ちょっとよらんの
東とおる
第1話「河童んこたある」
大分県日田
北ヒロ子、この時九歳.時は戦争真っ只中でした
「ほら、早う(早く防空壕に)入らんのじゃ!」
空襲警報が鳴る中、母のシマエに追い立てられる
「母ちゃん入らんと?」
「母ちゃんな後から入るけんがあんた達と父ちゃんが先に入らんのじゃ!!」
父の長次は目が不自由だったので兄の文隆とヒロ子、妹のキヨ子、マイ子を先に防空壕に入れる母のシマエは近所でも有名なしっかり者
戦争も終わり世間一般では食料事情が悪い中、シマエは畑を耕し米、麦、蕎麦、野菜を育て、長次は鍼灸院と、贅沢はできなかったが一家がひもじい思いをする事はなかった
母のシマエは典型的な戌年生まれで休んでる姿を家族はほとんど見た事がない
子供の洋服がなければ着物をほどいて洋服に仕立て直し、ヒロ子や兄妹たちはその仕立て直した洋服を着て学校に行くのが楽しみだった
また長次、シマエと大変な綺麗好きで梅雨入り前になるとシマエが家中の畳を上げて外に出して畳を叩いてる光景はヒロ子や妹たちも正直うんざりさせられた
また夏になるとヒロ子は近所の三隈川に川遊びに出かけるのが何よりの楽しみで
ヒロ子の川遊びは一緒に遊ぶ男の子たちより勝っていた
「ヒロちゃんな河童んこたある」
ヒロ子は外の子が遊ばないかなり深い所に潜って遊んでいたのも回りの子を驚かせた
当時、夏場の事故に盆提灯から火事、子供が川で流れて溺れたなんて事が必ず毎年どこかであった
ヒロ子は夏になるのが待ち遠しくこの時は大人になっても川遊びを続けるつもりでいた
兄の文隆、ヒロ子にとって優しい兄である、オモチャなどが手に入らない時代、廃材や空き缶などを利用してオモチャを作ってくれたりシマエが育てた小麦や小豆からド―ナツや回転焼などを作って家の前で店を出して売っていた、また芋が出来ると器用に看板を作り
「栗より上手い十三里」
と書いて回転焼と一緒に売っていたがこれが商売にはならなかった
文隆もシマエも天性のお人好しでほとんどを通りかかる近所の知り合いにあげていた
我先にと取り合い同然になる食糧難の時代に田舎とはいえ寄特な話しであるがそれだけにシマエの一家は近所の人から色々助けられてもいた
兄の文隆は目の不自由な父の次にヒロ子たちにとって第二の父親的な存在であった
ヒロ子のすぐ下の妹のキヨ子、ヒロ子の妹らしくこれまた活発な少女であったがこれはこれで皆を困らせる事があった
言い出したら聞かないのである
シマエがキヨ子に内緒でこっそり買い物に出かけようとするのをキヨ子が見つけると自分も連れてけとひっくり返ってワーワーわめき散らすのは日常茶飯事
ある時、キヨ子の毎度のワガママが始まると家族でキヨ子の話を無視する習慣がある、キヨ子は台所から水の入ったバケツを持ってきて
「ここに水ばかけるけんね!」
家族は無視…
「本当にかけるけんね!!」
無視…
「かけるばい!!」
まさか誰も食事中の茶の間に水をかける訳がと思っていたがバシャッ!!
本当に水を茶の間にまいたのである
これにはシマエも激怒したがキヨ子も泣きながら
「かけるって言うたやん!!」
まぁ確かに…後に大食堂を切り盛りするようになるキヨ子の少女時代の一コマである
またこの頃にヒロ子に幼い妹たちができ、ヒロ子が生まれたばかりの五女のミナ子を背中に背負い子守りをしながら家の裏の川で洗濯してから小学校に向かうのが日課であった
ヒロ子には兄の文隆、妹のキヨ子、マイ子、カヨ子、ミナ子、兄以外は戸籍上皆、カタカナ
それは当時、出生届けは男親の役目で兄の文隆が生まれた時はかろうじて目が見えていたのでまだ漢字が書けたが長次がヒロ子が生まれた時あたりから目が少しずつ不自由になりカタカナなら書けたのでそれで届け出たからというやむを得ない事情からだ
長次も目が不自由ながら楽しみはサイダーと祭り囃子と堀田町の家の前にはサイダー屋があり夏の日田の祇園山笠や大原八幡宮の大祭には必ず家族揃って出かけていた
妹たちもすくすく成長しヒロ子も中学卒業を間近に控えていた
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