(3)森

 そろそろアカリも戦闘に慣れてきたらしい。そろそろ、森の採集クエストでもやってちょこちょこ金を稼いでいこう。

 適当なクエストを選びだしてアカリを連れ、街の門を抜ける。

 暫くはアカリですらもう見飽きたであろう草原が続く。

 途中、朝食としてアカリお手製サンドイッチを食す。男にしては手先が器用で、料理がとても美味い。今まではわりと外食が多かったのだが、これならば食費削減にもなりそうだ。


「よーし、そろそろ森が見えてくるぞ~。」

 心なしか芝の色が深くなった気がする。いや、おそらく気のせいだろう。いままでも、ここの森には訪れている。今更気付くようなことでもあるまい。

 ちなみに、今この世界に魔王は存在していないことになっている。本当のところは分からないが、少なくとも国の情報ではそうなっている。

 モンスターが襲ってくるのは別にライオンが襲ってくるのと全く同じで不自然なことではないしな。

 とてもきっかりと森と草原の境界線ができている。一歩踏み入れれば、もうそこは森である。

「あれ、こんなに暗かったっけか。」

「森っていうくらいだし、こんなものなんじゃないの?」

俺が前に来たときには、確かにもっと明るかったはずだ。それに、ここに来たのは何年も前の話ではない。というか、割と最近下見にここに来た。そのときは、木漏れ日がとても心地よくて、寝そうになったような記憶もある。

 アカリが何かぼそっとつぶやいたかと思うと、アカリの指先が少し光った。

「これでまあ、暗いのはなんとかなるんじゃないかな。」

アカリはそう言って俺の横を歩く。

 森の中は妙に静かだった。確実に、前に来たときとは空気が違う。

 何か確証があるわけではないが、確かに、前に来たときとは違うのだ。

 名状しがたいこの違和感、なんなのだろうか。

 アカリは特に物怖じした様子もなく、クエストのクリアに必要になる薬草を探して集めていく。

 しかし、俺はその間にも、ずっとなにやら不穏な空気を感じていた。

 どうしても、違和感が拭えない。割り切れない。

 なんだろう、この森は、昔と明らかに何かが違う。しかし、それが何か、分からない。

「ヴァルター、おわったぞー。」

 そこには、屈託のない笑顔で両手いっぱいに草を盛ったアカリが立っていた。相変わらず女らしいその表情は、戦いの場にでてもかわらない。

『ガサガサガサ』

「ん? 今何か変な音しなかったか?」

「いや、してないと思うけど。」

アカリは辺りを見渡しながらそう言った。どうも、この森に入ってから俺はおかしくなってしまったらしい。

『ガサガサガサガサガサガサ』

「やっぱり、何か、変な音が――」

『グガガガガッ、ゲゴガガゴゲ』

全く以て聞き取れないが、アカリの後ろに、確かに巨大なゴーレムのようなものがそびえていた。

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