まおうさま
ラナがまおうさまから首飾りを貰ってから、いっぱい時間が過ぎた。
いっぱい人間が来て、いっぱい仲間が増えて、いっぱいお城が大きくなった。
まおうさまが頑張ったから、まおうさまのお城は世界で一番大きくなったんだって仲間の一人が言っていた。
でも、新しく増えた仲間の中にはラナの事が嫌いな子もいるみたい。
ラナのことを見るたびに「贔屓されているだけ」とか「弱いやつ」とか言って笑ったり虐めたりしてくる子がいる。そんな子に対して、他の仲間は「不届きだ」って言うけれど、たぶんあの子は食べても美味しくないよ?
まおうさまのお城が大きくなるたびに、お城にやって来る人間の数はどんどん増えていく。やってくる人間の強さもどんどん強くなってくる。
最近ではよくやられちゃうラナは、人間がいなくなった後で他の仲間と一緒に生き返らせてもらえるんだけど、ラナを嫌いな子が言った「弱いやつ」って言葉を思い出してとっても悲しい気持ちになるの。
昔はまおうさまのすぐ傍で戦っていたのに、今はとっても離れた場所を守ってる。もうほとんどまおうさまとお話しする事もなくなって、ラナはとっても悲しいよ。
だから毎日一日が終わるときに、ラナは首飾りを見ながら、あの時の嬉しそうなまおうさまの顔を思い出して眠るの。そうしたら、いつも夢の中でまおうさまととっても楽しいお話ができるから。
でも、それは昨日までのこと。
今日、やってきた人間たちはなんだかいつもと違った。
たった一人の男の子を先頭に、見たこともない大勢の人間がやってきた。
男の子はまるで光ってるみたいな子で、周りの人間たちも凄くやる気に満ちていた。もう何度もやってきてるからか、まおうさままでの道を知ってるみたいにまっすぐ突き進む人間たち。お城の端っこを守ってるラナは、そんな人間たちの様子を仲間から聞いて凄く嫌な予感がしたの。
ラナのところにも何人も人間が来ていたけど、まおうさまの所に行きたいってラナのお願いを、仲間たちは優しい顔で聞いてくれて、背中をおして送り出してくれた。
ラナは走った。
他人よりも沢山足があるからいっぱい早く走った。
まおうさまに近づくにつれ、嫌な予感はどんどん大きくなっていくけど、それでもあの素敵な、とっても偉いまおうさまがどうにかなるなんて信じたくなかった。だって、まおうさまはラナのまおうさまで、まおうさまはラナが守るんだもん。
「共に征こう、永遠を掴むために」
そう言ってくれたから。
だからラナは……
死なないでッ! まおうさま!
あと少し、あと少しで玉座の間に着くのに、突然ラナの沢山の足が絡まってラナは転んでしまった。立ち上がろうとしても体に力が入らない。なんで。
近くにいた仲間の子も、私に嫌な事をいう子もみんな体が溶け出している。なんで?
そして、まわりの人間たちは大きな声を出して喜んでる…… なんでッ?!
拳を突き上げ、剣を振り上げ、近くの人間と肩を抱き合いながら、一様に喜びの声を上げる人間たち。不思議と他の魔物と違い身体の溶け出さない
なんで、なんでなんで、なんでなんでなんでなんでッ!
「なんで魔王様が亡くなられたのに、貴様らはそんなに嬉しそうなんだ!!」
それは嵐のようだった。
先ほどまでの脆弱な身体と違い、二十六の触手がすべてを薙ぎ倒す竜巻のような猛威で辺りを蹂躙する。この私に剣をあげた愚か者も、周囲で魔王様の崩御を喜ぶ不届き者もすべてを狩りつくして。
再び何かがカチッと嵌るような音が聞こえた。
そして同時に流れ込んでくるもの。
それは――
「お前が私に死を告げる者…… 勇者、か」
「ラナには城の端の部屋を守らせておけ…… きっとあそこが一番安全だから」
「もう残された時間はあと僅かか…… ラナ」
「最近のあの子の様子はどうだ? 寂しそうにはしていないか?」
「ラナはいい子だなぁ。首飾り一つでそんなに喜んでくれて、私は嬉しいよ」
「なぜ、どうして届かないッ! どれだけ力を集めても永遠には届かないのか!?」
「ラナ、どうだ私たちの城だぞ! すごいだろう!」
「共に征こう、永遠を掴むために」
「魔王様、魔王様、なんで私なんですかっ?!」
………
……
…
「――ッ」
言葉にならなかった。
魔王様の愛情、紡がれる歴代の魔王と呼ばれた者たちの記憶。それぞれが託した次代への想い、願い。
溢れるのは言葉ではなくただただ頬を濡らす涙だけだった。
そして――
ばんっ、と勢いよく開かれた玉座の間の扉。
そこから現れたのは、私の魔王様を手にかけた勇者と呼ばれる少年。
周囲の惨状に驚愕し見開かれるその目を睨みつけ、私は口を開く。
「私とあの方で永遠を掴む。そのための最初の獲物は貴様だ、勇者ッ!」
勇者は気圧され一歩後ずさる。そこには光り輝く威光も、人類の希望としての力も何も感じない。目の前にいるのは。恐怖に染まったただの子羊のようなただ一人の少年なのだ。時代は移ろったのだ。前代の勇者たるソレは、私にとってなんの脅威にもなり得ない。
勇者の目は恐怖に染まり、がたがたと震える手で剣を構える。
「き、貴様いったい何者なんだっ!」
がたがたと震える手で剣を構える前代の勇者。
誰何をしてはいるものの、その様は全てを理解しているのだろう。
先ほどまで対峙していたのだ。当然といえば当然。だが、私は敢えて名乗る。それこそが私の魔王様に対する手向けでもあるのだから。
「知っているだろう? 私は神に挑むもの。貴様らが呼ぶ、魔王という名を冠する者だ」
継承のために首飾りは消失してしまった。
だけど、もう魔王様の笑顔を思い浮かべて首飾りを眺める必要もない。
魔王様の記憶は私の中に。
だから共に征きましょう、永遠を掴むために。
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