(2)アカリの能力

「よし、ためしにあの巨大ナメクジに適当に魔法を撃ってみろ。」

俺がそう指示をだすと、アカリはぶつぶつと詠唱を始めた。

 あたりの空気がピリピリと変わりだし、アカリの周りにちょっとした魔力の帯が現れる。

 その光景自体は前にも見たことがあったが、今まで見た奴はここまで濃くでなかった。

 そして詠唱が終わり、アカリは杖を一振り。それなりに大きな火の玉がナメクジに向かって飛んでいく。しかし、そのナメクジはナメクジとは思えないスピードで火の玉をかわした。ヌルヌルとした粘液を撒き散らしながら、アカリの方向へ動く。アカリはそれを避けようと後ろに下がったが、その辺の石ころに躓き転んだ。

 さすがに仲間がやすやすと粘液まみれになるのもどうかと思う。

 俺はスッと体を動かしてナメクジの前に立ちはだかった。

 鞘から剣を取り出し、そのままの流れでナメクジに突き刺す。ナメクジは剣が刺さったまま後ずさり、そして動かなくなった。

 剣を引き抜くと、それとなく気持ち悪い色をした血が流れ出る。正直、あまり見たくはない。

 後ろを振り返ると、尻餅をついたままの体勢でこちらを見るアカリが居た。


 それから何体かモンスターを魔法で焼いたり凍らせたり飛ばしたりして、俺たちは街に戻ってきた。

 その過程で受けた簡単なクエストもそれとなくクリアしていたので、アカリの能力を知れたことと合わせると一石二鳥だろう。

 酒場に入ってクエスト完了の申告を居乳お姉さんにする。

 このお姉さん、ずっと受付をしているが、全然名前を知らない。時々婚期を逃して云々という愚痴をこぼしているから、きっと30歳くらいなのだろう。

 ちなみに俺は23だ。とてもどうでもいい。

 アカリはどうやら17歳らしい。本人が勝手に20になるまで酒は飲まないと決めているらしく、酒は飲んでいない。別にこの国やこの街に酒に関する年齢制限の法律なんてないが、なんとなくそう決めたらしい。

 そんなこんなで俺はいつもの安酒、アカリはオレンジジュースを頼んで適当に飲んで今後の予定を組むことにした。

 アカリは特に今後予定があるわけでもないそうなので、暫くはこの周辺のモンスターを狩るクエストを受けて、アカリが戦場にもう少し慣れたら、少し離れた森の採集クエストだとかを受けるようなイメージをアカリに説明すると、

「採集クエストのほうが、簡単なんじゃないの?」

「わかってねぇな。ただただ雑魚を狩るだけの仕事と、雑魚を狩りながら目的の植物や鉱物を見つけ出す仕事、簡単なのは前者に決まってんだろ?」

「あ、確かに。」

そう言うとアカリはオレンジジュースを口に含んだ。

「っとそうだそうだ。今夜の宿を決めなきゃいけねぇや。お前、どっかアテはあるか?」

「アテ……。ボクも結構馬小屋とかで暮らしてるしなぁ……。」

「じゃあ、そこの安い宿でいいな。俺は、割と、金を、持っている。自慢じゃないがな。」

「完全に自慢じゃん。」

「うるせぇな。」


 その安い宿にチェックインする。ここの宿はベッドではなく布団で、部屋のサイズに関わらず布団はいくらでも出してもらえる。ベッドの宿だと人数に合わせた部屋を借りねばならないが、この宿はそれがないので簡単。正直、どの部屋を借りようが、寝具は変わらない煎餅布団。それならどこを使ったって構わないだろう。

 そして何よりいいサービスが、何故かどの部屋にもそれなりに広い風呂がついていることである。謎サービス過ぎて閉口する。

 とりあえず、あいていた部屋を借りたが、そこもやはり風呂が付いている。

 荷物を下ろしてから、

「風呂、どうする? 俺は別に一緒でもかまわねぇけど。よっしゃ、面倒だし一緒に入るか! よし、風呂行こうぜ。」

そう言いながらアカリの背中を押して脱衣所のほうへ。ものすごい抵抗を見せているが、正直、弱い。魔法使いだし、多少はしょうがないのか。

「ぼぼぼ、ボクはアトでいいですッ!」

「なんだ、つれねぇな。」

俺は諦めてアカリの体に加えていた力を緩めると、一人、無駄に広い湯船につかった。

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