「戦慄!プルトニウム人間」(1957)……バート・I・ゴードン作品を観よう

原題「THE AMAZING COLOSSAL MAN」

製作国:アメリカ

監督:バート・I・ゴードン

製作:バート・I・ゴードン

脚本:バート・I・ゴードン、マーク・ハンナ

撮影:ジョセフ・バイロック

音楽:アルバート・グラッサー

出演:グレン・ランガン、キャシー・ダウンズ、ウィリアム・ハドソン他


 バート・I・ゴードンという名前をご存じであろうか。彼はアメリカ生まれの映画監督であり、50年台から80年台にかけて活躍した。そのフィルモグラフィーは、テロリストと刑事の戦いを描く「マッド・ボンバー」(1972)や、魔女の息子が姫を取り戻すための冒険を描くファンタジー映画「魔法の剣」(1962)などなど、バラエティ豊かだが、彼の本領は巨大生物モノにある。彼は巨人やら巨大化した動物やらをモチーフにした特撮映画を多数制作しているのだ。まあ、その多くはB級の低予算作品なのだが。


 代表的な作品をいくつか挙げておくと、巨大なイナゴの大群が人類を襲うという筋書きの「世界終末の序曲」(1957)。原子力は全然関係ない巨大クモ映画「吸血原子蜘蛛」(1962)。本物のネズミが無残に殺されまくる「巨大生物の島」(1976)(注・「SF巨大生物の島」ではない)等がある。このように巨大生物モノを撮りまくっていることと、名前のイニシャルを引っ掛けて「ミスターBIG」という愛称で親しまれている。


 そんな彼の映画の中から今回紹介するのは、「戦慄!プルトニウム人間」である。バート・I・ゴードン作品の中で最も有名……かどうかは知らないが、代表作の一つには違いない。タイトル通り、人間が巨大化する。


 主人公のマニング中佐は、プルトニウム爆弾の実験場に墜落した飛行機のパイロットを救出しようとして、核爆発に巻き込まれてしまう。全身に大火傷を負った中佐だったが、翌日には全快していた。さらに奇怪なことに、中佐の体は少しずつ大きくなっていた。目覚めた中佐は自身の体に起こった変化にうろたえ、混乱する。巨大化は止まらず、病室には収まらないのでサーカス用のテントに隔離される中佐。そしてついに精神にまで異常をきたした中佐は、テントから脱走してしまう。


 これまでの怪獣映画と異なる点は、やはり巨大化するのが人間であることだ。中佐は部下思いの優しい男だった。巨大化という悲劇が起こってしまったのも、パイロットを助けたいという正義感ゆえのことだった。そんな彼が巨大化するに連れて荒んでいき、八つ当たりのように暴言を吐き散らすさまは見ていて痛ましい。人としての理性を保ったまま、人でない存在に変わりゆく過程を描いた前半部分は、ドラマ部分も特撮部分も硬派な内容である。そう、わりと硬派なのだ。ここまでは。


 後半ではついに中佐が町中で暴れだす。特撮シーンは実写の背景に俳優をそのまま合成したものなのだが、なんとも微妙な出来で、巨人がなぜか半透明に見え、背景から浮いている。「世界終末の序曲」もこんな感じだったので、あまり期待はしていなかったが……。ラストシーンもかなりやっつけで、前半とのギャップが激しいのが惜しいところ。


 公開当時、本作はヒットし、翌年には続編の「巨人獣」が公開された。死んだはずの中佐が実は生きていた、という設定ではあるが、中佐を演じる俳優は別人に変わっている。ただ顔の右半分が潰れて人相が変わっているので、特に違和感はないが。

 この中佐はもはや完全に人間性を失っており、食料を求めてトラックを襲撃するただの怪物に成り下がっている。ちなみに本作はモノクロ映画だが、結末部分のみカラーという珍しい試みがなされている。

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