのです。軌道傾斜は14.9度、直径はこれまで最小の215マイル、円周680マイル弱です。希薄な大気の殆どは窒素で、重力はテラのわずか1.6%。惑星表面ではあるものの、少し大げさに表現すると、宇宙空間に浮かぶスペースステーションの外壁に掴まりながら街づくりをする程に活動環境は過酷です。


ですが大きなテラやマーズに比べると、衛星や小惑星は、レゴリスに奇土類レアアースを含む金属元素が多く含有されています。ケイ酸塩鉱物であるコンドライトやメテオライトにはケイ素、酸素、塩素、マグネシウム、鉄、オリビン、ニッケル、カルシウム、ナトリウム、アルミニウム、銅、クロム、リチウムが含まれています。海がないことも大きく、比重が多く分解されにくい重金属である金、銀、プラチナや、レアメタルのスカンジウム、イットリウム、ランタンからルテチウムなどは、イオン吸着鉱物として地表から比較的浅い位置で採取することが可能です。


ヴェルヌのアルベドや地表すぐ下の土壌からは特にアルミ鉱物が多く産出されていますね。もしかすると沢山の宝石が見つかるかもしれません。スピネル、コランダム、クオーツ、ガーネット、ジルコン、クンツァイト、トルマリン、タイガーズアイ、ジェード、ムーンストーン、ラブラドライト、ラピスラズリ、ターコイズ、マラカイト、·····。既にペリドット、クロム、鉄、チタンなんかも見つかっているので、サファイア、スターサファイア、ルビー、パパラチャ、エメラルドとかもね。


流石に有機質由来のパール、ジェット、アンバー、オパール、アイボリー、とかは無理でしょうけれども。あっ、ダイヤモンドは有っても不思議じやない。

テラやマーズにない何かが見つかるかもしれませんわ。


その昔、6番目の星で出会った狐が王子にこう言いました。Le plus important est invisible 「本当のことは目に見えないんだよ。」見えないのに何故本当なの?見えているのは嘘なの?本当のことはどうやって分かるの?いつ分かるの?何処に在るの?誰が知ってるの?いつか僕にも分かるのかな?




Dire que L'inclinaison de l'axe Terrestre angmente et en temps le geomagnetisme s'linverse.

テラが転びつつあると言う事。

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遡ってテラ歴2031年。地質学者オットー・リーデンブロックの研究チームによって、過去数十万年から数百万年に1度発生してきた地磁気逆転現象が77万年ぶりに始まっていたことが観測され、"L'avenir de la Voie Lactee"科学誌ギャラクシー・フューチャー”に掲載されました。

南北極地のオーロラ異常発生データの解析をキッカケに、電離層の不規則変化、宇宙線の解析、地殻変動データをアルゴリズムした結果、実に15年ほど前から始まっていたことが確認されたのです。


以降数百年~数千年に渡って恒星ソルからの宇宙線の大気圏への入射量が増え、電離層異変や、大気圏の気候変動幅が大きくなり、地殻変動によって火山の大規模噴火や地震を誘発、極端な大気汚染などが氷河期への突入を早めると予想されます。


これとは別に23.43度だった赤道傾斜角が実は23.69度になっていたことが併せて確認されました。地磁気逆転と地軸傾斜が同時に発生し、地磁気の軸が自転軸と乖離する。地軸傾斜が更に継続した場合、一体どれほどの影響があるのか、観測史上初の非常事態と言えますね。


水星は傾斜角0度なので直立状態、天王星の傾斜角は97.86度なので完全に横倒しのまま自転しています。どの程度傾くのかにもよりますけれど、テラの場合は季節の移り変わりに大きな影響があるので、いずれは両極の氷が全て氷解し、大陸が露出、そして現在の北半球が太陽の裏側になってしまうことも想定されます。プラズマ圏、磁気圏、電離層、オゾン層、対流圏全体のバランスが崩れ、大気の一部が宇宙に放出されます。唯一の衛星ルナの Libration 秤動も大きくなり、軌道に変化が出るのかもしれませんね。


2年後の2033年、オットー・リーデンブロックの提言は、テラに生きる76億人の未来を一気に方向づけました。いずれ、テラから宙を見上げるのではなく、宙にテラを見る事になる。

