第8話 アルカナ
「《アルカナ》とは、何ぞや?」
「ああ、世捨て人だと《アルカナ》もわからねぇよな」
馬車に揺られながら、グライブは語り始める。
「俺達はこの世に生まれた時から、この《アルカナ》が授けられる。《アルカナ》があればスキルが使えるようになり、数字が増えれば増える程使えるスキルの数が増えていくんだ。ちなみに俺の《アルカナ》は二つだ」
「成程のぉ。しかし、お主は何故儂が《アルカナ》がないとわかったのじゃ?」
「《アルカナ》を持っている人間は、感覚的にその数がわかるんだ。リューゲンには何も感じなかったからゼロなんだってのがわかったんだ」
ふむふむ。
同じ《アルカナ》持ちなら、相手がスキルをどれ位持っているのかわかるという事なんじゃな。
そこで疑問に思った。《アルカナ》の数字は最大でどれ位なのだろうか、と。
儂はそのまま言葉にして質問をした。
「ああ、今現在確認されているのは、最高で七つだ」
「ほう、七つもスキルを使えるとは、それは大変強いのだろうな」
「まぁな。《アルカナ》の一つ目と二つ目は《汎用スキル》と言われていて、主に身体能力の上昇や攻撃する際の威力を上げたり、直接的ダメージを緩和するスキルになっている。三つ目から四つ目は《攻撃スキル》と言われている」
「攻撃スキル……所謂必殺技みたいなものかえ?」
「まぁそうだな。通常の斬撃よりも段違いの威力を出せたり、鉄の鎧もバターみたいに柔らかく斬れるスキルもあるぜ」
(この世界にも、バターがあるんじゃな)
若返ったおかげか冴え渡っている頭に、グライブから教えて貰っている情報を記憶していく。
「では、五つ目から六つ目はどうなのじゃ?」
「そこからは《天性スキル》と言われていてな。その人の経験で発生するスキルだ。これは完全にオリジナルになっていて、この領域まで達した人は切り札として使っているな」
「ん? 領域に達した? この《アルカナ》の数字は後からでも増えていくのかえ?」
「ああ、増えていくぜ。生まれてからはほとんどの数は一つか二つ。まだ詳しく数字が増える条件は判明していないんだけど、恐らく凄まじい経験をすると増えるのではないかって、偉い学者さん達が仮説をたてているようだ。その仮説が最も有力とは言われているけどな」
「ふむ、ロールプレイングゲームのようにはいかないかの」
「ろ、ろーる……? まぁ何の事かわからんけど、今最も熱い研究だって言われているぜ」
そりゃ熱くなるじゃろうな。
スキルの数が増える《アルカナ》を増やせる条件がわかったら、きっと皆が数を増やそうと躍起になる。
誰もが強くなる可能性を秘めているからの。
まぁ儂は欲しいとは思わんがな。
「では、魔法は?」
「魔法もこの世界の住人は全員使えるんだ。今まで魔法が使えない奴はいないみたいだ」
「ほ、ほう、そう……なのか」
どうしよう、儂、使えないのじゃが……。
うん、指摘されない限り魔法が使えない事は黙っていよう。
そういえば、《アルカナ》がない人間はどれ位いるのだろうか。
グライブに聞いてみよう。
「ちなみにじゃが、儂のように《アルカナ》がゼロの者は結構おるのか?」
「いや、少ないな。一万人に一人って言われている程だしな」
「す、少ないの」
「ああ。今それが問題になっていてな、《アルカナ》がゼロの人間や亜人種は差別対象になっている」
「差別……いや、その前に、亜人種とは?」
「そっからかよ……。どんだけ閉鎖的な集落にいたんだ」
「いいから早く!」
「わかったわかった。えっと、魔法が得意で容姿端麗なエルフ、身長は小さいが繊細な指先と怪力が特徴のドワーフ、獣の一部を有している人間の見た目に近いハーフビースト。さらには獣の姿をしているが知能や喋る言語、二足歩行なのは人間と変わらないビーストロアだな」
おおぅ、さらにファンタジーちっくになってきたな。
まさかここまで異世界がファンタジーじみているとは思わなんだ。
儂の弟子の一人にアニメや漫画が大好きな奴がおって、そやつに半ば強制的に漫画を読まされた事がある。
戦闘ものでなかなか見応えがあったのは記憶していて、その物語でもエルフやらドワーフやらが出てきて、儂の記憶に残っていた。
まぁ別にハマる事はなく、それ以上の知識は一切ないのだがな。
「でさ、リューゲン。何でお前はあんなに強いんだ?」
「ん? ……何でと言われてもなぁ」
「だってさ、お前は《アルカナ》がないのに、奴等のスキルを悉く避けてたろ?」
「まぁ、造作もなかったがな」
「何故造作もなかったのか、理由が知りたい」
グライブの表情が真剣なものとなる。
「理由を知って、どうするのじゃ?」
「当然、強くなりたい」
「ふむ。強くなってどうしたい?」
「ない」
「潔い程正直な回答じゃな」
「お前ならわかるんじゃないか? 強くなりたいって思う事に、理由は必要か?」
儂は別に、誰かを守りたいからという綺麗事を並べたような回答は求めていなかった。
ただどういう理由なのかを知りたかっただけなのじゃ。
儂も結局強くなりたいという気持ちに理由はなかった。
ただただ、色んな相手と戦って勝って、乗り越える度に実感する成長を噛み締めていたかった。
強くなりたいという、純粋な気持ちを持って相手と向き合った。
この者になら、答えてもいいだろう。
「なら教えよう」
「本当か!? ありがとう!!」
「ただし、これは聞いたからと言ってすぐ出来るものではないぞえ? 長く長く実戦を経験し、極意を会得するんじゃ」
「……わかってる」
「宜しい。では心して聞け」
グライブが身を乗り出して、一語一句聞き逃さないようにと儂に近付いてきた。
男が近付いてくるのはやめていただきたいものじゃ……。
「よいか、常に相手の身体をじっくり見る事じゃ」
「……は?」
儂は、武道の極意に近い方法を伝えたが、短絡的過ぎたのかグライブの口から間抜けな声が漏れた。
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