第126話 いじめるやつは、飛んでっちゃえ!!!


(何度見ても、不思議なんだけど。なんであれで、意思疎通ができてるんだ……)


 シャンテに母アルミラージの看病を頼み、タケトとちっちゃい魔獣たちはまた森へ。カナブンに先導されて、アルミラージの巣を知っているというアリと合流した。


 低木の葉っぱの上にいるその小さな茶色いアリがそうらしい。アリが触覚をぴょこぴょこ動かし、牙のような口をガシガシ動かすのをジョルダンがすぐ間近で眺めては「ここから真っ直ぐ行って、クヌギの木を右に曲がったところ?」「へー、その木の根っこにいるの?」などと会話(?)している。


 どうしてあれで会話できているのか横で見ていてもさっぱりわからなかったが、ジョルダンはひとしきりアリを眺めた後、


「うん、わかった。行ってみるよ。ありがとう!」


 と、何やら分かった様子だった。

 さらにそのアリは、タケトの方に顔を向けると小さな牙をガシャガシャと動かす。


「ん?」


 なにか物言いたげなのはわかるのだが、何を伝えたがっているのかは全然わからない。


「ごめん。俺、アリの言葉わかんないんだ……」


 と、戸惑っていたらジョルダンが通訳してくれた。


「ご褒美ちょうだい、って言ってるの」

「あ、そっか。悪い、悪い。忘れてた」


 人間の情報屋に情報聞き出すときと同じく、虫の世界もギブアンドテイクらしい。

 タケトはポケットからクッキーを一枚取り出して、アリが持てそうな大きさに小さくちぎって渡してやる。アリはそれをしっかり受け取ると、カサカサッ葉っぱの上を去って行った。


「んじゃ、子アルミラージさんのところに行くですぅ!」

「みんな、こっちだよー。ついてきてー」


 ジョルダンに道案内され、森の中を歩いた。しばらく真っ直ぐ進んだかと思うと、右に行ってすぐに左に曲がったり、逆の方向に戻ったり。もしかして、アリが歩いた道をそのままたどっているのかもしれない。


 トン吉は途中で歩き疲れたのか、タケトの肩に登ってきて肩の上でウトウトしだした。その後もさらにジョルダンの道案内は続き、本当にたどりつけるのか?と心配になり始めたころ、ようやく一本の大きな広葉樹の古木が見えてきた。


「あの木の根元に巣穴があるって、アリさん言ってたよ」


 ジョルダンが木を指さすが、その木の根元には先客の姿があった。二人の男が、地面に身を屈めて巣がある場所をのぞいている。


「……ちょっとまって」


 嫌な予感がした。タケトは男たちに気付かれないよう小声でフェアリーたちを引き留めると、彼らに茂みに身を隠すよう手招きする。


 茂みの影から様子を伺うと、男の一人が根元の穴に手を突っ込んで、白いモノを引きづりだているのが見えた。遠目でもわかる。あれは、アルミラージの赤ん坊だ。男の手の中でバタバタと暴れている。

 もしかしたら罠を仕掛けたのも、あいつらかもしれない。


「あああっ、赤ちゃんが!」


 ジョルダンが飛び出しそうになるのを、タケトは彼の服を摘まんで制した。


「赤ちゃんを守るんですぅ」


 リーファはどこにいるのかと目で探すと、タケトのすぐ後ろで、どこで拾ったのか自分の五倍はありそうな太い棒を抱えていた。殴りに行く気満々だ。

 その棒をタケトは掴んで止める。


「ちょっと待てって。そんなんで、あんな体格差ある相手に敵うわけないだろ。それより言い考えがあるから、耳貸してよ。トン吉も手伝ってくれるよな?」


 肩にしがみついたまま寝かけていたトン吉をトントンと数回つつくと、ようやく目を覚ましてコクンと頷いた。


「よしっ。じゃあいいか」






 男たちは木の根元にある巣穴に手を突っ込んで、一匹一匹、アルミラージの幼体を引っ張り出していた。


「そっと引っ張れよ。そっと」

「わかってるよ。怪我させちゃ、高く売れねぇからな」


 アルミラージの生体はちょっと高い食用肉としてしか売れないが、幼体はペットとしての需要が高いので高値で売れるのだ。アルミラージの子たちは、怯えて巣の奥の方に固まっているのでそれを取り出すのには骨が折れた。


「手が届かねぇな。この巣穴、ぶっ壊してみるか」

「その方が早そうだな」


 男の片割れが、手に持っていた斧を巣穴のある木の根元に叩きつけようと振り上げたとき、彼らの周りを何か光るものが飛んでいるのが目に入った。


「……なんだ?」


 薄暗くなりはじめた森の中に、それはおぼろげに光を放ちながら男たちを取り囲むように円を描いて、ふわりふわりと飛んでいた。


「虫か?」


 光る羽虫のようなもの。それらは男たちの顔の前でピタッと止まると、彼らの鼻先に指をつきつけてきた。


「この子たちをいじめるヤツは許さないんですぅ」

「そうだよ。ママを待ってるんだからね」


 虫かと思ったソレは、羽の生えた小さな人の姿をしていた。虫ではない。これは。


「こいつら、妖精か!?」


 一人が叫んだ、次の瞬間。


 男たちの周りで、ぶわっと空気が膨れ上がる。空気の渦はまるで巨大な鳥かごのように男たちを閉じ込めた。男たちの周りで竜巻のように荒れ狂う風。逃げ道はない。しかも竜巻の鳥かごは徐々に狭くなり、風の壁が男たちに迫る。


「ぎゃっああ!!」

「な、なんだこれ!?」


 困惑する男たちを余所に、妖精たちは子アルミラージたちをせっせと巣の中に戻すと、巣穴の入り口から二人同時に叫んだ。


「「どっかに飛んでっちゃえ!!!」」


 その声にあわせて、風の壁が完全に閉じる。


「「ぎゃあああああああああ」」


 男たちは竜巻の中に捕らえられると、ぐるぐると激しく渦巻く風に翻弄されたあげく、ポーンと遠くへ吹き飛ばされた。

 それとともに、竜巻もしゅるんと小さくなって消える。あとには、森の静寂だけが残されていた。






「おー。上手いこといったみたいだな。俺、コントロールだいぶ上手くなったんじゃね?」


 タケトは精霊銃を持ったままヒタイに手を当てて目をすがめた。飛んでいった男たちが、少し離れたところにある高木の枝にひっかかってジタバタしているのが見える。


吾輩わがはいも上手くなったです」


 そのタケトの頭の上で、トン吉もフンと小さな胸を張った。


「ほんとにな。これくらいの距離なら、割と細かい調整までできるようになったよな」


 男たちを吹き飛ばしたあの竜巻は、タケトが精霊銃から飛ばした風の精霊だ。トン吉の手も借りて、力を増幅した上で細かなアレンジを加えた。おかげで、こうやって男たちだけを目的の場所まで吹き飛ばすことができた。


「こんだけ脅しておけば、あいつらももうこの巣穴には近寄らないんじゃねぇかな」

「だといいです」


 トン吉はタケトの背中をつたって地面へ降りると、タタタッと古木の根元にあるアルミラージの巣穴へと駆けて行く。

 うっかりフェアリーを吹き飛ばしてないかとちょっと心配になりながら、タケトも後を追う。もし吹き飛ばしてたら、あとで謝っておこう。

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