「地球へ2千万マイル」(1957)……金星怪獣イーマと象の異種格闘戦

原題「20 MILLION MILES TO EARTH」

製作国:アメリカ

監督:ネイザン・ジュラン

製作:チャールズ・H・シュニアー

脚本:クリストファー・ノップ、ボブ・ウィリアムズ

撮影:アーヴィング・リップマン

特撮:レイ・ハリーハウゼン

音楽:ミッシャ・バカライニコフ

出演:ウィリアム・ホッパー 、ジョーン・テイラー、トーマス・ブラウン・ヘンリー他


 「世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す」(1956)に続き、チャールズ・H・シュニアーとレイ・ハリーハウゼンが手がけた作品。ハリーハウゼンはもともとパリを舞台にした別作品に参加する予定だったが、その制作が中止され、代わりに本作の企画を提案。これはめでたく実現し、ハリーハウゼン待望のヨーロッパ旅行……もといヨーロッパロケが叶った。ただし、舞台はパリではなくローマだが。


 物語の発端は、アメリカが打ち上げた金星探査ロケット。めでたく人類初の金星着陸を果たしたが、地球へ帰還する途中の事故で、イタリアの海に墜落してしまう。ロケットには金星生物の繭が積まれていたのだが、ロケットから落ちて海岸へと漂着。それを地元の少年が拾い、知り合いの博士に売ってしまう。やがて繭からは手のひらサイズの生物、イーマが誕生。イーマは全身を鱗に覆われた、二足歩行のトカゲといった感じの見た目。顔の皮膚のたるみや、先端が二股に別れた長い尻尾が特徴。また脚部は鳥のような逆関節状のつくりで、着ぐるみでは再現できないデザインである。


 イーマは最初は小さかったものの、地球の大気の影響で急激に成長、というか巨大化し、檻を破って脱走してしまう。しかし「電撃に弱い」という弱点を突いて生け捕りに成功。動物園に収容される――この先の展開は言うまでもないだろう。やっぱり脱走して、今度は市街地に逃げ出すのだ。


 未開の地から文明社会に連れてこられた異形の生物、というイーマの境遇は「キングコング」を彷彿とさせる。ただイーマはコングと違ってもともと好戦的だったわけではないようで、地球の環境と人間からの攻撃によって戦わざるを得ない状況に追い込まれてしまったわけである。なんとも哀れな生き物ではないか。すべて怪獣は人類文明と相容れない存在なのだ、という事実に改めて胸が痛む思いである。


 終盤では、イーマが動物園の象と格闘戦を繰り広げる。ここが本作一番の見せ場だ。象もストップモーションで描かれるわけだが、この象のリアルさがまたすごい。体型から皮膚の質感までもう本物と見分けがつかないくらいである。この象とイーマの戦いは動物園を飛び出して市街地にまでもつれこみ、クライマックスにふさわしい見ごたえのあるバトルが展開される。


 さらにその後、イーマはコロッセオに逃げ込む。二千年前の古代ローマの遺跡と、二千万マイル彼方から来た宇宙怪獣という組み合わせ! 歴史のロマンとSFのロマンの見事な融合である。これをやりたいがためにローマを舞台にしたのではないか。象との格闘も良いが、こちらも本作を語る上で外せない名シーンだ。

 本作はモノクロ作品だったが、のちにハリーハウゼン監修のもとカラー化された。映像ソフトにはモノクロとカラー両方収録されているので、見比べることもできる。

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