テラ歴1969年に人類初のルナ探査アポロプログラムが行われてから70年、地磁気逆転現象が確認されてから6年が経過したテラ歴2039年、最初のルナ入植地の建設が開始されました。この年は後にAGT紀元年と制定。そしてルナベースはこの後、移植プロジェクトの最重要拠点となります。テラよりも移植先の環境に近く、重力が弱く脱出速度が小さいので、大型スペースシップの建造、離発着には最適といえますね。


当初10機の液水液酸燃料大型ロケットで80人のイニシャルクルーを送り込むことから開始し、初年度に常駐者500名規模のルナベース基地が建設されました。短期クルー、長期クルー、永住予定者を含めて向こう10年以内に人口10000人のコロニーを目指し、以降のマーズ、マーズの衛星、アステロイドベルトの小惑星へのトラフィックコアステーションとなるのです。


さて、ルナベースが運営されて3年ほど経過すると、テラとルナの大きな環境差からテラに戻るには身体的負担が大きく、過重力適応トレーニングが必須となります。骨格の伸び、骨密度の低下、筋力低下、心肺機能及び内蔵の機能低下が顕著になってきます。20年目には、まるでテラに於ける海中生物と陸上生物のように、互いに相容れない別種族となってしまう現実が近づいてきました。


希薄な大気とテラとの重力比16%という弱重力、エリア別温度差、過酷な宇宙線。実際には施設の約90%が地下シェルターというルナ基地での30年間に及ぶ極地生活データを元に、AGT30年、最終目的地1951ネモまでの太陽系内6星への入植プログラムが計画されました。ルナ基地はLa station de core Apolloコアステーションアポロと名づけられ、常駐人口57000人となり、ルナで生まれ育った純粋なルナリアンも31600人、テリアンを抜き人口比率55%を達成しました。


冷暗無人の宇宙に観客不在の humain Zoo 人間動物園を展開してゆく、向こう200年間に及ぶ壮大なグレートトレックムーブメントです。AGT61年、テラ歴2,100年にはテラの地軸傾斜24.6度となり、やはり地軸傾斜は進行しています。遂にマーズへの移植計画を実行する時期が来たのです。この頃にはルナの人口は既に100,000人を超えていました。


マーズはルナとは大きく違います。いつでもテラから384,000kmといった一定距離に居る訳ではありません。恒星ソル周回距離の違いは大きく、テラの公転半径1au=1億5,000万km、周回日数365日に対してマーズは1.5au= 2億2,800万km、780日。公転速度の違いから、直接距離も最至近7,528万km、最長3億7,753万kmと距離が大きく変わります。

テラとマーズが至近距離になる会合機会も2.1年に一度なので、簡単には往復が出来ず、プロジェクト最重要であっても至難の入植地となります。マーズはテラの10%のサイズながら、ルナの10倍の質量、サイズを誇ります。


マーズ入植への関門の一つはその後に続けるための通信環境の構築にあります。グレートトレック計画の為に新たに作られたテラの高レベル通信サテライトが3基、ルナの対テラ側軌道に2基、テラとマーズの中間軌道に3基。テラとマーズの最短近日点で実質片道500秒、最長距離点では片道2,500秒の通信時間が必要とされるのです。宇宙では小さな距離ですが、小さな我々にとっては本当に大きな隔たりです。

改めてですが、マーズはこのような星なのです。

赤道での直径 6,800km

テラとの相対質量 0.1

テラとの重力比40%

表面温度 133k~293k(平均210k)

大気圧 750Pa

平均気温 ー43度C

表面温度は最高20度C

大気の構成比率 二酸化炭素95.32% 窒素2.7% アルゴン1.6% 酸素0.13%

公転周期 687日

自転周期 23時間56分

テラとの会合周期 780日


マーズの地表は鉄分が多く赤錆で覆われているのでレッドプラネットとも呼ばれますが、テラ型プラネットでもあり重力比、気圧がソルシステムの星の中で最もテラに近く、赤道付近では地表温度も比較的高く、鉱物資源も十分に期待できます。大気はほぼ二酸化炭素なので、電気分解するだけで酸素が得られ、地下に豊富に埋蔵されている氷からは水と水素が得られます。こういった環境から長い間、将来のテラに次ぐ第2惑星として期待されてきました。しかし、最大の敵は過塩素酸塩。あらゆる生命の存在を否定し続けてきた細菌キラー、全ての生命の存在を許さない過酸化塩素塩の存在です。


