「キング・コング」(1933)……怪獣映画の偉大なる始祖

原題「King Kong」

製作国:アメリカ

監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シェードザック

脚本:ジェームズ・アシュモア・クリールマン、ルース・ローズ

原案:メリアン・C・クーパー

音楽:マックス・スタイナー

特殊撮影:ウィリス・オブライエン

出演:フェイ・レイ、ロバート・アームストロング、ブルース・キャボット他



 主人公のカール・デナムは映画監督。彼は町でスカウトした万引き女のアン・ダロウと、大勢のスタッフを引き連れて、極秘の新作映画を撮るために航海に出た。目指すは、海図にもない島「ドクロ島」。そこには未知の巨大ゴリラが生息するという。やがてドクロ島に着いた一行であったが、アンが原住民に誘拐され、コングへの生贄として捧げられてしまう。ジャングルの祭壇に縛り付けられるアン。そしてついに、コングが姿を現した――!


 怪獣映画を語るなら、何をおいてもまずこの作品から始めねばならないだろう。怪獣映画の古典中の古典、「キング・コング」である。


 「キング・コング」は、1933年にアメリカで公開された。ジャングルの奥に潜む巨大コングを主役に据えた、この秘境冒険映画は、記録的な大ヒットを記録。業績不振に陥っていたRKO・ラジオピクチャーズを立て直し、後の特撮マンにも多大なる影響を与えた作品である。


 監督は秘境映画を撮っていたメリアン・C・クーパーとアーネスト・B・シェードザック。クーパーは霊長類に強い関心を持っており、「ゴリラが高層ビルの上で飛行機と戦う」というアイデアを出したのも彼である。また主人公のカール・デナムは自身がモデルであると語っているという。どんな危険も顧みずに冒険に情熱を燃やすデナムの姿は、きっと彼そのものなのであろう。


 そして特殊効果を担当したのが、ウィリス・オブライエンである。オブライエンは「キング・コング」以前にも、恐竜を描いた映画「ロスト・ワールド」をヒットさせていた。こちらも文明と隔絶された秘境を舞台にした映画で、恐竜が登場する。彼が未知の生物を表現するために用いた技法は、ストップモーションアニメ――つまりは人形を使ったコマ撮りである。「ロスト・ワールド」で多くの恐竜をリアルに描いてみせたその手法は、「キング・コング」でもいかんなく発揮されている。

 ドクロ島に生息する巨大生物は、コングだけではない。アンを攫ったコングが一旦退場した後は、現代ではありえない生物が続々と登場する。まずはステゴサウルス、そしてブロントサウルス。草食恐竜とは思えないほどいきいきと暴れまわる。さらにはでかいトカゲ、大蛇、プテラノドン――どれも作り物だが、それを忘れてしまうほどに目まぐるしいモンスターの釣瓶撃ち。戦前の白黒映画とは思えない。

 中でも盛り上がるのはコングとティラノサウルスとの死闘である。コングが自分よりも大きなティラノサウルスとがっぷり四つに組み合うさまは、コマ撮りとは思えない躍動感。ティラノサウルスは現代の復元予想図とは異なり、尻尾を引きずって歩く直立体型だが、そのどっしりと構えた見た目が、迫力があっていい。コングの方も身軽さを活かしてボクサーのようにティラノを牽制しつつ、飛びかかって力強く顎を引き裂く。顎にかけた手が滑ったり、ティラノの死を確かめる場面もいちいち芸が細かいところだ。


 物語後半では、コングはデナムたちに捕まってしまい、見世物にするためアメリカへ連れてこられる。大観衆の前に披露され、カメラのフラッシュを浴びたコングは怒り狂い、鎖を引きちぎり、ニューヨークの町中へと逃げ出してしまう。そしてアンを捕まえ、エンパイア・ステート・ビルの外壁をよじ登る。てっぺんに登ったコングを、複葉機の機関銃が攻撃する――怪獣映画史上最も有名なシーンがここだろう。最新兵器に対してコングも善戦はするが、最後は地上に落下し、絶命する。

「飛行機じゃなく、美女が野獣を殺したんだ」とは映画を締めくくるセリフ(をコング騒動を起こした張本人であるデナムが他人事のように言う)である。未開の地では王あり神であり悪魔でもあったコングは、文明社会の美女に心奪われた時点で、滅ぼされることが運命づけられてしまったのだろうか。


 先述したようにこの「キングコング」は大ヒット、怪獣映画というジャンルを切り拓いた。未開の土地に潜むモンスターと文明社会の対立というモチーフも、以降の怪獣映画で何度も用いられることになる。また本作はレイ・ハリーハウゼンや円谷英二にも強い影響を与えた。「キング・コング」がなければ、「ゴジラ」も存在しなかったのである。

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