届かぬ想い
ハイジ
「好き」という気持ち
今年もこの季節がやってきた。僕は準備を整えて夜の道を歩く。
「やあ」
目的地に着き、僕が短く挨拶をすると彼女は振り向き、怒ったように言う。
「もう、遅いよ!いっぱい待ったんだからね」
だが、その目には怒りの色は微塵もなくて、むしろ喜びに輝いていた。僕は彼女のそんな表情を見るのが好きだった。自然と笑みがこぼれてしまう。
「あ、今笑ったでしょ。私は怒っているんだよ!」
彼女に見つかり再び怒られるが、口角が上がるのは収まらない。
「……もう」
だんだん恥ずかしくなってきたのか、顔を背けてしまった。
そんな彼女も可愛くて、また顔が綻んでしまいそうになるがこれ以上は本当にへそを曲げてしまうので、僕は真面目な顔になって言うことにする。
「久しぶり。一年ぶりだね」
「うん。この一年何かあった?」
背けていた顔を向けて聞いてくる彼女に、僕は首を横に振る形で否定の意を示した。
僕らの間に少しの沈黙が流れる。だが、僕はこの沈黙に乗せるように静かに言葉を紡いだ。
「ねえ、今年も言うよ。好きです、結婚しよう」
僕の言葉に彼女は嬉しそうに微笑んだ後、どこか遠くを見るような表情になって言う。
「ありがとう、私も好き。でもごめんね」
答えはわかっていた。この数年間僕たちはずっと同じやりとりを繰り返しているのだから。
再び、二人の間に沈黙が流れる。しかし、二度目の沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「そろそろ行かないと」
「そっか、もうこんな時間か。全く、そんな顔するなよ。来年もまた会いにくるから」
悲しそうに言う彼女を元気付けたくてつい声が大きくなってしまう。
「……うん。約束だよ」
しかし、僕の気持ちは伝わったようで彼女の表情は幾分か和らいでいた。
「それじゃあ。またね」
「ああ、また来年」
僕が言い終わると、彼女はどこへともなく消えていってしまった。
「またね」
僕の小さなつぶやきは誰にも聞こえていない。
辺りには静寂が広がっている。微かに聞こえてくるのは風がささやく声だけ。
陽が昇り始めるに連れてどこからともなく蝉の声が聞こえてきた。この声はやがて合唱へと大きくなって行く。
僕はその合唱に耳を傾けながら墓地を後にした。
届かぬ想い ハイジ @6hige7
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