しかしこのリスクへの対応策が完成されないまま、61年が経過しました。イニシャルスタッフ300名でスタートしましたが、現実問題として、各種ロボットだけで液体水素&液体酸素のロケット燃料、そして各種鉱物資源の確保と通信サテライトとしての無人基地を建設する計画にせざるを得ません。出来るだけ近い将来に全てのメンテナンス、製造、輸送システムを完全に無人オートメーション化するための、入植計画を始動することになりました。しかし、衛星のフォボス、ダイモスへの入植にはマーズ以上に期待感が高まります。


9年後のAGT70年、マーズの常駐人工は常に入れ替わり、300人で変わらりません。この年、テラ人工は51億人、ルナ人口12万人。以下、人口推移を記録しておきます。AGT88年、マーズの第1衛星フォボスへの入植が50人でスタート。テラ49億人、ルナ15万人、マーズ350人。

AGT106年、ダイモスへの入植が50人でスタート。テラ46億人、ルナ21万人、マーズ200人、フォボス50人。

AGT136年、テラ44億人、ルナ244000人、マーズ150人、フォボス30人、ダイモス30人。

AGT158年、テラ43億人、ルナ26万人、マーズ110人、フォボス40人、ダイモス30人。

AGT170年、テラ41億人、ルナ27万人、マーズ120人、フォボス50人、ダイモス40人、セレス300人。

AGT189年、現在はルナに次ぐ、とは言ってもマーズの人口は130人のリトルタウンに過ぎません。鉱物資源の第2供給基地としての役割が高く、フォボス、ダイモスは結局通信基地としての役割を担うに過ぎず、どちらも街づくりは叶わず、常に数十人の常駐で落ち着いています。入植者は短期間にルナと往き来し、一時的にもトータルで300人を超えることはありません。


ですがこの年、ルナの入植者は既に29万人に達しています。テラ40億人、ルナ29万人、マーズ130人、フォボス40人、ダイモス50人、セレス350人、ヴェルヌ520人となっています。

実質、テラから至近距離にあるルナのコアステーションアポロは、マーズ、フォボス、ダイモス、セレス、ヴェルヌ、への船団建造、シャトル基地、テラからの通信及び資源中継基地、コントロールセンターとなり、グレートトレックムーブメントの文字通りメインサテライトとなっています。


マーズは完全に鉱物資源の供給基地となり、シャトルが頻繁にルナ基地と往復しています。

AGT170年、アステロイドベルトへの入植が開始され、セレスに300人で入植。

AGT180年、ヴェルヌに300人で入植開始。


ルナに移植してから既に189年間、テラ歴2228年。今では母星テラに帰還したことがない、テラには直接的な知人も親族も居ない純粋なルナニアンやマーシャンも増えました。現在テラに居住している約38億人もそれぞれが文化の違う国家地域で育ち、生活をしています。その言語、生活習慣や文化には地域性があり、メガステーションとなったアポロカルチャーで育った純粋なルナニアンも29万人中の80%に及ぶ23万人となりました。ルナニアンの文化はテリアンのそれとは勿論違います。そして、小人数ではありますが、マーシャンの文化はやはりマーシャン独自の文化です。


結局、マーズやその後の衛星や小惑星に行くスペースマンもその殆どが低重力、希薄な大気での適応力に優れるルナニアンばかりになりました。テラから直接往く者はごく少数ですが、彼らは一様にルナで一定期間の順応生活とトレーニングをしてから次の星に往く適応プログラムを消化しなければなりません。

異なる環境の移植先が増えると、何処に居住する者たちは結局他の星に往くのが肉体的、精神的に大きな負担となってしまいます。


宇宙から見る美しい星テラは、いつからか『重い星』とも揶揄され敬遠の対象にさえなってしまいました。ここ暫くは、テラ、ルナ、マーズの行き来自体は徐々に減り、無人シャトルが物資を積んでの往復をするばかりになっています。母星がテラ、ルナ、マーズのそれぞれの別種族、テリアン、ルナニアン、マーシャン、に分裂してしまうのなら、本来の計画の根本に拘る大きな問題です。しかし、非常事態に突入してしまったテラ以外の星への移住プランを維持するためには同時に定期的、恒久的なテラからの資源供給が必要という大きな課題も残ったままなのです。


プランを遂行するごとに問題点ばかりが増えながらも、マーズに、その衛星フォボスに、ダイモスに、そしてアストロイドベルトにと入植を拡大する長期間のグレートトレックムーヴメントも間もなく最終段階に突入します。

