「ヤマトタケル」(1994)……日本神話を大胆にアレンジした幻想特撮絵巻

製作国:日本

監督:大河原孝夫

製作:富山省吾

製作総指揮:森知貴秀

脚本:三村渉

撮影:関口芳則

特殊効果:渡辺忠昭

美術:小川富美夫

造型:小林知己、若狭新一

編集:小川信夫

音楽:荻野清子

殺陣:金田治

特技・撮影:江口憲一

特技・助監督:鈴木健二

特技・操演:鈴木豊

特技・美術:大澤哲三

特技・編集:東島左枝

特技監督:川北紘一

助監督:三好邦夫

出演:高嶋政宏、藤岡弘、篠田三郎他


 東宝によるオリジナル作品。平成ゴジラシリーズに続く看板作品を生み出すために企画されたもので、日本神話を題材にし、ゴジラ映画とは全く異なるコンセプトのもとで制作された。東宝には「日本誕生」(1959)という同じく日本神話を元にした映画があるが、本作はRPG的な要素を取り入れ、よりファンタジー色の強い作品に仕上がっている。またメディアミックスも展開され、小説、漫画、そしてTVアニメまで放送された。


 主人公はヤマトの国に生まれたオウス。クマソ平定を経てヤマトタケルを名乗り、運命に導かれるようにして邪神ツクヨミとの戦いに挑んでいく――というのが大まかなあらすじである。英雄の冒険譚という感が強いが、ヤマトタケルの前には何度も怪獣が立ちはだかり、怪獣映画としてのテイストも色濃い。円熟の川北特撮によって演出された怪獣たちは、ゴジラシリーズとはまた違った趣を持っている。


 最初に現れるのはクマソガミ。クマソ国の守護神で、溶岩の中から現れる、魔神のような怪獣である。両腕を変形させて弓矢や大剣を作り出し、自らの武器とする。身長4メートルと、怪獣としては小柄だが、実車との合成、そしてCGによるモーフィングなども違和感なく、レベルの高いバトルシーンになっている。

 二体目は海の怪獣カイシン(海神の意。「海神ムーバ」と表記する資料もあるが、最近はカイシンで統一されているようだ。玩具はゴッドカイシンという商品名になっている)。上半身がドラゴン、下半身が魚、両手が触手という、全長38メートルの異形の大怪獣。ツキノワの呪術によって生まれた怪獣で、触手でヤマトタケルを海中に引きずり込み、溺死させようとした。海外のクリーチャーめいたデザインに加え、水中メインで戦うという点で珍しい存在である。ここで使い捨てるのは惜しい怪獣であった。

 そして最後に登場するのが最大の敵ヤマタノオロチだ。伝説通り8本の首を持ち、四足歩行を行う。「日本誕生」とかぶるのを避けるためか、西洋のドラゴンのようなデザインで、全長10メートルにもなる巨大な造形物が作られた。これは東宝特撮でも最大級のサイズである。首は操演で動かすため、撮影の際には20人近いスタッフが必要だったという。8つの口から炎を吹き出し、ビオランテのノウハウを活かした突進シーンは迫力大(足はバタバタさせているだけなので、歩いているように見えないのが難点だが)。この怪獣に立ち向かうのが宇宙戦神ウツノイクサガミ。ヤマトタケルとヒロインのオトタチバナ、そして天照大神の使いであるアマノシラトリが一体化した存在で、全身シルバーの大魔神みたいな見た目の、東宝特撮では珍しい巨大ヒーローである。ウツノイクサガミがヤマタノオロチを粉砕し、宇宙に平和が戻るのだった。完。巨大ヒーローだの月面基地だのライトセイバーだの高嶋政宏の目からビームだのといった要素はもはや日本神話からの乖離も甚だしいが、すべてを違和感なく取り込んで一つの和風SFファンタジー怪獣アドベンチャー超大作としてまとめ上げた手腕が素晴らしい。エンタメ作品のお手本みたいな映画である。


 本作はヒットを記録したが、ゴジラ映画に並ぶほどではなかった。そのため予定されていたシリーズ化は白紙に戻り、結局これ一本のみとなってしまった。ちなみに本作の主題歌「RAIN」は、GLAYのデビューシングルである。

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