「黒い蠍」(1957)……ウィリス・オブライエン晩年の傑作

原題「THE BLACK SCORPION」

製作国:アメリカ

監督:エドワード・ルドウィグ

製作:フランク・メルフォード、ジャック・ディエツ

原作:ポール・ヨウィツ

脚本:デヴィッド・ダンカン、ロバート・ブリーズ

撮影:ライオネル・リンドン

特撮:ウィリス・H・オブライエン

音楽:ジャック・クッカリー、ポール・ソーテル

出演:リチャード・デニング、マーラ・コーディ、カルロス・リヴァス


 怪獣映画では珍しくメキシコが舞台の一本。なんでメキシコかというと、人件費を安く抑えてアニメーションの制作費を捻出するため、であるらしい。特撮担当としてクレジットされているのは「キング・コング」のウィリス・オブライエン。ただし実際には多くのシーンを「猿人ジョーヤング」に参加していたピート・ピーターソンが手がけている。


 本作に登場する怪獣は、タイトルの通りサソリである。物語の冒頭、メキシコで火山の爆発が発生。主人公の地質学者は現地へ調査に向かう途中、大破した民家や殺された警察官を発見。その犯人こそが巨大サソリで、火山活動によって地上に現れたのだという。

 物語中盤に出てくる地下の洞窟には、サソリ以外にも様々な巨大虫が登場する。現代文明と隔絶された世界に古代の巨大生物が生きている、という秘境探検モノ的な要素は「ロストワールド」や「キング・コング」にも通じるところがあるが、実はここに出てくる尺取り虫(ミミズ?)やクモのモデルは「キングコング」撮影時に使ったものを流用しているのだという。「キングコング」には大量の虫が出てくるシーンが準備されていたが、結局はお蔵入りとなってしまっていた。その虫たちが本作で日の目を見たというわけだ。ちなみに2006年の「キング・コング」リメイクでは、虫のシーンも復活している。


 洞窟に話を戻そう。地下で巨大サソリの大群を目の当たりにした主人公たちは、洞窟ごと爆破して虫どもを一掃する、という計画を立案。そのまま実行に移される。これでメデタシ……となるわけもなく、難を逃れたサソリの群れが地上に這い出し、列車を襲撃。乗客たちを食い荒らすサソリたち。こんな大群相手に勝ち目はあるのか、と思っていたら一番デカいサソリが他のサソリを皆殺しにしてサソリ軍団は早速一匹だけになるのであった。な、なぜ……。


 巨大サソリはそのまま市街地に侵攻。サソリが群衆と重なるシーンは急に合成が雑になる――が、ラストの軍隊とのバトルは圧巻。大量の生肉によって巨大サソリをスタジアムに誘導すると、待ち受けていた軍隊が最終決戦に打って出る。サソリへと果敢に挑んでいっては返り討ちにされてしまうも、それでもなお攻撃の手を緩めぬ戦車隊。ときおりサソリの顔のドアップが挿入されるのが気になるが、怪獣と軍隊の白熱の戦いはやはり盛り上がる。サソリだけではなく、戦車やヘリコプターまでストップモーションで描いた熟練の職人技も見どころだ。この頃のオブライエンは公私ともに不遇な時代を過ごしていたようだが、そんなことを感じさせない力作であり、ストップモーション特撮の傑作である。

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