アストロイドベルトに無数ある星々の合計質量のうち約30%を占める最大サイズ、直径1000kmの0001ケレス、そして小さなHakoniwa Villsのある5231ヴェルヌ。この後は11年後のグレートトラック歴200年に予定されている1951ネモへの入植が成功すればコンプリートとなります。


ルナ以降、移植先の星々では低重力環境での活動に適した移動体の製造にこそ適していますが、ソルからの強烈な宇宙線、磁気嵐、太陽風。そして隕石、低気圧、低重力、低温度、などの過酷な環境で、殆どの活動が地下で行われている実態があります。テラから距離が増えると通信も輸送も移動も全てに時間ロスが大きく増えますし、環境に適応すればするほど他の星での活動に支障が出ています。


本来の目的はテラに替わる第2の母星を、若しくはいくつかの星に分かれてテラの数十億人を分散移植させる可能性を探ることでした。ですが近い将来、テラに住むことが困難になってしまった場合、数億人、数十億人単位の受け入れ先は結局確保不可能という現実に突き当たってしまいました。そしてこれから先、ジュピターやサターンに、ましてソラに近いマーキュリーやビーナスに新たな入植計画がプランされることは決して在り得ません。


ところでテラ歴2228年の今年はジュール・ヴェルヌ生誕400年にあたり、ラ・タワーとなっているこの船団の母船ノーチラスは、これまでに他の惑星や衛星に向かった船団とは少しテーマが違います。キャプテンのピエール・J・エッチェルからは船団クルー77名には知らされていませんが、この5231ヴェルヌ星は二度と飛び立つことのない最期の地となるのです。ノーチラス号にとっては神秘の島リンカーン島だとも言えますね。




Le fait que l'unvers soit vivant.

宇宙の宇は空間の広がり、宙は時の移り変わり。宇宙は留まることを知りません。

tick-tac tick-tac



果たして遠い将来、テラに産まれた我々の子孫が更なる地を求めるとするならば遥かアンドロメダ銀河に渡る以外になさそうです。宇宙の銀河はその全てが決して何処にも留まらないのです。宇宙がある場所も特定はできません、何処かの星は常に移動しています。何処かの星に相対していづれかのタイミングにどの方向にどのぐらいの距離で動いているのか?それ以外に表現のしようもありません。


テラの表面は24時間で表面積40000kmを移動しているのでその回転スピードは460m/s、万物は地表ごとマッハ1.4、時速1,700kmで高速移動しています。そのテラはソルの周りを30km/s、マッハ90、時速108,000kmで公転していて、ソルシステムはギャラクシー内を240km/s、マッハ725、時速86万4000kmで移動しています。


離れているお隣りのアンドロメダも我々のギャラクシーも常に高速移動していて、230万光年離れているのですが、122km/sで近づいてもいるそうです。なので40億年後には少しずつ同化します。現に、テラも誕生から46億年、ソラシステムは直径10万光年のギャラクシー内を軌道速度217km/s、時速78,000kmで2億万年~2億5000万年かけて一周しています。40億年以上経てば、アンドロメダはすぐそこに?


余りにも数値が大きすぎて分かりずらいですね。、私たちは起きていても寝ていても、そう、いつでも1秒間に600km、1時間に216万km、1年間に189億km以上、宇宙空間を旅しているのです。ソルとテラの距離は1億4960万kmなので、6日間で往復している計算になりますね、どんなスペースシップでもこんなスピードでは移動が出来ません。

更に宇宙自体が膨張していて、そしてこの宇宙がその外の空間の何処かを移動していれば更に理解の範囲を超えてしまいますね。


今という瞬間は決して留まることがありません。

時系列はただ過去の記憶で自身が今どこにいるかは誰にも答えられないのです。

未来には決して近づけません、往く先こそが未来なのですね。


さて、これまでの約200年弱に及ぶグレートトレックの歴史上、残念ながらテラ発生以外の知的生命体には遭遇することは無かったのですが、果たしてお隣のアンドロメダでは一体いかがなものなのでしょうね?

