第2話「贅沢は敵度に」
ヒロ子の実家の長次の北家は分家に当る
長次には鶴次という兄が居て所有する広大な山林を元に製材所をしていた、これが俗に「山北」と言われる日田でも有名な製材所であった
ヒロ子の家族は長次が目が不自由であったせいか伯父の鶴次から長次一家に色々口を挟まれていた
ヒロ子も中学卒業後は高校に行くつもりにしていたが伯父に強引に経理学校に進学させられヒロ子が結婚するまでこの製材所で働く事になる
これは後々になって分かった話しだが鶴次の製材所の経理担当者が使い込みをしたので姪のヒロ子に経理をやってもらえば身内なら信用できるというそれだけの理由だったらしい
ちなみに兄の文隆もヒロ子より一足先にこの山北に就職していた
鶴次は日田でも有名な資産家であった
三隈川沿いにある山北の蔵の二階は百畳敷の蔵座敷になっており当時、仕事を理由に留守がちな伯父への腹いせに伯母は毎日のようにこの蔵座敷に料亭から仕出しを運ばせ芸者幇間を上げて文字通りのドンチャン騒ぎをして朝方、山北に出勤してきたヒロ子たちが宴会の後片付けをするのが日課であった
またこの伯母が大変な着道楽でこれも毎日のように呉服商や宝石商が出入りし西太后やクレオパトラに勝り劣らぬ贅沢の限りを尽くしていたがそんな生活をしていたせいで伯母は通風に悩まされヒロ子は伯母が通風の痛みに耐え兼ね七転八倒してその都度掛かり付けの医師が来て痛み止の注射を射たれている伯母の姿を見て
「ふん、ざまみろ」
と思ったが仕事のせいにして伯母をほったらかしにした伯父にも原因ありとも思っていた
この伯母の娘に久恵といふヒロ子の従姉妹がいる、子供の頃から仲良くしていた
ヒロ子に交際相手が出来た時も一番に久恵に相談した
久恵の後押しもあり兄の文隆に交際相手を紹介したが交際相手がやさ男だったのを気に入らなかったのか文隆が一喝
「どこの馬の骨とも知れん奴に大事な妹はやれん!!」
文隆も突然紹介されたヒロ子の交際相手に戸惑ったのもあったのかやはり親代わり的な思いもあり強い口調になったらしい
今では何事において考え方も柔らかくなったが当時はこんな風潮が当たり前でありヒロ子も諦めたが交際相手も泣きながら帰って行った
それから暫くしてヒロ子に見合いの話しが舞い込む
相手は久留米の伊田家の長男
家族構成は、祖母、母親に姉二人に見合い相手の長男の富美雄、弟二人、妹二人
祖父と父親は既に他界していたが結構な大家族である
ヒロ子は交際相手と別れたばかりと言うのとこんな大家族の長男とは一緒になれないと言う理由であっさりこの見合い話しを断った
それから一年後
また同じ見合いの話しが舞い込む
ヒロ子は考えは変わらないでいたが今回は見合いをしなくてはならない訳があった
妹キミ子が学生時代から交際していた笹山寛雄がいた
キヨ子から姉のヒロ子が結婚しないと自分たちが結婚しにくいと言う理由であった
文隆も寛雄に
「どこの馬の骨とも…」
とは言えなかった
寛雄は日田では有名な宝屋食堂の二代目で宝屋は当時は朝は8時から夜は22時まで開けていて駅前だけに駅員から職人、会社勤めのサラリーマンまで幅広く利用し、この頃からしょう油ベースのいりこだしのちゃんぽんが名物になり始め
「宝屋に行けば何でん食べられる」
と言われるくらい日田では宝屋を知らない人はいない程の大食堂であった
文隆もさすがに学校から手をつないで一緒に帰るキヨ子と寛雄の姿を見かけていて
「日田は狭い町やけん二人が付き合っちょる事は皆知っとる、必ず結婚すると約束するならこんままで良か」
キヨ子は早く寛雄と一緒になりたかった為に長女のヒロ子が先に結婚しないと自分たちが結婚できないと常にヒロ子を急かしていた
ヒロ子は見合いを承諾した
見合い当日
久恵が伊田家の婿の富美雄の居る座敷を覗いてヒロ子に
「ヒロちゃん、相手ん人、色の白うして首が長うてお医者さんみたいばい」
ヒロ子にとっては正直どうでも良い情報であった
ある程度は写真で知っている
気になるのは身上書のみ
小姑四人に弟二人
誠に困った事であった
しかしこの見合い、ヒロ子も富美雄もあっさり上手く行ったのである
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