第9話 この世界の仕組み


 儂は馬車に揺られながら、グライブに相手の身体の動きを見る重要性を語った。

 話を聞いてみると、グライブは戦闘中は武器を注視していたようだった。

 一見正しいように思えるが、実は大きな間違いだったりする。

 何故なら、武器を見ていると次の攻撃の予測が非常に難しくなるからじゃ。


 武器とは良くも悪くも一直線でしか攻撃が出来ない。振り下ろしも一直線、突きも一直線。横薙ぎも一直線。

 変に変化を加えようとすると威力が乗らないし、下手な奴が行うと身体のバランスも崩してしまう。

 そして武器は重さがある。

 故に斬り殺そうとすると、振りかぶるという予備動作が必要となる。

 ナイフはそこまで振りかぶる必要はないのじゃが、剣等の重さがある武器になるとそうはいかない。

 武器が重ければ重い程、一番威力が出る攻撃まで時間が掛かる。つまり振りかぶって勢いをつけないといけない。

 そして振りかぶる動作の位置で、すでにどのような斬撃を仕掛けてくるのかがわかってしまう。

 じゃから、下手な奴の武器での攻撃は、至極読みやすい。


 ここまで解説をしてやると、グライブは目を見開いて驚いていた。目から鱗が落ちているような表情じゃ。


「お前、あの戦闘の中でそんな事考えながらやってたのか?」


「逆にお主は戦闘中は何も考えておらんのか?」


「……いや、多分考えているんだろうけど、覚えてない」


 成程、こやつはその場その場で本能的に対処するタイプなのじゃろう。

 数多の修羅場を潜った強者がそういうタイプなら非常に厄介だが、残念ながらグライブはその域に達していない。

 スキルがあったとしても、我が流派一本でしか戦えない儂にはまだ届かない。


「今からでもいい、敵の身体の動きを意識するんじゃ。それだけでも生存率はぐんと伸びるぞ?」


「って言われてもなぁ。俺達のパーティは基本的に魔物を相手にしているからな。対人戦の経験が少ないんだ」


「ふむ、成程な」


 その魔物がどんな形をしているかは知らんが、ダンジョンに潜る為の資金を集める為に依頼を受けて稼ぐと言っていたな。

 となると、今後も盗賊に出くわしたりする事があるかもしれん。ならば対人戦も想定しないといけなくなる筈。

 ん? 対人戦の経験が少ない?

 まさか、こやつら……。


「お主ら、対人戦の経験が少ないと言っていたの。まさかパーティを組んだばかりか?」


「いや、自慢にはならねぇけど、今までダンジョンでそこそこ稼げていたんだ。でもそろそろさらに難易度の高いダンジョンを目指したいと思ってさ。そうなると今までの稼ぎじゃ足りないから、こうして初めて依頼を受けたんだ」


「ふむ、つまりお主らは魔物との戦いには慣れている、という訳じゃな?」


「そうだな、中級ダンジョンの魔物位なら倒せるな」


「中級?」


「ダンジョンには冒険者ギルドが定めた難易度が設定されているんだ。初級、中級、上級、最上級、超級、最超級、極級、最極級といった感じだな」


「冒険者ギルドというものがあるんじゃな」


「まぁな。ギルドがダンジョンを管理していて、難易度に対して実力が合うかどうかを過去の実績を見て査定して、許可を出す。その許可が冒険者の階級を示していて、俺は中級冒険者っていう立ち位置だ」


