(6)遺跡
普段よりも早く起きているというのに全く眠気がない。これから始まる遺跡探索にちょっとした興奮を覚えているからなのかもしれない。
そして、アカリは隣ですやすやと寝息を立てている。
――相変わらず、女みたいな綺麗な顔をしている。女と言われても信じてしまうかもしれない。
「おーい、起きろー。」
普段俺がアカリを起こすことはないから今まで気付かなかったが、こいつ、寝ているときに発する声が普段の何倍も高いというか甘いというか。
「ううん、もうちょっと……。」
「もうちょっともクソもあるか。遺跡探索だよ。」
暫く肩を揺すっているが、どうも起きそうにない。どうしたものだろうか。
ふと、俺は脇に手を入れ、少しくすぐってみた。
「んふっ……。ふへへ……。」
ここまで来ると少し気味が悪い。本当に女なんじゃなかろうか……。
「ふえ……?」
何故かアカリはいきなり目を開き、こちらを見てくる。やめろ、そんな不安げな顔をするんじゃない。
「準備しろ。遺跡へ行くぞ。」
アカリは洗面所へ駆け込むと、暫くしてから洋服に着替えて出てきた。
「な、なんもしてないだろうね……?」
「男の趣味ァねぇよ。」
お前が本当に男ならな。別に、女だからといって何かするつもりはさらさらないが。
適当な荷物をもって外にで、林のほうへ歩く。道で黒ずくめの奴がこちらを見ていたが、きっと関係ないと俺は信じている。あんな奴に絡まれたんじゃ生きていけない自信がある。
しかし、その願いはあっさりとへし折られ、約20m後ろにぴったりとくっついてきている。おそらく、アカリは気付いていないのだろうが、かなり殺気立っている。これは警戒を怠ると一瞬で殺される。最近弱い敵ばかり狩っていてその辺の勘が少し鈍っているが、その鈍った勘で感じ取れるほど、奴は殺気立っている。相当危ない。
林に入って暫くすると、漸く例の遺跡の入り口が見えてきた。
その入り口が封印されていたり、閉じられていたりということはなく、ただ忽然とほこらのようなものがある。中を覗くと、長い下り階段になっていた。
俺たちがその遺跡に入り、階段を降り始めると、後ろから
――ガラガラガラ!!
大きな音が聞こえてきた。後ろを振り返ると、先ほど俺たちが入ってきた入り口が見事にふさがれていた。おそらく、可動式の扉があったのだろう。中に人が入ると閉まるようになっているのか、或いは先ほどの黒ずくめが扉を閉めたのか。どちらにせよ、閉じ込められたことに変わりはない。
入り口から入る太陽の光もなくなり、真っ暗になった下り階段。何もみえずあたふたしていると、唐突に階段の脇、俺の隣にあった燭台の蠟燭に火がついた。それにつられるようにその先にある蠟燭にもどんどん火がついていく、そして漸く一番下まで光が行ったかと思うと、そこでひときわ大きな光が見えた。
俺はアカリに「進むぞ」、と目線を送り階段を降り始めた。
一番下にたどり着くと、そこは大きな広場だった。どこから光を取り入れているのかも正直分からないし、ただ大きな空間だけがそこにあるというのはなんとも不自然である。
二人でその空間に足を踏み入れると、今度は階段にも戻れなくなってしまった。つまり、また扉が閉まった。
『我が眠りを覚ます者は誰だ』
どこからともなく声が聞こえる。その声は、大人とも取れる、子供ともとれる、また男性とも取れるし女性とも取れる。なんとも不思議な声であった。
『貴様らは、我が宝を奪いにきたのか?』
「いいえ! 違います!」
俺が否定を入れる前にアカリがそう否定した。俺が否定するよりも、何倍も信憑性が高いのがなんとも。
『では貴様ら、何をしにきた。答えられぬはずなかろう。』
「ボクたちは、街の外の森でゴーレムのようなものと対峙しました。それの正体を、ここにくれば分かるかと思って。」
『その問いに答えよう。あれは、我がカラダよ。不覚にも、魔王軍にのっとられてしもうた。』
魔王ってなんだよ。俺は何に首を突っ込んでしまったんだろうか。
『我のカラダを取りかえすことができたならば、貴様らにいいものをやろうではないか。また、取り返すことができたならばここへ来るがいい。表には、魔王軍の輩が張っている。こちらから出るがいい。』
すると、我々が入ってきたのとは反対側の壁がガラガラと音を立てて開き、廊下の蠟燭に灯がともった。
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