(8)アカリのひみつと準備
「実はボクは、かつてこの街の有力者だった者の娘で、まあ、父は魔王軍を利用して、世界を我が手中に収めようとしていました。」
最初からよくわからないのだが……。とりあえず、アカリは正真正銘の女ということでいいらしい。
「それで、なんだか、途中で裏切って。母親は殺されて、父親は人質として捕らわれたりして。結局、何故か生まれたときから魔力が強かったらしいボクを魔王軍は育てて、ボクは性別を偽ってなんとか生きていたんです。」
「面倒くさいから、敬語はやめろ。それで、お前は、これからどうする気なんだ?」
「ボクは、魔王を倒して、母親の仇を討ちたい!」
「へっ。そういうことなら話は早い。今日は休んで後日、あのゴーレムをぶっ潰す。ところで、あのゴーレムのとこ、お前の家と繋がってるんだ?」
そして、暫くの沈黙が流れ……。
「……わかんない。」
そんな単純な答えが返ってきた。
さて、翌日である。明らかに昨日よりも膨らんだアカリの胸にものすごい違和感を覚えつつも、平常心を心がけ、なんとか普通に接することに成功する。
なんだかんだ言っても、元から美形なアカリは、女といわれてもあまり驚きはなかった。違和感はあるが。
そして準備を済ませ、まずは買い物である。
街の中心近くにあるこの商店街は、いつ行こうともその賑やかさは衰えず、なんなら徐々に賑やかさが増していくような気もする。ひどいときには移動すらままならないし、普通ならばここの商店街は利用しないのだが、如何せん品揃えがいい。これから敵を討つというのであらば、こちらの商店街を使おうということである。
武器を扱う店に入ると、他の店とは打って変わり、静かで客は我々のほかには一人しか居なかった。店主はといえば、奥ですやすやと寝息を立てている。
アカリはといえば、入ってすぐのところに設けられた魔法の杖のコーナーの前に立ち、いろいろなものを見ている。
俺は相変わらず寝息を立てた店主の前に立つと、店主を起こした。
「おい、おっさん。起きろよ。」
昔からこのおっさんは寝起きが悪く、大抵取引をするときは不機嫌になるのだが、今日は珍しくすぐに起き上がった。
「あぁ? ああ、なんだ。ヴァルターか。へえ、奥へ来なさい。そっちのお嬢さんは?」
「ああ、あれも俺の仲間だ。一緒に頼む。」
「へいへい。」
俺はアカリを手招きしてこちらへ寄せると、奥へ歩いていく店主を追いかけ歩いた。
この店には昔からお世話になっていて、あるとき店主からいいもんがあるから見るかね、などと声をかけられ、それ以来そのとき表に出ていない武器も、俺は特権で見せてもらえることになった。
店主は倉庫の扉を開けると、普通の人間ならまず一生見ることのないだろう特殊な武器や強力な武器が安置されていた。
アカリはそのうちの一つに駆け寄ると、目を輝かせて同じ杖をずっと眺めていた。
俺は既にある程度強い武器を持っているので、あまり大きな買い物はせず、武器の手入れ道具のみにとどめた。
アカリには先ほどずっと見ていた杖を買ってやった。現金で。即払いで。
アカリは、宿に向かう途中も、宿の中でも、ずっとその杖を抱きしめていた。流石に、風呂に入るときには俺に預けて行ったが。
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