「大海獣ビヒモス」(1959)……巨匠オブライエン最後の怪獣映画

原題「BEHEMOTH THE SEA MONSTER」

製作国:アメリカ、イギリス

監督:ユージン・ローリー、ダグラス・ヒコックス

製作:デヴィッド・ダイアモンド、テッド・ロイド

原案:ロバート・アベル、アレン・アドラー

脚本:ユージン・ローリー、ダニエル・ジェイムズ

撮影:デズモンド・デイヴィス、ケン・ホッジス

特撮:アーヴィング・ブロック、ルイス・デウィット、ウィリス・H・オブライエン、ピート・ピーターソン、ジャック・ラビン

音楽:エドウィン・アストリー

出演:ジーン・エヴァンス、アンドレ・モレル、ジョン・ターナー他


 「ロストワールド」「キングコング」で映画史にその名を刻んだウィリス・オブライエンであったが、その晩年は不遇であった。弟子のレイ・ハリーハウゼンが目覚ましい躍進を遂げる一方、オブライエンの立案する企画はなかなか形になることがなかった。そんな状況下で彼が参加したのが「大海獣ビヒモス」である。

 本作は米英合作の映画で、監督はユージン・ローリイ。ハリーハウゼンとともに「原子怪獣現わる」を作ったローリイが、今度はオブライエンと怪獣を撮ることになったわけである。


 本作のストーリーは、核実験の影響によって古代の首長竜が蘇り、ロンドンを襲うという、「原子怪獣現わる」のような王道の展開。核実験や放射能の危険性について執拗に言及し、反核のメッセージを匂わせる点は「ゴジラ」的でもある。特に食物連鎖によって生物の体内に蓄積される放射性物質の量が倍増していくことを説明していくくだりは、放射能汚染の恐怖を示すとともに、さらなる巨大生物の存在をも示唆するもので、その後の展開を期待させてくれる。


 怪獣ビヒモスのデザインは四足歩行の首長竜で、劇中ではパレオサウルスの生き残りだと推測される。体内には電気ウナギのような発振器官を持ち、体内電気を発生させて攻撃するという能力がある。だがこの電気も放射能を帯びていて、浴びた人間はたちまち被爆して皮膚がただれたり、焼けて黒焦げになったりする。ケロイドの特殊メイクがかなり生々しく、グロテスクだ。


 そんなビヒモスに対し、軍は手をこまねくばかり。放射能の塊のようなビヒモスを攻撃し、爆殺すれば、あたり一帯が汚染されてしまうからだ。しかし画期的な閃きが。「ビヒモス自身が、自分の体内の放射能に耐えられず、死んでしまうのではないか」――放射能を蓄えるビヒモスだったが、放射能への耐性がなかったのだ。

 怪獣は放射能に耐えうる体を持っているのが当たり前、という思い込みがあったが、なるほど、普通は耐性なんかないに決まっている(盲点を突かれた気分である)。軍はこのアイデアを受け入れ、ラジウム弾を打ち込んで死を早める作戦に出る。そして物語は、最終決戦に突入していく。


 本作の特撮にかけられた予算は、わずか二万ドル。そのせいでビヒモスが暴れるシーンは少なく、都市に上陸するのも終盤だけ。ビルの合間を練り歩く際の巨大感はなかなかだが、建物の破壊がほとんどないのはやはり物足りないところ。火花を散らしながら鉄塔を倒したりするシーンなど見せ場はいくつもあるのだが……。ちなみに特撮にはオブライエンの名がクレジットされているが、実質的にストップモーションを担当したのはピート・ピーターソン。しかし当時の彼は病気で体調を崩し、自力で立つこともままならず、車椅子での作業となっていた。オブライエンはその作業を手伝っていたようである。そしてこの作品が、オブライエンにとって最後の怪獣映画となった。

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