「北京原人の逆襲」(1977)……Hong KongでKing Kong
原題「猩猩王」
製作国:香港
監督:ホー・メンファ
製作:ビー・キング・ショウ、チュア・ラム
製作総指揮:ペン・チェン
脚本:イー・クァン
撮影:ソウ・フィチイ、ウー・チョウファ
特撮監督:有川貞昌
特撮効果:久米攻
特撮助監督:川北紘一
特撮撮影:富岡素敬
出演:リー・シュンシェン、イヴリン・クラフト、クー・フェン他
ジョン・ギラーミンによる「キング・コング」のリメイク版が話題になっていた頃、香港ではそれに便乗してコング映画が撮影されていた。それが「北京原人の逆襲」である。香港映画界初の本格怪獣映画を生み出すにあたり、製作元のショウ・ブラザースは日本から特撮マンを招聘。当初は大映のスタッフが制作に当たるも、諸事情あって降板し、その後を継いだのが有川貞昌、川北紘一、村瀬継蔵、富岡素敬を中心とする東宝特撮スタッフの面々であった。着ぐるみの制作から特撮の演出までほとんど彼らの手によるものであり、熟練のスタッフによる特撮とアジア映画らしい娯楽作っぷりの融合によって、単なる便乗映画では終わらない魅力を秘めている。
ヒマラヤ奥地で目撃されたという巨大な北京原人を捕獲するため、探検隊が派遣される。しかし猛獣の襲撃や崖からの転落によって隊員は次々と命を落とし、主人公のチェンただ一人が密林の中をさまよう羽目に。そんな中、チェンは謎の金髪美女アウェイと出会う。アウェイは幼い頃の飛行機事故によってジャングルに放り出され、それ以来ターザン生活を続けてきたというたくましい女であった。アウェイは密林の動物たちと心を通わせるだけでなく、北京原人とも通じ合っていた。アウェイと恋仲になったチェンは、彼女とともに北京原人を香港へと連れて行く。
コングとヒロインが最初から仲良しという点は「キング・コング」より「猿人ジョーヤング」を彷彿とさせる。しかしジョーヤングとは異なり、体の大きさは25メートルもあり、コングらしい大暴れを見せてくれる。その迫力は低予算にあえいでいた当時の国産怪獣映画とは段違い。日本とは趣の異なるアジアの雑多な町並みを巨大なミニチュアセットで再現、豪快にぶち壊しながら暴れまわるさまは、これぞ怪獣映画と言いたくなるようなパワフルさに満ちている。ちなみに北京原人が暴れる理由は、元を辿ればチェン、アウェイ、チェンの元カノ、そして北京原人の四角関係のもつれによるもの。コング映画には美女と野獣の恋物語という側面もあるが、もはや単なる昼ドラである。
コングの生物的なリアルさの表現はギラーミン版に軍配が上がるが、特撮のダイナミックさはこちらの方が上。北京原人が登場する前から本物の虎や象を使った迫力のパニックシーンが目白押しで、クライマックスとなる高層ビル上での攻防も、ド派手な爆発と炎上によって彩られており、壮絶かつ悲壮感たっぷりのラストシーンに仕上がっている。ちなみに北京原人が絶命するシーンの撮影は、スタントマンが拒否したために、着ぐるみの造形を手がけた村瀬継蔵が自ら中に入っており、着ぐるみを燃やしたまま転落するという危険な撮影に臨んでいる。
本作はギラーミン版よりも先に公開される予定だったのだが、制作が長引いたことで一年遅れでの公開となった。そのため香港国内では期待されたほどのヒットにはならなかったものの、欧米での公開時には「ギラーミン版より面白い」と好評だったという。映画監督のクエンティン・タランティーノは本作に対し並々ならぬ愛情を持っているらしく、99年には全米での再上映を断行した。
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