「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」(1969)……少年よ、いじめっ子に立ち向かえ

製作国:日本

監督:本多猪四郎

製作:田中友幸

脚本:関沢新一

撮影:富岡素敬

美術:北猛夫

編集:永見正久

音楽:宮内国郎

特技監修:円谷英二

特殊技術:東宝特殊技術部

出演:矢崎知紀、佐原健二、天本英世他


 記念すべきゴジラ映画10作目。この年から東宝は「東宝チャンピオンまつり」をスタート。これは子供向けの新作映画やテレビアニメの再編集版などで構成される上映プログラムで、その第一回目のラインナップが「コント55号宇宙大冒険」「巨人の星 行け行け飛雄馬」そして本作であった。その興行形態ゆえ、本作はガメラシリーズのように明らかに児童向けを意識した作風となっており、「怪獣マーチ」なる主題歌までつけられた。明るい曲調とは裏腹に、怪獣の悲哀を歌い、公害問題まで歌詞に組み込んでいる、意外と社会派の曲である。


 東宝の怪獣映画はもともと「怪獣総進撃」で終了するはずだったが、同作が「ゴジラの息子」を上回る成績を残したこと、そして69年夏に公開された「緯度0大作戦」等の不振によって、東宝は同年9月、怪獣映画の復活を決定。正月の公開に向けて、タイトルさえ決まらぬままに急ピッチで準備が進められた。9月中には脚本が完成、そしてその翌月上旬から撮影開始という突貫工事での制作であった。


 そうして出来上がった本作は、「オール怪獣大進撃」の名のもとに10体もの怪獣が登場。怪獣島を舞台に戦いが繰り広げられる。しかしゴジラ、ミニラ、ガバラ以外の怪獣は全て過去作の映像の流用。カマキラスのみ新規シーンがあるものの、それもほんの一瞬である。特撮シーンの使い回しは企画の段階で決定されていたものであり、脚本も映像の流用を前提に執筆されている。また製作期間の都合だけでなく、予算も全盛期の1/3以下に削られており、円谷英二や有川貞昌ら特撮の主力スタッフが大阪万博の仕事にかかりっきりだったという状況でもあった。それゆえ本作の撮影は本編班と特撮班が統一され、本多猪四郎が本編と特撮の両方の監督を務めている。


 新怪獣ガバラはガマガエルが放射能の影響で突然変異したという設定の怪獣。だがカエルらしさはほとんど残っておらず、普通の直立二足歩行怪獣である。体にイボがあるのと尻尾のないところはカエルの名残だろうか。ガバラは弱い者いじめを好み、ミニラを執拗にいじめている。ミニラは日本からやってきた一郎少年と仲良くなり、勇気を振り絞ってガバラに立ち向かっていく――という筋書き。しかし怪獣の登場するシーンは、実はすべて一郎少年の夢。数ある怪獣映画の中でも、「劇中に登場する怪獣が実在するかどうかも解らない」というかなりの異色作である。しかし「虚構世界の怪獣」というファンタジックな題材を扱いながらも、それと対比させるかのように60年代末のリアルな社会問題を物語に取り込みつつ、一郎少年の成長物語としてまとめあげた本多監督の堅実な職人技が素晴らしい。


 本作以降もゴジラシリーズは「東宝チャンピオンまつり」内の一本として公開されることになり、低予算&児童向け路線が続くこととなる。また本作公開の約一ヶ月後、円谷英二が死去したため、本作が円谷英二の名前がクレジットされた最後のゴジラ映画となった。ただ、特技監修となってはいるが、実際には先述したとおりの理由で制作にはノータッチだったという。

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