「水爆と深海の怪物」(1955)……大ダコ、サンフランシスコ襲撃

原題「It Came from Beneath the Sea」

製作国:アメリカ

監督:ロバート・ゴードン

原作:ジョージ・ウォーシング・イエーツ

製作:チャールズ・H・シュニアー

撮影:ヘンリー・フロイリッヒ、レイ・ハリーハウゼン、ジャック・エリクソン

出演:ケネス・トビー、フェイス・ドマーク、ドナルド・カーティス他


 タコといえば日本人には馴染み深い食材だが、イスラム教やキリスト教では禁忌とされる場合があり、特に英語圏では「Devil Fish」などと呼ばれて忌み嫌われているそうだ。確かに8本の触手をくねらせる様は悪魔的であり、そのまま巨大化しただけでも、恐るべき怪獣になりうる。そんなわけで、タコはたびたび怪獣映画の題材となっており、海外の作品でいうと「海底からの怪物」(1954)や「テンタクルズ」(1977)などが挙げられる。

 また日本でも、円谷英二がゴジラ以前に「大ダコがインド洋で船を襲う」という企画を立案していたが、形にはならなかった。その後の東宝特撮作品では、大ダコ怪獣がたびたび登場。キングコングやフランケンシュタインの怪獣と戦っている。これらのタコ怪獣は、実在のタコをそのまま巨大化させただけの見た目なのだが、そんなタコ怪獣界の中でも異彩を放っているのが「帰ってきたウルトラマン」(1971)のタッコングであろう。このタッコング、タコはタコでも、茹でダコがモチーフの丸っこいデザイン。タコ好きの日本人ならではの発想である。


 さて、「水爆と深海の怪物」である。

 本作はレイ・ハリーハウゼンが「原子怪獣現わる」の次に手がけた長編作品であり、これ以降長きに渡りパートナーとなる、チャールズ・H・シュニアと初めて組んだ作品でもある。


 いまさら言うまでもないだろうが、今回の主役は巨大タコだ。この映画、海底に潜んでいた巨大タコが水爆の影響でエサが取れなくなったために、地上近くへ這い上がってきて人類を襲う、という筋書き。巨大タコは水面から触手を出して船を襲い、海岸にその巨体を晒し、そしてついにはサンフランシスコに現れ、ゴールデンゲートブリッジを破壊する――ここがこの映画の一番の名シーンだ。橋を締め上げる触手の微妙な力加減など、軟体動物の動きをリアルに描いている。


 ちなみにこの巨大タコ、実は足が6本しかない。低予算を補うための知恵であり、可動部を減らすことでアニメーション制作の手間を省いたのである。ただタコの全身が映る場面はわずかしかなく、よっぽど注意深く見ていても、足が6本しかないことには気付けないだろう。


 特撮はハリーハウゼンのおかげで出来が良いものの、特撮シーン自体は多くはない。全体的に低予算臭の漂う作品であり、当初はカラーの立体映画となる予定だったのだが、予算の都合でモノクロの通常形式の映画となっている(カラーライズされたバージョンはソフトに収録されている)。

 また本作の撮影にあたり、制作側はサンフランシスコ市に撮影の協力を要請した。しかし、タコに襲撃されるというストーリーを知った市はこれを拒否。そのためスタッフは隠し撮りやニュース映像等の流用によって、合成用の背景を作ったという。こういうエピソードからもB級感が迸っているが、まあ、観る側には関係のない話である。


 日本では1958年に公開された。その際にはドラマ部分を大胆にカットし、40分ほどの短縮版でお披露目されたという。これをソフトに収録してくれればいいのだが。

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