「ガメラ3 邪神覚醒」(1999)……少女の憎悪が呼んだ破壊と虐殺の地獄絵図

製作国:日本

監督:金子修介

製作代表:加藤博之、石川一彦、小野清司、鶴田尚正

プロデューサー:土川勉、佐藤直樹、南里幸

脚本:伊藤和典、金子修介

撮影:戸澤潤一

視覚効果:松本肇

美術:及川一

編集:冨田功

音楽:大谷幸

総指揮:徳間康快

照明:吉角荘介

録音:橋本泰夫

特技監督:樋口真嗣

特技・撮影:村川聡

特技・照明:林方谷

特技・美術:三池敏夫

造形:原口智生

特技・編集:奥田浩史

特技・操演:根岸泉

特技・助監督:神谷誠

製作担当:森賢正

出演:中山忍、前田愛、藤谷文子他


 前作から三年の間を置いて制作された、平成ガメラ三部作の完結編。前作「レギオン襲来」は続編でありながらも独立した物語となっていたが、今回はシリーズの総決算のような内容になっており、前二作との繋がりが強い。特に「大怪獣空中決戦」での出来事が、本作の物語に大きく関わっている。


 本作のヒロイン・比良坂綾奈は、1995年のガメラとギャオスの戦いに巻き込まれ、両親を失った少女。それ以来ガメラに対して強い憎しみを持ち続け、居候先の親戚や転校先のクラスメートにも心を閉ざしている。綾奈は「ヒーローと敵との戦いに巻き込まれた被害者」という、特撮におけるひとつのタブーに切りこむ存在だ。「ウルトラマンタロウ」の第38話「ウルトラのクリスマスツリー」でも同じような題材を取り上げているが、タロウの方はミラクル星人が少女の救いとなり、テロリスト星人との戦いを描きつつもクリスマス回らしいファンタジックな一編となっているが、こちらの展開に情けなどはない。綾奈の前に現れたのは未知の怪獣の幼体で、綾奈は怪獣にイリスと名付け、勾玉を通じてイリスと交信し、両親の仇をうつべくイリスを育て始める。イリスは綾奈の憎悪に感応し、急速に成長していくのだ。タロウもミラクル星人もいないこの世界では、綾奈は何の救いも与えられないまま闇に堕ちていく。綾奈は草薙浅黄のネガ的存在でもあり、平成ガメラ最後の戦いは、浅黄から力をもらったガメラと、綾奈の憎悪を糧とするイリスという、まったく正反対な者同士の対決となる。少女から力をもらうガメラにとっては、少女の憎悪が最大の敵となるのだ。


 平成ゴジラがファミリー向けへと方針転換していったのに対し、平成ガメラは「ファミリーなんて知るか!」と言わんばかりに、よりハードでシリアスな方向へと向かっていく。前半最大の見せ場である渋谷での戦闘シーンはまさにその象徴。夜の渋谷、人々が大勢行き交う中に突如として落ちてくる火だるまのギャオス。人間などお構いなしに地上に降り立つガメラ。人々はただ驚き逃げ惑うしかない。その日常生活が怪獣によって一瞬で破壊されてしまう描写は、精巧なミニチュアワークとも相まって、たいへん生々しく迫力たっぷりに演出されている。前回で人との繋がりを断ち切ったガメラは、もはやギャオス撃滅しか眼中になく、人を踏み潰し、街を壊し、プラズマ火球をばかばか撃ちまくりながら生き残ったギャオスを討伐する。当然大勢の犠牲者が出るのだが、直接的な死の描写を避けがちな他の怪獣映画とは違い、人をゴミのように殺しまくるのが本作の素晴らしさ。怪獣が出れば人が死ぬ、という当たり前の事実を容赦ない虐殺描写で見せつけてくれる。怪獣映画史上最高の地獄絵図である。


 後半も見せ場の連続だ。成体イリスと自衛隊との戦闘、そして雲上でのガメラとイリスの激しい空中戦。CGによってかつてない高速戦闘が実現された。宙を舞うイリスの美しさも強烈な印象を残す。両者は最終決戦の地、京都へ。火の海と化した京都でついに対峙するガメラとイリス、「ガメラを殺して!」と絶叫する綾奈。そしてクライマックスはJR京都駅構内での屋内戦!前二作をも軽く凌駕する鮮烈な映像の釣瓶打ちだ。ケレン味に溢れたバトルに加え、あらゆるディテールに病的なまでにこだわったミニチュアも圧巻で、まさにアナログ特撮の最高峰だと言える。公開から20年以上経つが、何一つ古びてはいない。至高の一本である。

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