「クローバーフィールド/HAKAISHA」(2008)……一人称視点で描かれる怪獣パニック

原題「CLOVERFIELD」

製作国:アメリカ

監督:マット・リーヴス

製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク

製作総指揮:ガイ・リーデル、シェリル・クラーク

脚本:ドリュー・ゴダード

撮影:マイケル・ボンヴィレイン

プロダクションデザイン:マーティン・ホイスト

衣装デザイン:エレン・マイロニック

編集:ケヴィン・スティット

出演:マイケル・スタール=デヴィッド、マイク・ヴォーゲル、オデット・ユーストマン他


 舞台はニューヨーク。日本への栄転が決まったロブのために、賑やかな送別会が開かれていた。しかしその最中、突如として爆音と地響きが轟いた。慌てて外に出てみると、遠くのビルの間に爆炎が巻き起こり、瓦礫が飛んでくる。ただごとではないと察知した一同はその場から逃げ出し、外へと避難するも、今度は自由の女神の頭部が吹き飛ばされてくる。一体何が起こっているのか? パニックに陥る市民は、巨大な生物の影を目撃する――。


 J・J・エイブラムスのプロデュースで制作された作品。映画の内容は徹底的に秘匿されていて、首が飛ばされた自由の女神像というビジュアルの公開、作中の事件に関連する架空の団体のサイトを開設するなど、その宣伝戦略も話題を誘った。映画の内容は「巨大怪獣がマンハッタンを襲撃する」というもので、もはや古典的ともいえる怪獣映画である。しかし今までの作品と一線を画するのは、映画の全編において主人公が撮影したハンディカメラの映像のみで構成されているという、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」のようなモキュメンタリー形式の映画となっていること。怪獣映画といえば軍隊やマスコミ、学者など様々な視点から怪獣を捉えるのがひとつのセオリーだが、本作では怪獣パニックの渦中で逃げ惑う民間人の視点からのみ描くことによって、まったく新しい怪獣映画を生み出している。ただし非常事態下でのハンディカメラの撮影のため、画面は一切安定しない。酔いやすい人はまともに観ていられないだろう。


 登場する怪獣は全身真っ白の奇っ怪なデザイン。作中では何一つとして情報が明かされないが、一応身長や体重なども設定されている。体にはデカめの寄生虫が張り付いており、怪獣が動くたびに地上に振り落とされ、人間に襲いかかる。作中では怪獣よりもこの寄生虫のほうが生々しい恐怖を与える存在で、寄生虫に噛まれた人間は「感染」し、血を吹き出して死に至る。また、これも作中では一切語られないが、怪獣はまだ生まれたばかりの赤ん坊で、暴れまわる理由も、慣れない環境に放り出された不安と怯えによるものでしかない。ただ母の姿を求めて歩きまわっているだけなのである。それを踏まえて見ると、この不気味な怪獣にも愛着が湧いてくる……かもしれない。

 作中ではアメリカ軍による攻撃も描かれるが、この怪獣は通常兵器による攻撃が一切通用しない、無敵タイプの怪獣である。エイブラムスは本作の制作に当たり「ゴジラ」へのオマージュを強く意識していたようで、これもその現れであろう。怪獣にくっつく寄生虫という設定も、84年版「ゴジラ」のショッキラスを思わせる。またエンディング曲も伊福部昭を彷彿とさせる楽曲となっている。


 関連作品として、2016年に公開された「10 クローバーフィールド・レーン」、さらに2018年にNetflixで配信された「クローバーフィールド・パラドックス」が存在する。「パラドックス」の方は、本作の前日譚となっている。

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