「八岐之大蛇の逆襲」(1985)……神話の怪獣は宇宙人の侵略兵器

製作国:日本

監督:赤井孝美

製作:澤村武伺

企画:赤井孝美

脚本:伊藤愛子、赤井孝美

特撮:樋口真嗣

音楽:中村暢之

出演:高橋香具美、永山竜叶、米良健一郎他


 DAICON FILMによる自主制作映画。DAICON FILMとは81年から85年にかけて活動した同人制作グループで、後にアニメ会社ガイナックスの主要メンバーとなる庵野秀明、赤井孝美、武田康廣、山賀博之らによって運営されていた。「怪傑のーてんき」「愛國戰隊大日本」「帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発信命令」などの特撮作品を発表して話題となり、知名度を上げていった。そんなDAICON FILM最後の作品となったのが、本作「八岐之大蛇の逆襲」である。


 物語の舞台となるのは、赤井孝美監督の故郷でもある鳥取県米子市。ヤマタノオロチの実在を証明したと主張する米子大学の助教授・田子は、生物学者の桐原祥子とともに、大山へと調査に向かう。田子の発見した石版を台座にはめ込むと、強烈な光とともに祥子が姿を消してしまう。同時に山崩れが起こり、巨大なヤマタノオロチが姿を現したのだった。

 姿を消した祥子は、ヤマタノオロチの操縦席に転送されていた。ヤマタノオロチの正体は宇宙人が生み出した侵略兵器であり、祥子は地球侵略の片棒を担がされる羽目になってしまう。起動したヤマタノオロチは米子市に侵攻を開始、防衛隊との攻防が展開される。


 あらすじを見れば正統派の怪獣ものであり侵略SFに思えるが、コメディチックで軽妙なノリの作品になっている。地球侵略を目論む宇宙人は2000年間も地球で待ち続けていたという気の長さで、平安貴族っぽい衣装をまとったカエルのような見た目と祥子との会話の噛み合わなさも笑いを誘う。防衛軍もやたらハイテンションな人物ばかり、田子や祥子といった一般人もそれに引けを取らないキャラの強さである。序盤以降はほとんどヤマタノオロチと防衛軍の戦闘のみで構成されているが、強烈かつ個性的なキャラクターが物語を引っ張り、一切退屈さを感じさせないのは流石である。


 特撮のクオリティも自主映画とは思えないほどのクオリティの高さで、精巧かつ大量のミニチュアを用意して米子市の町並みをリアルに再現しつつ、それを景気良く壊しまくるのは怪獣映画に求められるカタルシスを存分に感じさせてくれる。またロケット砲の誤爆による市内各所への爆撃や商店街の中を戦車が走るシーンなども特撮へのフェティシズムに溢れる見せ場である。ミニチュアの製作には庵野秀明が協力していて、そして特殊技術は樋口真嗣が担当。当時は84年版「ゴジラ」で特撮業界に入ったばかりであった。樋口は後に平成ガメラシリーズの特撮も手掛けるが、そこで見せた巧みなミニチュア特撮の原点を本作で垣間見ることができる。


 主役となる怪獣ヤマタノオロチは先述したように宇宙人の侵略兵器、つまりはロボット怪獣で、かつてスサノオノミコトに倒された個体を改良したものという設定。着ぐるみは中に入るというよりは背負うタイプで、アップショット用に頭部だけのパペットも用いられた。鳴き声はラドンのものが流用されている。宇宙人の科学の粋を集めて作られたはずなのだが、動かなくなったら蹴飛ばせば直るという雑な作り。また宇宙人は戦争の経験がないので、兵器作りのセンスもどこかずれており、武器が一切搭載されていない。しかし途中で祥子の乱暴さに呼応し、火炎放射を身につける。謎の多いロボットである。


 自主制作映画なので低予算ではあるのだが、どこに予算をつぎ込めば見栄えの良い映像になるかの取捨選択が的確で、東宝や円谷プロの作品に比べても引けを取らない出来に仕上がっている。日本神話というモチーフや、宇宙人の地球侵略といったテーマが壮大さを感じさせつつ、結局米子市内だけで話が終始するというスケールの小ささも、自主制作っぽくてよい。


 DAICON FILMはこの後、劇場用アニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」を制作するためにガイナックスへと発展的解散を遂げる。樋口真嗣は現在に至るまで日本特撮界の第一線で活躍し、近年も実写版「進撃の巨人」や、庵野秀明とともに「シン・ゴジラ」などの大作に携わっている。

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