「宇宙大怪獣ドゴラ」(1964)……地上へと触手を伸ばす不定形の巨大怪獣

製作国:日本

監督:本多猪四郎

製作:田中友幸

原作:丘美丈二郎

脚本:田実泰良、関沢新一

撮影:小泉一

美術:北猛夫

音楽:伊福部昭

特技・合成:向山宏

特技・撮影:有川貞昌、富岡素敬

特技・美術:渡辺明

特技監督:円谷英二

出演:夏木陽介、ダン・ユマ、中村伸郎他


 宇宙空間で発生した、謎のテレビ衛生消失事件。一方、地球上でも各地でダイヤモンド盗難事件が相次いでいた。犯人は世界を股にかける宝石強盗団――ではなく、宇宙細胞ドゴラであった。


 本作は「空の大怪獣ラドン」「大怪獣バラン」の系譜に連なる、東宝の単発怪獣映画の一本にして、日本で初めて宇宙怪獣を登場させた映画である。さらに言うと不定形の巨大怪獣を描いたのも国内初だ。

 ドゴラはもともと宇宙空間に生息していたアメーバ状の生物だったが、放射性物質の影響で突然変異的な成長を遂げた怪獣である。「宇宙を海に見立て、そこから生まれた怪獣」というコンセプトの通り、イカやクラゲなどの海洋生物を連想させる。半透明で長い触手を持った軟体生物のような見た目が特徴的だ。


 この今までにないデザインの怪獣を表現するために、透明かつ柔軟性のある素材が必要であった。その条件に適ったのが怪獣の人形でおなじみのソフトビニールである。そのソフビ製のドゴラを糸で吊って水槽に入れ、微妙な水流によってドゴラを操ることで独特の動きを再現したという。今ならCGで自由自在だが、当時はまだまだアナログの時代。実写で再現するために、制約の中で試行錯誤を凝らし、新怪獣の可能性を追求した東宝特撮人の熱意と技術は、間違いなく当時世界トップクラスだっただろう。


 さて、劇中のドゴラの活躍だが――ポスターやスチール写真では、空中を浮遊する巨大なドゴラが地上へと触手を伸ばし、ビルをへし折り、東京タワーを破壊したり、また複数のドゴラが海上のタンカーや工業地帯を襲撃したりするなど、世界の終末を思わせるような恐ろしさがあるのだが、残念ながらこういったシーンは劇中には一切ない。そもそも成体ドゴラが画面に現れるシーン自体が少なく、目立つ破壊活動と言えば橋を触手で巻き上げて地上に落とすくらい。話の大半は警察とヘンテコ外人と宝石強盗団のドラマが占めており、怪獣映画としての面白みを期待すると肩透かしを食らうかも知れない。しかしながら、「重力に反した怪獣」というコンセプト通り、建物や石炭が竜巻のように空へと舞い上がっていく特撮や、ミサイルで打たれたドゴラが燃え上がるシーンの美しさなど、ドゴラにしかない魅力的な映像表現があるのも確かである。怪獣映画というよりは、怪獣によって巻き起こされるディザスターとパニックが主軸の映画というべきだろうか。


 ちなみに東宝怪獣映画における新怪獣の単独出演作は、これが最後。これ以降、怪獣が一体しか登場しない作品は1984年の「ゴジラ」と2016年の「シン・ゴジラ」のみとなる。

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