「怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス」(1972)……円谷プロの怪獣コメディ映画

製作国:日本

監督:飯島敏宏

製作:円谷一、満田かずほ

脚本:千束北男

撮影:稲垣涌三

美術:池谷仙克

音楽:冬木透

特殊技術:大木淳、中野稔

出演:犬塚弘、矢崎知紀、小坂一也他


 円谷プロダクション10周年記念作品。「ウルトラQ」や「ウルトラマン」を始めとしたテレビ向けの怪獣特撮作品を制作していた円谷プロにとって初の完全新作怪獣映画であり、東宝チャンピオンまつりの一作として制作された。

 監督は「ウルトラマン」でバルタン星人登場回を手がけた飯島敏宏で、千束北男名義で脚本も担当している。特撮にはウルトラシリーズを支えた大木淳、中野稔、怪獣のデザインには米谷佳晃や池谷仙克と、当時の円谷プロ作品で活躍していたメンバーが集結している。


 主役となるのはハラペコ怪獣ダイゴロウ。原子力潜水艦の爆発事故によって目覚めた古代怪獣の子供であり、母親怪獣が殺されたのち、国の管理下に置かれることとなった。最初はごく小さな赤ん坊だったが、6年間で身長35メートルにまで成長。おとなしく、ひとなつっこい性格なので危険はないものの、その食費はバカにならない。予算不足から食料を減らされ、常に空腹を抱えるダイゴロウ。世の人々は、ダイゴロウに対してこれ以上血税が注ぎ込まれることに反発し、子供たちはダイゴロウを哀れがって町中で寄付を募る。しかし子供らの呼びかけも虚しく、政府はダイゴロウに成長抑制剤の投与を決めるのであった。


 そんなダイゴロウの前に、大星獣ゴリアスが現れる。ゴリアスは雷撃を使い、ダイゴロウをあっさり倒してしまう。ゴリアスの脅威を目の当たりにした役人は一転、ダイゴロウにふんだんにエサを与え、打倒ゴリアスのための特訓を開始する。


 東宝チャンピオンまつり作品ということで、やはり子供向けなのだが、同時期のゴジラシリーズ以上にそれが顕著で、全体的にほのぼとしたコメディタッチの作品に仕上がっている。都市の破壊や怪獣同士の対決よりも、人々と怪獣との交流がメインという珍しい作品でもある。そして人と怪獣の接触が多いゆえに、合成シーンも必然的に多くなるのだが、合成の精度が実に素晴らしい。どのシーンもごくごく自然に怪獣が画面に馴染んでおり、円谷プロの技術力の確かさを感じさせる。ドラマパートでも合成が多用されていて、発明おじさんが同時に二人存在するシーンや、看板の中の水着美女が動き出してグラスを突き出してくるシーンなども見どころ。平凡な市井の人々の生活に、ファンタジックな彩りを添えている。特撮パート、ドラマパートともに童話のような趣なのだが、姪から疎まれる発明おじさんや、役人からの指示とダイゴロウへの愛着の間で揺れる飼育係の葛藤などなど、夢を見るだけでは生きていけない大人たちのままならなさを描いてもいて、大人の視聴者もついつい登場人物に感情移入してしまう。またこの時期にありがちな環境汚染への警鐘も盛り込んではいるが、これは主題というほどでもなく、中心となるのはあくまでダイゴロウと普通の人々の奮闘である。


 怪獣のカッコよさや大規模な破壊シーンを求める向きには物足りなさを感じられるかもしれないが、円谷プロの培ってきた特撮のノウハウがいかんなく発揮されており、クオリティの高い作品に仕上がっている。コメディ系怪獣映画の隠れた名作である。


 発明おじさんの甥っ子役で出演しているのは、「オール怪獣大進撃」で一郎少年を演じていた矢崎知紀。また円谷プロの作品でありながら、小林昭二が「仮面ライダー」のパロディを披露するシーンも。あとで怒られなかったのか?

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