「空の大怪獣Q」(1982)……連続殺人犯は伝説の巨大怪鳥

原題「Q」

製作国:アメリカ

監督:ラリー・コーエン

製作:ラリー・コーエン

製作総指揮:サミュエル・Z・アーコフ、ディック・ディ・ボナ、ピーター・サビストン、ドン・サンドバーグ

脚本:ラリー・コーエン

撮影:フレッド・マーフィ、ロバート・レヴィ

特撮監修:デイヴ・アレン

特撮:ピーター・クラン

モンスター・デザイン:ランディ・クック

編集:アーモンド・レボウィッツ

音楽:ロバート・O・ラグランド

出演:マイケル・モリアーティ、デヴィッド・キャラダイン、リチャード・ラウンドトゥリー他


 ニューヨークでは謎の猟奇殺人事件が相次いでいた。頭が失くなった清掃員、全身の皮膚を剥がされた大学教授――そして街には人血が降り注ぐ。ニューヨーク市警のシェパード刑事はカルト教団による儀式的な殺人だとにらみ、捜査にあたる。一方、宝石強盗に失敗したチンピラのクインは、逃げ込んだクライスラービルの尖塔に、巨大な卵と怪鳥ケツァルコアトルの巣を発見する。


 ミステリー風のストーリーと、怪鳥ケツァルコアトルの襲撃が並行して描かれるのが特徴的な作品。監督は「悪魔の赤ちゃん」(1974)などを手がけたラリー・コーエン。当時のアメリカ産モンスター映画はファンタジー系の作品が多く、現実を舞台とした本格怪獣映画としてこの時期ではなかなか貴重な一本である。


 ケツァルコアトルとは、もともとアステカ神話の神であり、羽を持った蛇のような姿であるとされている。本作に登場するケツァルコアトルは、蛇というよりはトカゲに翼を生やしたような外見で、体長は約12メートルほどという設定。火を吐くなどの特殊な能力は何も持たず、上空から猛スピードで急降下して人間を襲い、捕食する。白昼堂々出現しているのにもかかわらず目撃者がさほど多くないことから、そのスピードが如何ほどのものか想像できるだろう。


 劇中でのケツァルコアトルは、その全身を映さずに、頭部と足のフルスケールモデルとヘリでの空撮による主観映像だけで演出される予定であった。しかしフルスケールモデルの出来が悪かったことと、「ウルフェン」(1981)とネタがかぶってしまったために、ストップモーションで全身を見せる方向へと方針転換。フルスケールモデルを作り直し、パペットを新たに作成した。「80年代なのにまだストップモーション?」と思われる方がいるかも知れないが、特撮映画においてはまだまだ現役だった。当時ヒットしたハリーハウゼンの「タイタンの戦い」(1981)ももちろんストップモーションによる作品だし、「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」(1980)でも、AT-ATやトーントーンがストップモーションで演出されている。また「ドラゴンスレイヤー」(1981)では、パペットの胴体や関節部を、コンピューター制御されたモーターでプログラム通りに動かすという「ゴーモーション」という手法が確立された。ただ顔などの細部は従来どおり人の手で動かされており、以降はこのストップモーションとゴーモーションの併用が主流となる。

 ケツァルコアトルに話を戻すと、本作のアニメーションは昔ながらのストップモーションであり、それを手がけたのがランディ・クック。彼はのちに「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでアカデミー視覚効果賞を受賞する。また「恐竜時代」(1969)や「異次元へのパスポート」(1980)に参加していたデヴィッド・アレンも本作に協力している。空撮映像にパペットを合成しただけの映像は安っぽいが、ストップモーションの出来はよく、翼の動きにブレをつけるなど、細かい部分まで凝っている。


 ドラマパートは刑事ドラマのような趣。シェパード刑事は連続殺人を追っているうちに怪鳥の存在へと行き着くのだが、すべての事件が怪鳥の仕業ではなく、邪教徒による殺人も実際に起っていたのだから、警察も忙しい。そしてもうひとりの主役が冴えない小悪党のクイン。彼は怪鳥の巣を知る唯一の存在で、彼のパートも並行して進行する。様々な要素を盛り込んだシナリオにグロいスプラッターシーンやお色気シーンもあり、やたらとサービス精神にあふれているのが楽しい。


 アメリカではヒットしたが、日本では公開されなかった。86年には「空の大怪獣」というラドンのパチモンみたいなタイトルでビデオ版がリリース。87年には「襲う巨大怪鳥」という題でテレビ放送された。その後はソフト化の機会はなかったものの、2017年になってようやく国内盤のブルーレイが発売された。

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