「モスラ」(1961)……東宝特撮の黄金期を象徴するスペクタクル超大作

製作国:日本

監督:本多猪四郎

製作:田中友幸

原作:中村真一郎、福永武彦、堀田善衛

脚本:関沢新一

撮影:小泉一

音楽:古関裕而

特技・撮影:有川貞昌

特技・美術:渡辺明

特技監督:円谷英二

出演:フランキー堺、小泉博、香川京子他


 東宝が生み出した数多の怪獣の中で、ゴジラと並んで有名なのがモスラであろう。モスラは南太平洋の孤島、インファント島の守り神。蛾の怪獣であり、卵から孵り、幼虫、繭を経て、極彩色の翼を持つ成虫へと変態する。それまでの怪獣と異なり、幻想的、母性的なイメージを持つモスラは、正義の味方として、時にはゴジラの仲間として、多くの東宝特撮映画に登場した。


 そんなモスラが初めて登場したのが本作である。本作は東宝怪獣映画初のワイドスクリーン作品で、構想3年、制作延日数200日、そして2億円(当時)という巨費を投じられた、「ゴジラ」や「ラドン」をも凌ぐ超大作である。監督陣に東宝特撮でお馴染みの本多猪四郎と円谷英二、音楽は「六甲おろし」や「闘魂こめて」などで知られる古関裕而が担当した。後の作品でも繰り返し使われる「モスラの歌」も彼が作曲したものである。


 ストーリーは、インファント島から連れ去られ、東京で見世物にされる小美人を取り戻すべく、卵から孵ったモスラが海を渡り、東京を襲撃するというもの。人間の欲、そして科学文明の増長を批判しつつ平和への祈りを込めた物語である。モスラは日本人にとっては破壊の悪魔であったが、インファント島民にとっては平和の神なのだ。人間が小美人に手出ししなければ、モスラも東京を破壊することはなかったわけである。大まかなプロットはほぼ「怪獣ゴルゴ」と一致していて、怪獣との共存を描く点も同じだが、「モスラ」はよりファンタジックで宗教的な色合いが強く、その作風は全く異なると言っていい。

 特にモスラの不死性を強調しているところは特筆すべきだろう。軍の攻撃で死んだと思われていた幼虫モスラが実は生きており、地底から現れる。原子熱線砲で繭ごと焼き殺したと思ったら美しい翼を広げて成虫となる。「死からの復活」のごときシーンを繰り返し描くことで、モスラはそのたびに神々しさを増し、自身の成長とともに、人智を超越した存在へと変態していくのだ。モスラ誘導の手がかりを教会の鐘に見出すのも、モスラの神秘性をさらに強めるもの。モスラはこれまでの怪獣とは決定的に異なるキャラクター付けがなされており、本作で形作られたイメージは以降の作品でもおおむね継承されている。


 そして本作を語る上で欠かせないのが特撮の凄まじさ。モスラの造形物はそれぞれの形態に応じて大小様々なものが作られ、特に幼虫はスーツアクター9人が入って動かすという全長10メートルの巨大な着ぐるみが作られた。それに合わせた1/20スケールのミニチュアは驚異的なディテールで、その中を進撃してくる幼虫モスラの迫力たるや! そして広大なスタジオいっぱいに広げられた東京タワー周辺の町並みを、今度は小型の自走式幼虫が進んでいく。東京タワーをへし折って繭を作り、そして羽化して飛び立っていく一連の流れは怪獣による破壊の脅威と巨大生物の生命力の神秘が渾然一体となっており、本作を象徴するシーンの一つであろう。またドラマパートにおいても身長30センチの小美人を登場させるための合成が全編に渡って用いられている。東宝特撮黄金期を象徴する、実に贅沢な特撮映画である。


 モスラが出演する映画は多くあるが、本作の直接の続編としては「モスラ対ゴジラ」(1964)がある。また「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」(2003)も、本作の後日譚となっている。

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