「大怪獣ヨンガリ」(1967)……ガメラスタッフが手がけた韓国産怪獣映画

原題「대괴수 용가리」

製作国:韓国

監督:キム・ギドク

脚本:キム・ギドク、ソ・ユンソン

制作:テ・チジェン

撮影:ビョン・インジ

出演:オ・イェンイル、ナン・ジョウン他


 まず韓国の怪獣映画事情について触れておこう。韓国では「プルガサリ」「宇宙大怪獣ワンマグイ」といった怪獣映画が制作されていた。「プルガサリ」は同タイトルの北朝鮮映画があるが、それとは別物で、人型の不気味なモンスターが登場する作品。「プルガサリ」「ワンマグイ」ともにソフト化されておらず、現状では幻の怪獣映画である。「ワンマグイ」の方はフィルムが現存しているようで、近年でも韓国内で上映されることがあるらしい。


 韓国産クラシック怪獣映画の中で、唯一手軽に視聴できるのが「大怪獣ヨンガリ」である。こちらは日本でDVD化されており、安価で入手できる。ただし映像ソースはアメリカ公開版。原題は「YONGARY:MONSTER FROM THE DEEP」で、オリジナル版では100分以上あったものを80分ほどに短縮している上、音声も英語吹き替えである。韓国語音声のオリジナル全長版は、現在は視聴するすべはない。そもそもフィルムはちゃんと残っているのだろうか。


 監督はキム・ギドク(現役で活躍している方のキム・ギドク監督とは別人)。そして特撮パートには大映の特撮スタッフが関わっており、ヨンガリの着ぐるみもガメラシリーズで造形を担当したエキスプロダクションによるものである。そのため特撮部分は日本の怪獣映画とかなり似通った雰囲気で、戦車や航空機もなぜか自衛隊のものばかり。日本との違いといえば町並みくらいのものだろうか。

 ヨンガリ自身も、ツノを生やしたガメラのような顔に加え、熱エネルギーを吸収、口から炎を吐く(口内の火炎放射器が丸見えである)、ツノから切断レーザーを放つなど、ガメラシリーズで見たことのある設定が盛り込まれている。ちなみに鳴き声もバルゴンの流用だったりする。さらに言えば、子供の活躍によって怪獣の弱点を見抜いたり、ヨンガリが子供と一緒にダンスするといった描写も昭和ガメラ的なノリを感じさせる。


 しかし物語も終盤になると「弱点のアンモニアをかけられて全身を掻きむしる」という、日本の怪獣映画では見られないシーンも。さらにヨンガリの死亡シーンは唯一無二のオリジナリティを放っており、怪獣映画史上最もひどい死に方をしたと今でも語り草になるほど。めでたく怪獣を倒せたはずなのに見ていて気分が悪くなるばかりで、その後の子供の「ほんとは殺したくなかったんだよ~」みたいな台詞も白々しく聞こえるだけである。なんでこんな殺し方をしたのか、深読みをするならば、中東の核実験で甦った怪獣が韓国の北からやってくる、というところに何かしらの政治的メタファーがあり、むごたらしく死ぬのもそれゆえ……といったところか。


 1999年には「怪獣大決戦ヤンガリー」というタイトルでリメイクされた。リメイクと言ってもオリジナルとは別物で、ヨンガリのデザインも変わっている。

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