今となっては、母星テラに生きるテリアンも、テラから出たルナリアンもマーシャンもお互いが異星人エイリアンとなってしまったことを誰も否定できません。


奇しくもテラ暦1895年、南アフリカのケープ植民地相セシル・ローズがローデシアでこう叫んだという記録があります。「神は世界地図が、より多くイギリス領に塗られることを望んでいる。できるならば私は夜空に浮かぶ星さえも併合したい。」


果たして300年以上を経た現在、形を変えて現実化しているとも言えますね。デ・ビアスの創始者としてあまりにも有名な彼は帝国主義、人種差別主義者でもありました。当時は石油、石炭、ダイヤモンド、の採掘そして労働力としての奴隷確保が目的だったので、今では一応の鉱物資源の探索という共通項があるものの、最大の違いは無人の地への入植であるということです。


グレートトレックで地球外の6ケ所の星を踏破する間の障壁の多くは解決していません。テラ、ムーン、マーズ、やケレスの重力圏周回基地として衛星軌道に浮かんでいる4基の巨大シップベースや星間移動するシップを建造するにあたって、その資材の多くを母星テラからの供給に頼らざるを得ない。テラはあまりにも偉大です。これなくしては、海上に浮かんだ金属の船の上で陸地に寄らずに木造船を作ろうとするようなものですね。

そして植物や菌、動物のような有機体がありのままに生き続けられる環境はやはり少ないのです。


テラよりも各段に過酷なマーズや小惑星に植民するのも、決して住みやすい環境を探したり、テラに近づけるべくテラフォーミングすることが目的ではなく、テリアンが異環境でいかに適応、生存していけるのか。死滅への抗いがテーマだとも言えます。


陸、海、空、重力、大気、四季、多種多様な動植物、そして菌の存在。

テラに居ると言われる細菌は約400万種以上とされ、菌は動物にも植物にも必要不可欠です。でも星の表面に人工的な大気圏を作り出したり、大きな重力を作ったり、テラのような菌の生存環境を作り出すことは不可能です。同時に異星での適応者は母星テラの住環境に適応しにくくなる最大の問題点ともなっています。資源は母星テラからの供給が命綱でありながら、一旦、テラを離れた者は誰も元の地には戻れない。


グレートトレックムーブメント200年が経過し30万の異星人にとって、母星だったテラは遠くから観賞する為の宇宙に浮かぶ星の一つとなってしまいました。




Voyage au centre de la verne

ここからは洞窟探査にお付き合いください。

tick-tac tick-tac



さて、ノスタルジーばかりではつまりませんね。この地で現在520人、そして将来は数十倍、数百倍の新たな仲間たちや多種多様な動植物が共に生き続ける星の一つとしなければなりません。ノーチラス船団がAGT179年の年明けにルナを出発後、13か月後の180年初頭に小惑星5231verne に着いてからテラ時間で344時間、つまりヴェルヌ時間の13日間は、地表から44,000フィート上空で全地域を周回していました。今回は事前の着陸調査なしでの入植ですので、まずは地表と地下の環境を上空から出来る限り調査解析して着陸地を決めなければなりません。


Hakoniwa Ville の辺りは少し盆地形状のクレーターです。大気が薄いので星全体に隕石跡と見られる多くのクレーターがあります。水蒸気の噴出口のような跡はいくつか見つかったのですが、火山口は確認は確認されません。赤道付近で、比較的丸く平坦な直径1,920~2,080フイートのクレーターがあり、船団が着地しました。周囲は高さ20フイートから80フィートの壁に囲まれ、水面に丸く広がる波紋に囲まれたような地形です。


ラ・タワー・ノーチラスとワームビル群、サロン・ド・ムーランルージュで構成される地表の街と、日々拡張されていくアリの巣の地下街。地表と地下の双方で浸食して行くことがアストロイダーとして生き続ける手段ですね。特に地下については、第3層の高さ1,000フィート、広さ1スクエアマイルにテラのような人工空間を創り出すことを目指しています。


これとは別に、上空からの調査時点で、このクレーターの東側10マイルほどの地点に水蒸気噴出口のような跡があり、この地下に巨大な空間が存在することが分かっていました。詳細は分かりませんが、鍾乳洞のような空間なのか、玉葱状の巨大クレーターに地下空間に比較して小さめの地表面に蓋がかかった様なものなのかも知れません。何かの鉱物資源が集中して残存していることも考えられますし、地下に液体が張られた湖が在るのかも知れません。フィリアス・フォッグは早い時期から、この地下空間に基地づくりをしたいと言っていましたが、空間の強度も何も分からない段階ではあまりにも早急すぎ、地表クレーターにコロニーを造った経緯があります。


11年後のAGT200年にはマーシャンの別チームがルナ基地以外で初のプロジェクト、小惑星1640ネモへの移植も控えています。ネモはこれまでになく、マーズ横断軌道という特殊性を持ち、環境は全く違います。なのでこの2か所のアステロイドでの結果が未来への方向性を決めるとも言えるのです。


