「極地からの怪物 大カマキリの脅威」(1957)……ユニバーサルが送る昆虫怪獣映画の名作
原題「THE DEADLY MANTIS」
製作国:アメリカ
監督:ネイザン・ジュラン
製作:ウィリアム・アランド
原案:ウィリアム・アランド
脚本:マーティン・バークレイ
撮影:エリス・W・カーター
編集:チェスター・シェイファー
特撮:クリフォード・スタイン
出演:クレイグ・スティーヴンス、ウィリアム・ホッパー、アリックス・タルトン他
カマキリである。両腕に鎌を持ち、空を飛ぶこともできる。通常サイズでもちょっと怖いのに、巨大化したらそれはやはり脅威以外の何物でもない。この映画は、その巨大カマキリが主役である。
巨大カマキリが大暴れする映画、とだけ書くといかにも安っぽそうなイメージを持たれるかも知れないが、これはかなり力の入った出来。日本では劇場未公開、ソフト化も近年までされず、埋もれた名作という扱いであったが、実にもったいないことだ。なお「極地からの怪物 大カマキリの脅威」という邦題はソフト化の際に付けられたもので、それまでは「デッドリーマンティス」や「死の大カマキリ」などといったタイトルで紹介されていた。
巨大カマキリは、北極圏の氷の中で眠りについていた、古代の生物である。南海での火山の噴火がバタフライエフェクト的な気候変動を引き起こし、氷の中から甦った。レーダー基地やエスキモーの集落を襲いながら、アメリカ大陸を南下していく大カマキリ。序盤からアメリカ軍が話の中心に据えられ、巨大生物の正体の究明、対策、迎撃と、物語はキビキビと進んでいく。ただ軍隊がそれほど強くはなく、カマキリを倒せないまま犠牲者は次々と生まれ、さらに最終的にワシントンまでの侵攻を許してしまい、都市部はパニックに。まあ、見る側にとっては、そっちのほうが面白い。
ストーリーも良いが、巨大カマキリの完成度こそ最も注目すべき点。この年代の海外怪獣映画の中では頭一つ抜き出た出来栄えで、リアルなカマキリらしさを再現しつつも細部に怪獣らしいアレンジを加えたデザイン。表面の質感やディテールも素晴らしく、接写にも充分耐えうる作りだ。操演特有のゆったりした動きも巨大感を醸し出し、ごく自然な怪獣の動作を演出することに成功している。
造形だけでなくその撮り方も秀逸である。建物の中から外にいるカマキリを目の当たりにするシーンの合成、そして霧の中から顔を出すシーンがたびたびあるのだが、それがもう純粋にかっこいいのだ。終盤ではトンネル内でカマキリと対峙するのだが、そこではカマキリを含めて1/1スケールのセットが作られている。低予算ながらも迫力のある映像を撮る姿勢が貫かれており、良い怪獣映画を見せてもらった、という気分に浸れる、素晴らしい作品。
主要スタッフの経歴を調べてみると、このクオリティにも納得。プロデューサーのウィリアム・アランドは、「宇宙水爆戦」(1955)、監督のネイサン・ジュランは「地球へ二千万マイル」の監督でもあり、カマキリの造形を手がけたバド・ウエストモアは「大アマゾンの半魚人」(1954)にも参加していたという。そして特撮のクリフォード・スタインは「縮みゆく人間」(1957)等も手がけている。当時の特撮映画の大御所が集結した一本だったのである。
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