「大怪獣バラン」(1958)……陸海空を制するムササビ怪獣を討て

製作国:日本

監督:本多猪四郎

製作:田中友幸

原作:黒沼健

脚本:関沢新一

撮影:小泉一

音楽:伊福部昭

特技監督:円谷英二

出演:野村浩三、園田あゆみ、松尾文人他


 「地球防衛軍」(1957)「美女と液体人間」(1958)に続き、東宝が送り出した特撮映画が「大怪獣バラン」である。本編監督に本多猪四郎、特技監督に円谷英二、そして音楽に伊福部昭というもはや説明不要の布陣、そして脚本には、本作が初の怪獣映画となる関沢新一。彼はこれ以降、東宝特撮作品の脚本の担い手となっていく。


 本作は、アメリカへ輸出するためのテレビ作品として制作が始まった。しかし途中で方針転換され、劇場公開用の映画となったのである。その影響か、「空の大怪獣ラドン」以降の東宝特撮作品で、唯一のモノクロ作品となっている。テレビ放送が実現されていれば、世界初のテレビ向け怪獣ドラマとなっていたところであった。


 さて、本作に登場するのはタイトルにもある怪獣バランである。バランは中生代に生息していた巨大生物バラノポーダーの生き残りで、見た目こそ爬虫類だが、ムササビのような飛膜を持ち、滑空飛行をすることができる。身長や体重に明確な設定はないようだが、ゴジラより一回りか二回り小柄なように見える。二足歩行と四足歩行を使い分けるのも特徴的だ(四足歩行時の背中から尻尾へのラインが良い)。


 バランが潜んでいたのは「日本のチベット」の異名を持つ、東北地方のとある部落で、婆羅陀魏山神として信仰の対象になっていた。SF性を強く打ち出した「地球防衛軍」とは異なり、地球上に残る秘境がフィーチャーされているのは、原点回帰というべきか、もしくは海外への輸出にあたりオリエンタルな異国情緒を強く打ち出して視聴者の興味を引くためでもあったのだろうか。いずれにせよ、民俗的な要素が色濃い作風や、山神として祀られるバランの土着的な設定は、これまでの東宝作品と比べるとかなり異色であり、「キング・コング」を彷彿とさせる。


 ただ土着信仰とか山神とかいった要素はあくまでバラン出現までの雰囲気作りにしか過ぎず、バランが現れてからはひたすらバランと人間の攻防が展開されることになる。「ゴジラ」「空の大怪獣ラドン」では都市破壊が特撮のメインだったが、本作ではバラン対自衛隊の対決により重きが置かれている。余計な人間ドラマや、突飛な超兵器を排し、バランへの攻撃を執拗なまでに描いた作風は、地味といえば地味だが、そのストイックさこそが本作の魅力であると言えよう。60年代以降の日本の怪獣映画が怪獣バトル主体、もしくはファミリー向けになっていくため、この手の作品は実は貴重である。


 バランは本作の他にも「怪獣総進撃」に登場。ただし着ぐるみの状態が悪かったため、飛行ポーズのギニョールのみが使用された。それ以外にもいくつかの作品で再登場が検討されていたが、いずれも見送られている。今の技術で再現できたら、さらにかっこよくなりそうなのだが。

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