実はフォッグは自称アントニ・ガウディの信者として有名です。彼自身が事あるごとに宣言しているのですから間違いがありません。Anton・gaudiはスペインのカタルーニャ出身のアールヌーボー様式の建築家の一人で、バルセロナのテラ歴1883年に建造が開始されたサグラダ・ファミリアをデザインした人物です。フォッグはノーチラス号のキャプテン、エッツェルとのミーティングを重ね、この未知の洞窟を真のリンカーン・アイランドにするべくプランを練ってきました。地表に建っているノーチラス号も一体いつ隕石によって破壊されるか分かりません。なので一刻も早くこの巨大洞窟内を開拓し、移設、サグラダのようなランドマークとする。最期の地でより長く保存することにも繋がります。


フォッグの心強いパートナー、パスパルトーとノーチラス号のシップクルー9名とフォッグ、エッツェルで合計12名の探索チームは。後2日間でSV09年になるSV08年341日目の夜、Locomotive a six roues 6輪探査車2台、 Chaine equipee de voiture ライフライン搭載車2台、Un vero de roue一輪バイク4台で極秘時に出発、深淵の洞窟探査を敢行しました。殆どの入植者たちには知らされていません。


ライフラインはカーボンナノチューブで通常の電気高伝導ワイアーと電気非伝導ワイアーの2種類に、エアーチューブで各6本、合計18本でそれぞれの全長は10,000フィート。最長60,000フィートまで繋げることが出来ます。地下探索チームと地表の搭載車とを繋ぐライフラインですね。チームからの遠隔操作で巻き上げ巻き戻しが出来ます。


洞窟への入り口はHakoniwa villeの在るクレーターから東方向に10マイルと近いので、地表の探査車から街にいつでも通信することが出来ます。直径2m弱の小さな入り口で入るとすぐに急な坂になっているので、当然ながら車両は入ることなど出来ません。


パスパルトーを先頭に降りてゆくと、全体に粘土質のような地質で少し滑りやすく、いつまでも左回りの下り坂、螺旋状になっています。何度か枝分かれしている処もありますが、調査するとすぐに行き止まりになり、実質は一本道になっているようです。やはり水蒸気のようなガス体か液体が高速で噴出した跡のようです。1マイルほど歩いたところで高さ9フィート、広さ700スクエアフィートほどの小さな広場に出ました。地表40,000フィートに残してある停止型通信サテライトからの位置表示グラフによると深度890フィート、入り口から東北東方向に340フィートと表示されていますね。まだノーチラス号の全長にも及ばない深さです。


広場からは東西2方向に行ける道があり、クルーが2名ずつで探索に入りました。サテライトからの位置情報で、双方ともに多少の上り下りはありますがほぼ東西の両方向に水平移動、ですが100フィートも行かないうちにまた螺旋になりました。左回りの緩やかな下りの坂道になり、残った全員がそれぞれのバングルにあるモニターで成り行きを見守ります。漆黒の地下洞にライトが反射しつつ吸収されている壁がただ無機質に続いているだけです。


何故か双方ともにモニターに映る壁が少し明るくなっているように感じます。すると突然、東方向に歩いて行った2名が急激に落下しました。2人に繋がれたチューブが蛇のように畝って伸びてゆきます。何かに衝突すれば気密スーツに重大な破損が発生、命に拘ります。残ったクルーが必死に手で抑えにかかりますが、その前にセーフティーロックがかかり落下距離18フィート。すると次の瞬間、見計らったように今度は西方向の2名が落下。慌てさせましたが同じく15フィートの落下でロック。どうやらどこにもぶつからず、4名ともに中空にぶら下がった状態のようです。


それぞれの距離は水平方向で310フィート。4名の直線ラインの中心位置は我々の待機している広場から東北東方向に80フィート。深度はそれぞれが200~220フィート、地表から1100フィート前後ですね。地表のライフライン車を使ってゆっくりとチューブを巻き上げ始めると、中空にぶら下がる4名のクルーのライトが虚空を漂う淡い緑の光を捉えたのです。


広場でモニターを見ていた全員が目を見開いた。

何かが・・・・・、動いた。

土竜?

蜥蜴?

蝙蝠?



Continuer a la prochaine fois.

Tick-tac tick-tac



by Doctor.夢ッ破




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