「それって凄いのか?」


「冒険者の三割位が初級のまま生涯を終えるらしいから、中級に上がるにはちょっと高い壁があると思った方がいいんじゃねぇかな?」


「……冒険者もなかなか大変じゃな」


 流石人生の冒険者。夢の為になかなかハードな人生を送っているようじゃな。

 魔物がどのような存在か全く知らんからな、あまりピンと来ないな。


「色々教えてもらってすまぬな」


「いいさ、命の恩人なんだからよ!」


 それでも、重要な情報をただで教えて貰っている。

 この異世界の知識がゼロである儂にとっては、十二分に貴重な情報じゃ。

 命を救った礼としては、あまりにも貰い過ぎている。

 ……ならば。


「グライブ、世捨て人の儂に様々な情報を教えてくれた礼に、馬を休ませている時間に対人戦の指南をしようか?」


「えっ、マジか!?」


「大マジじゃ」


「やったぜ! ありがとうな、リューゲン!! 知りたい事があったら遠慮なく聞いてくれ」


 なら、遠慮なく聞こうかの。

 儂は気になった事を片っ端から聞いた。


 まず魔法の詠唱の事。

 この世界の魔法は、この世界に君臨する六柱の神と八体の魔界の王に力を借りる。

 神々や魔界の王達は術者の詠唱に反応し、求められた部位を貸し出す事で魔法を放つ事が出来る。

 借りる部位に応じて魔力の消費が違っており、部位によってはとんでもない威力の魔法を放てるのだとか。

 神様が存在している世界なのか……。

《ファイヤーボール》は炎の神の指先を借りる魔法。指先であの威力か、他の部位はもっと高い威力なんじゃろうな。


 次に魔力。

 最近この世界の学者が解明したそうで、心臓付近に魔力を生成する器官があったのだとか。

 この内臓を《魔力器官》と名付けた。

 この魔力器官が大きければ大きい程、魔力を多く貯蔵出来るらしい。

 ちなみに魔力が切れると昏睡状態に陥ってしまう為、如何に魔力を切らさずに立ち回るかが課題となるのだとか。

 成程、昏睡を狙うのも有りか。

 この世界のエルフは、強大な魔力を所有しており、その中でハイエルフと呼ばれる種族は、エルフの数倍の魔力を持っているらしい。

 

 盗賊について。

 ファンタジーお決まりの盗賊も、この世界に存在していた。

 話を聞いてみると、どうやら組織を組んで盗賊団をやっているようだ。

 下部盗賊団を纏める中間盗賊団、中間盗賊団を管理する上部盗賊団。そして元締めが最上位なのだとか。

 極道か?

 先程の《赤鬼盗賊団》は、最近名を売り始めた下部盗賊団で、《鬼》という盗賊組織に所属しているのだそうだ。

 ますます極道じゃな。

 組織に所属したら、小指にその組織の紋章を刻印する。それが組織の一員の証なのだとか。

 もう極道でいいじゃろう……。

 組織が大きければ大きい程、資金が潤沢にあるとの事で、《鬼》は世界でも五指に入る程の巨大組織だそうだ。

 小指を切断すれば、討伐した証となり、盗賊団によって貰える褒賞金が変わってくるのだとか。

 成程、だからさっきグライブ達は剣で盗賊団の死体から小指だけを切断していたのか。

 あれはなかなかグロテスクで、直視出来なかったの……。

 拳の良い所は、グロテスクな死体を作らない点じゃな。


 最後はスキルについて。

 わざわざスキルの名前を言わないといけないのか、非常に疑問に思った。

 実はスキルにはレベルが存在していて、それは使用者本人しかわからないのだと言う。

 初期はレベル1で、レベル2になるとそのスキルの効果が増える。レベル3から4にかけては再使用時間の短縮。レベル5でようやくスキル名を言わずに発動できるらしい。

 どうやらスキルは連発出来ないようで、再使用には時間が掛かると言う。

 ノーリスクという訳ではないらしいな。

 スキル持ちと戦う際は、再使用がどれ程掛かるかも視野に入れる必要がある。

 魔法も魔力が高ければ詠唱なしで放てるが、威力は下がるのだとか。


 ふむ、今のところ必要な情報は揃ったな。

 ならば礼として、こやつらをしっかりとしごいてやろうかな、ふふふ。

 グライブの身体が一瞬震えた。

 儂の思惑を感じ取ったのかもしれんな。

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