「ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣」(1970)……海から来たる3体の新怪獣

製作国:日本

監督:本多猪四郎

製作:田中友幸、田中文雄

脚本:小川英

撮影:完倉泰一

美術:北猛夫

編集:永見正久

音楽:伊福部昭

特技・監修:円谷英二

特技・合成:向山宏

特技・撮影:真野田陽一、富岡素敬

特技・操演:中代文雄

特技・美術:井上泰幸

特技監督:有川貞昌

出演:久保明、高橋厚子、土屋嘉男他


 行方不明となっていた木星探査ロケット・ヘリオス7号が、太平洋上に落下する。そんな場面を偶然目撃したカメラマンの工藤は、それを調査するために、落下地点に近いセルジオ島での仕事を引き受ける。彼は建設会社の広報や生物学者らとともに島へ乗り込むが、そこで怪獣ゲゾラが出現したことを知る。そして工藤らが海底に沈んだヘリオス7号を調べている最中、ゲゾラが眼の前に現れる――。


 本作は、第三回東宝チャンピオンまつりのうちの一本として公開された。東宝特撮としては「宇宙大怪獣ドゴラ」以来、久々の単発怪獣映画である。本作の原案は、66年頃にアメリカとの共同制作の予定で書かれた「怪獣大襲撃」という脚本。宇宙怪獣ヒドラXが世界規模の大災害を巻き起こすという超大作であった。長らく埋もれたままになっていたこの企画は、「怪獣総進撃」の成功によって怪獣映画の継続が決定した際に再注目され、予算に合わせて大幅な改稿が行われた。その結果が本作である。


 最初に登場するイカの怪獣ゲゾラは、海中に潜んでいるが、その強靭な触手によって陸上でも体を支えることができる。怪力で島民の村を破壊し、また体温が極端に低いため、襲われた者の体には凍傷のような跡が残る。しかし低体温ゆえ高温に弱く、旧日本軍の残した弾薬や石油によって火を起こされ、全身を炙られて死亡。次はカルイシガニの怪獣ガニメと、マタマタガメの怪獣カメーバが現れる。

 さて、本作のタイトルを見た人はほぼ全員が「3体の怪獣が三つ巴の戦いを繰り広げる映画なのだろう」と思うだろうが、そんなシーンはオープニングだけ。本編中ではゲゾラがさっさと倒されてしまうため、三体同時に登場することはないのだ。なお、怪獣の正体はアメーバ状の宇宙生物であり、地球の生物に憑依して怪獣化させたもの。ちなみにこの宇宙生物、本編中では名前は出てこないが、海外版では「ヨグ」と呼ばれているらしい。


 登場する怪獣はすべて水棲生物をモチーフとしており、その造形はどれも秀逸。ゲゾラ、ガニメはスーツアクターの足が巧妙に隠されており、人の体型を感じさせない。ガニメの着ぐるみは常に中腰を強いられるが、そのおかげで甲殻類らしい自然な体型を実現している。カメーバもまたアクターの膝関節を甲羅で覆い隠しており、リアルな四足歩行に加え、空気圧を利用した首の伸縮ギミックによってそのキャラクター性が強く印象付けられる。どの怪獣も従来の着ぐるみ怪獣と比べて異質な個性を放っており、有川貞昌特技監督がエビラやカマキラス、クモンガたちで培ったムシ系怪獣の演出力がいかんなく発揮されている。


 特技監修として円谷英二の名がクレジットされているが、実際には本作のクランクイン直後に亡くなっている。そのため、円谷英二没後最初の怪獣映画となった。しかし円谷のあとを継いだ特撮スタッフと本多猪四郎監督の手腕によって、小粒ではあるものの、怪獣映画のツボをしっかり抑えた作品に仕上がっている。公開形態からして対象は小学生以下の子供たちであろうが、子供受けを一切意識していないようなリアルさ重視の怪獣デザインと渋すぎるキャスト陣もまた本作の魅力の一つだ。

 余談だが、この時期は円谷の死去だけでなく、有川貞昌の退社、東宝特殊技術課の廃止など、東宝特撮は大きな転換点を迎えていた。本多猪四郎も、本作以降はしばらく特撮映画から離れている。

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