「世紀の怪物/タランチュラ襲撃」(1955)……本物を使った巨大クモ怪獣映画

原題「TARANTULA!」

製作国:アメリカ

監督:ジャック・アーノルド

製作:ウィリアム・アランド

原作:ジャック・アーノルド 、ロバート・M・フレスコ

脚本:ロバート・M・フレスコ、マーティン・バークレイ

撮影:ジョージ・ロビンソン

音楽:ジョセフ・ガーシェンソン


 ごく一部の界隈で「トカゲ特撮」と呼ばれる技法がある。主に海外で使われた技法だが、簡単にいうと、生きたトカゲを実写映像やミニチュアに合成し、巨大なトカゲ怪獣に見せようというもの。人形や模型を作る必要はなく、ストップモーションのような手間もかからない。出来上がった映像の良し悪しは置いといて、とにかくそういう撮影方法があるわけだ。代表的な作品はワニやトカゲ、イグアナに恐竜を演じさせた「紀元前百万年」(1940)、そのまんま大トカゲが出てくる「大蜥蜴の怪」(1959)などなど。日本でも「キングコング対ゴジラ」(1962)等で本物のタコを用いたシーンがあるし、制作中止に終わった大映の「大群獣ネズラ」という作品もある。


 本作もまた、本物の生き物を使って撮影されている。何の生き物であるかは言うまでもないだろう。制作はユニバーサル。1930年代~1940年代にかけて「フランケンシュタイン」(1931)「魔人ドラキュラ」(1931)「ミイラ再生」(1932)などを公開し、モンスター映画のジャンルを切り開いた老舗である。


 物語の発端は、一人の博士が将来の食糧難対策のために生み出した特殊な栄養素。これを投与されたネズミやモルモットは、異常な成長を遂げる。その実験台の一匹がタランチュラであった。実験動物はみな檻に閉じ込められていたが、博士と助手が争っているうちに、タランチュラが逃げ出してしまう。タランチュラは人や家畜を食い荒らしながら成長を続け、ついには家を押しつぶすまでに巨大化する。


 巨大タランチュラは本物のタランチュラをそのままミニチュアや実景に合成したもの――というと手抜きのように思われるかも知れないが、合成の違和感を極力抱かせないような丁寧な作り。タランチュラ自身も体色がほぼ黒一色なので、モノクロの画面に上手く溶け込んでおり、またゆったりとした動きも巨大感を醸し出している。なお動きが遅いのはハイスピードで撮っているのではなく、ただ薬を注射して動きを鈍らせているだけのこと。今なら動物虐待とか何とか言われるのだろうか。


 タランチュラが登場しないドラマパートでも、栄養素を投与された博士や助手の変貌ぶりが特撮的な見どころだ。人体実験と称して自身に栄養素を投与した助手は、末端肥大症が急速に進行し、怪人のような見た目になって野垂れ死ぬ。博士もまた発狂した助手に栄養素を投与され、最後には顔面が崩れたようになって大変不気味である。この特殊メイクのリアルさにも注目してみてもらいたい。


 ちなみにこの映画、若き日のクリント・イーストウッドの出演作として紹介されることもある。ただし出てくるのは最終盤、しかもちょっとだけ。それでも美味しい役どころをかっさらっていくイーストウッド。流石ですね。

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