「原子怪獣現わる」(1953)……レイ・ハリーハウゼンの出世作
原題「THE BEAST FROM 20,000 FATHOMS」
製作国:アメリカ
監督:ユージン・ローリー
製作:ハル・チェスター、ジャック・ディエツ
原作:レイ・ブラッドベリ
脚本:ルー・モーハイム、フレッド・フリーバーガー、ユージン・ローリー、ロバート・スミス
撮影:ジャック・L・ラッセル
特撮:レイ・ハリーハウゼン
音楽:デヴィッド・バトルフ
出演:ポール・クリスチャン、ポーラ・レイモンド、セシル・ケラウェイ他
ゴリラ映画が3本続いたが、ここでようやく恐竜系怪獣のおでましである。その名はリドサウルス。北極圏で行われた核実験によって蘇った太古の生物で、長い尻尾に硬いウロコを持つ、四足歩行の怪獣だ。
核実験が怪獣を蘇らせる、というお馴染みの設定を初めて使った映画が本作である。また怪獣出現から都市部上陸への一連のプロセス、怪獣の帰巣本能から進行方向を予測するストーリー展開、そして怪獣に対する通常兵器の無力さ、特殊な兵器によって怪獣を攻略するといった描写は、以降の怪獣映画でも踏襲されていく、お決まりのパターンとなった。巨大怪獣による都市部への侵攻を描いた初めての作品でありながら、本作はのちの怪獣映画を構成する要素をすでに確立しており、このジャンルの基礎を築いた作品だと言っていいだろう。
監督を務めたのは、後に「怪獣ゴルゴ」を撮るユージン・ローリイ。そして特撮を手がけたのはレイ・ハリーハウゼンである。一人立ちしたハリーハウゼンの、本格的なデビュー作となった。ちなみに「リドサウルス」という名前も彼のイニシャル(R.H.→RHEDO SAURUS)から取られたという説がある(本人ははぐらかしている)。
本作の制作費は約二十万ドルという低予算であった。そこでハリーハウゼンはフロントプロジェクションと呼ばれる撮影手法を多用し、都市部のシーンの多くを実景合成で処理、ミニチュアも最低限のものしか作らず、コストと手間の削減に努めた。しかし安っぽさなど微塵も感じさせないクオリティで、ストップモーションの出来は言うまでもなく、音や照明を効果的に使った演出も見どころである。
ちなみにこの映画には原作があり、それがSF作家レイ・ブラッドベリによる「霧笛」という短編小説だ。といっても映画と重なるのは怪獣が灯台を破壊するシーンだけで、怪獣が上陸した理由も、霧笛の音を同族の声だと思いこんだから、というなんとも哀切を誘うものであった。なおハリーハウゼンとブラッドベリは友人同士だったが、ハリーハウゼンは原作のことを知らずに映画を作っており、のちにブラッドベリから話を聞いて驚いたという。またこの映画は、ブラッドベリにとって初の映画化作品となった。
本作は低予算ながらも大ヒットを記録。これをきっかけとして、「怪獣映画は安く作れる」という風潮が広まった結果、50年代は世界中で怪獣映画が氾濫することになる。その多くはやはり安っぽいB級作品であったが、「ゴジラ」という大傑作を生み出してもいる。
本作が怪獣映画の歴史に残した功績は大きい。「キング・コング」と並ぶ、怪獣映画のエポックメイキング的作品であり、必見の一本である。
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